Phase3-2 It's hazard
リョウは、首相を情け無用で殴り飛ばした。
「ここでくたばれ……」
リョウが、銃の引き金を引こうとした瞬間━━
「くたばるか! クソが!」
首相が煙玉を撒いて逃走していってしまった。
「くそ…………タクミ、すまない……タツヤを…………」
リョウが、息絶えたタツヤを視認した瞬間に、謝罪した。
「いや、いいんだ。こいつは……やりたいようにやったからな……」
涙を堪えて、タクミはリョウにそう言った。
「あぁ……。リョウ。『全て』を知りたいか?」
「何を言っている?」
『全て』。その内容は、タクミとアヤカしか知らない。
「いや……聞かない方が幸せだ。お前がそれを知ったら……」
「そうか。知る理由がないのか。ま、"日常"を取り戻すためには、こいつを殺すしか道はない。こいつの存在自体が━━」
「リョウ! タクミ! クワガタが……」
アヤカが、クワガタが肥大化していくのに気付いた。
そのクワガタは、そのまま拡大する様に大きくなっていき、最終的には高さ20m程までになった。
「何が……とにかく、戦闘開始だ」
リョウが銃を取り、ブースターによる飛行を開始した。
「それで戻ってきたわけか……まて、ミハヤとヒカリは何処にいる!?」
その2人がいないことに気付いたタクミ。通信でミハヤに連絡すると……
『タクミ……今、関門海峡辺り…………どうすればいいの?』
元気の無いミハヤの回答。それに対し、タクミは……
「状況は知らんが、"非日常"だ! 急いでくれ! 俺は変身できない!!」
急いで来るように伝えた。
『分かったよ』
直後、通信が切断された。
「リョウ……」
通信を終えたタクミが、心配そうに宙を舞うリョウを見ていた。
「硬い…………仕方ない、『Sブースト』だ」
Sブースト。それは、先程タクミが使用した強化形態である。
リョウが、2番のボタンを押した。
「うわっ!?」
「何!?」
周囲を燃やすように炎が生成され、龍の如くリョウの元へと向かう。
「ぐあっ……」
リョウは、猛烈な熱さの中にいる。
正に地獄とも言える程の炎の中、リョウは強化の波動に耐えていた。
「俺がここでやらないと…………」
しかし、強き意思とは裏腹に、強化に時間がかかっている。
「時間稼ぎ……私もやるわ」
それに気付いたアヤカが、デバイスのボタンを押し、レバーを倒した。
ブースターで飛行中のミハヤとヒカリは、到着直前にクワガタの姿を確認した。
「ヒカリ……2番押してみる」
「え、うん…………」
試験的に、ミハヤが2番のボタンを押したのだが……
「うぅ……苦しいぃ……」
胸を抑え、移動を止めたミハヤ。
「ミハヤちゃん!? やめた方が……」
ヒカリが近寄り、ミハヤを止めようとしたが……
「ぁ………………」
ミハヤが苦しむのを止めた。
「まさか……」
ヒカリが思い出した、その雰囲気。
力が抜けた感じがして、そして…………
目が、赤く光る。
「ここまできて……暴走……!?」
暴走。
それは、ミハヤがデバイスを使い始めた時、自我を保てなくなり、力に支配されて、敵味方関係なく攻撃するようになった状態だ。
まもなく夕暮れ時という時間なのに、その周囲だけが既に夜と化していた。
赤く光る眼差しは、クワガタを視認し、その機械は即座に移動を開始した。
赤地に白帯。
黒地に赤帯のパーカーを羽織ったその姿。
リョウの強化が完了した。
「早くしなさいよ……硬すぎるから……」
1人、硬い甲を破壊しようと試みるアヤカ。
だが、破壊どころか、ヒビも、傷も入れられない。
「どけ。俺が仕留める━━」
構えた銃の口には、炎が集まり形成された、巨大な銃弾が存在した。
リョウが引き金を…………
その時、周囲が闇に包まれた。
「この闇の広がり方……まさか」
リョウは、その闇の起点を察した。
リョウの目の前に来た、黒いマント。
リョウの目の前に来た、紫帯。
リョウの目の前に来た、黒い帽子。
ミハヤが杖を持って、戦場に舞い戻って来た。
「戻って来たか……よし、俺はミユを探しに行ってくる。頼んだ」
リョウは、その場から離れていった。
その目が光っていることを知らずに。
ミユは、小倉城近くの警察署に拘留されていた。
デバイスは、既に首相に奪われていた。
ミユが、監視役に質問する。
「どうするつもりなの……?」
「さぁな。首相の指示を待つ」
「待ってる間に……きっと……きっと……助けに来てくれる…………私はそう信じてる」
「何を言っているんだ」
「リョウのことだよ。あの人なら、色々愚痴を言ってでも駆けつけてくれるはず」
ミユは、根拠の無い望みを願い続けていた。
「北原ミユは何処にいる!?」
「あぁ!?」
リョウは、SPの胸ぐらを掴み、ミユの所在を問い質した。
「知るか! あんな手先一家の娘なんか」
「どういうことだ!?」
「知らないのかよ! 北原家は東山首相とつるんでいる! 今までのこういうのも北原家が関わっている!」
「戯言を言うなッ!」
激昂したリョウが、銃口をSPに突き付けた。
「ああわかった! 警察署だ! 城近くの! そこにいる! 命だけは勘弁してくれ! 家族がいるんだ! 俺はあんな奴を守るなんて仕事が嫌なんだ!!」
銃口を突きつけられたSPが命乞いをした。
「━━そうか」
リョウは、居場所を確認した瞬間、警察署方面へと飛んで行った。
リョウは、飛行中にこう考えていた。
(馬鹿な……今まで育った場所の母体が……俺は常にあいつの掌の上で転がされていたのか……!?)
SPが言い放った事柄について。
それは、首相が言い放った事実なのだが、リョウはその話を聞いていない。
半信半疑。
リョウの脳内を説明するならば、それだけで十分と言える程、単純に『そうだ』か『違う』かの区別しかできない状態だった。