Phase2-2 Full boost
保津峡へと通じる隠し通路を通るのは、祖父が殺されて戦意を失ったミハヤと、そんなミハヤを背中に担ぐリョウと、足の痛みに耐えながらミハヤを支えるヒカリ。
「今どの辺りだ!?」
「30分歩いたよ……」
疲れを見せてきたリョウ達。
と、通路を曲がったその先に……
「「扉だ」」
銀色の扉。
そこまで、目測り200m。
最後の力と言うと語弊があるかもしれないが、それと同等の力を振り絞って、扉まで確実な1歩を歩んでいく。
「「もうすぐ……保津峡!」」
リョウが銀の扉に手を掛けて、ドアノブを回すと……
「すごい…………」
ヒカリが目を輝かせた光景。
「森…………」
リョウまでも言葉を失う程の光景。
碧き山々の中に、川のせせらぎが聞こえてくる。
山鳥が鳴く中に、風で木々が揺れる音が聞こえてくる。
鉄橋のある風景に、濃い緑色の電車が止まる。
保津峡への脱出に、3人は成功した。
急遽、新幹線で小倉まで戻ってきたタクミ達。
新幹線口から徒歩7分程度の場所に位置する、『あさの汐風公園』に来た。
そこに、無防備に仁王立ちしていたのは……
「首……相……」
首相だった。
両腕には、ミユの物であるはずのデバイスが装着されている。
「で、誰が参加するのか?」
「俺だ」
戸惑うことなく、タクミが名乗り上げた。
「そうか。じゃあ、参加費は……そこのメガネ、お前でいいな」
「え?」
首相は、タツヤに指を指す代わりに……
「そんなこと聞いてませんよ!?」
「言っただろ。『参加料を誰にするか決めてこい』と。代金の代わりに命を払ってもらう。お釣りは死だ」
銃弾を一つ、額に『払った』。
「やっぱ狙うなら額だな。簡単に殺せる」
首相の狂った笑いの中、タツヤはハヤトと同じように頭から倒れていった。
「な…………」
手が震える。
それの要素は、恐怖と、悲しみと、そして……
「お前……ふざけるなよ」
怒りだった。
感情任せの1歩が、雑草を苦しめる。
感情任せの1歩が、地面を抉る。
感情任せの1歩……その音の間隔は、次第に短くなっていく。
タクミが、デバイスの1番のボタンを押す。
橙色の破片が、タクミの周囲を回っている。
直後に、白っぽい光がタクミを包む。
タクミが、デバイスのレバーを倒す。
破片が、乾いた金属音を発せながらタクミに組み込まれていく。
橙色の帯を纏い、タクミが太腿を軽く叩いて、刀を呼び出す。
刀のコードをデバイスの穴に挿し、その刀は電流を纏い出す。
「……殺す」
ブレーカーが落ちたような音。
タクミの代わりに、黒い煙が立ち篭める。
煙と、焦げた芝生のその先。
アヤカは、あるまじき光景を目の当たりにした。
「デバイス……ミユの……」
白地に青帯。そしてマントと帽子。
両手には拳銃を模した武器。
低く、唸ったような笑いはミユのものでは無い。
首相が、ミユのデバイスを使用していた。
「咄嗟の判断だな。只者というわけではなさそうだ」
「当然だ。この程度の判断が出来ずにして、何が首相だ……そう思うだろ?」
「お前が『国のリーダー』を名乗る資格はないッ!!」
刀に流れる電流が増していく。
近くの電柱にも電流が伝わり、その電圧で電灯が割れてしまった。
「やってやる。お前を殺して……日本を救う!」
タクミの発言に、首相が高く笑った。
「本業を忘れて『殺す』?『日本を救う』? 馬鹿か。お前がすべきは"非日常"から北九州を守ることだろ?」
「お前の存在が"非日常"だ! 親友が打たれる日常などあってはならないんだよォ!!!」
そう言った瞬間、タクミが『2番』のボタンを押した。
「がァっ!??!?!?」
タクミの身体中に電流が駆け巡る。
凄まじい発光。凄まじい音。
その中では、帯の色と地の色が逆転し、2本の刀を両手に構えたタクミがいた。
身体中に電流が走るタクミの脳内には、タツヤとの日々が走馬灯のように映っていた。
一緒に勉強したり、事ある事に一緒に遊んだり……
そんな『親友』、北島タツヤは、あまりにも理不尽な理由で撃たれた。
━━もう、痺れだとか、負荷だとかは考えない。
━━もう、生きるか死ぬかなんて、考えない。
━━今俺にある意思は、『敵討ち』だ。
「うおおおぁぁぁらああああああ!!!」
走る電気の音を貫いた雄叫び。
タクミは、レバーを戻し、再び倒す。
そして……
橙地に白帯。装甲の色は白地に水色帯。
微量の電気を身体に纏い……
「お前を……斬るッ!!」
首相目掛けて駆け出して行った。
それぞれの手に刀を持ちながら。
「お前……面白いな」
首相が鼻で笑った。
だが、その笑いには余裕が無い。
タクミは、それを見抜いていた。
「心に隙があるぞ!」
タクミが、首相に斬りかかった。
2本の刀はX字を描き、首相のスーツはその部分から煙を放ち出した。
とはいえ、まだ傷自体はない。
それ程、このスーツの防御力が上がっているのだ。『あの時』から。
「耐えるな……ただ、体力は確実に減っている」
タクミのゴーグルに映し出された首相の体力ゲージは、満タンから9割になっていた。
「もう……これしかないか」
首相が、レバーを引いた。
「なら……俺もそうする。勝算しかないけどな!」
タクミも、レバーを引いた。
「ライトニングフィニッシュッ!!!」
「わ、技名……もういい!」
電流で構成された巨大な刀。
「喰らえぇぇぇぇぇッ!!!!!」
振りかざされるその刀を、首相は全力の水流で止めようとするが━━
「弱いッ!」
刀は、水流を打ち破った。