Phase2-1 Emergency exit
※今回は、かなりショッキングな内容を含みます。要注意。
嵯峨嵐山駅。
有名な観光地である、嵐山の近くに位置するその駅に、リョウとミハヤに、ミハヤに担がれているヒカリの3人がいた。
そこから徒歩20分。
3人は、ミハヤの実家の前にいる。
「大きいな」
「うん。南沢家は結構金持ちだから」
いかにも『京都らしい』和風建築の屋敷。
和の模範例とも見て取れる。
大きな木製の門を通りこさせるように、
「おじーちゃーん?」
ミハヤが声をかけた。
すると、家の中から……
「その扉は開かん。塀を乗り越え……」
「バカ言わないでよ! 怪我人とレ○プされて体力をなくした人がいるのよ!?」
……鈍く擦れる音。
巨大な木製の門が開かれた。
「あぁ~重たいわい」
「開くのかい……とにかく話は後。匿って」
「…………望団か。匿おう」
入ったのは地下室。そこには……
「なにこれおじいちゃん!?」
謎の蓋が、床に備え付けられていた。
「そいつは脱出用だ。これを伝っていくと、保津峡駅付近に行ける」
ということで、3人は暫く隠居をする……と思われたが。
「突撃ィーッ!」
凄まじい足音が、天井越しに聞こえる。
銃の弾を装填したと思わしき音も聞こえた。
その一部始終は、天井越しで全て聞こえていた。
「お前が南沢ケンゾウだな!『反逆因子生産』の容疑で処刑する!」
「待て! 反逆だと!? そんなこと━━」
重く低い雨音のような音。
何かの液体が垂れる音。
肉がちぎれ落ちたような音。
「え……?」
ミハヤの思考回路が止まってしまった。
(時間が……仕方ない。ここは脱出だ)
リョウが、力を振り絞って蓋を開けた。
「ミハヤ! ヒカリ! 逃げるぞ!!」
ヒカリは、ミハヤの元へと駆け寄った。
「ミハヤちゃん! 逃げないと……」
「おじい……ちゃん……」
放心状態になったミハヤを、リョウとヒカリが引きずりながら、脱出口の中に入った。
ミハヤの実家には、首相が足を踏み入れていた。
「南沢ミハヤが生き延びた……か。反乱因子の南沢家は全滅とは行かないか」
「そうですが……やはり、一つの血統を断つのはあまりにも……」
近付いた兵士は、目の前に転がる、先程まで人だったトマトの様な塊に、少し顔を引き攣らせたのだが……
「お前も『反逆罪な』」
首相は持っていたライターを点け、その火を軍服に放った。
「「「!?」」」
「あ"あ"あ"あ"あ"…………僕にも"……家族がぁ"ぁ"ぁ"…………」
苦しみながら燃えていく兵士。
首相は、追い打ちをかけるように、右足と右腕にも火を放った。
「撤収。このまま放置だ。この家が焼け落ちたら消防を呼べ。3人ぐらい、勝手に来た消防に脅しをかけておいてくれ。ここは『因子』の住処だからな」
燃える人炭は転がり、大きな柱に衝突して止まった。
火が柱に燃え移り、家が焼け落ちていく。
首相は、敷地外からその有様を笑って見ていた。
酒に、日の丸があしらわれた扇を扇ぎながら。
そして、笑いながら。
薄暗い通路を進むリョウ達。
リョウがミハヤをどうにか背中に担ぎ、後ろからヒカリが痛みに耐えながら支える。
「あぁ……痛いっ……」
「ミハヤ……正気を取り戻せよ……」
どうにか保津峡まで。リョウとヒカリは、その想いで全力でミハヤを連れて逃げていった。
ホテルでは、タクミ、タツヤ、アヤカの3人が集まっていた。
「ミユが政権にさらわれた」
「どうするの?」
「明日……いや、今日も我が身……みたいね」
ロビーで、ミユを含めた4人分の荷物を床に置き、椅子に腰掛けて、今後についての話をしていた。
「とにかく……ミユがどこにいるかだ。それに……」
「リョウ達も……」
そこに、ロビーにあるテレビが絶望的なニュースを伝えてきた。
『えー、2007年以降に"反逆因子"とされた南沢家ですが、本日、南沢家を壊滅させたという発表がありました』
「嘘……でしょ」
南沢家壊滅。それは間違いではない。
南沢家は、ミハヤだけしか生き残っていない。
『南沢』の名を残すことは、不可能な話となってしまった。
ただ、3人はミハヤ達が生き残っていることに気付かない。
『ミハヤを含めた3人が死んだ』と、思い込んでしまった。
「……大阪にいる意味は無いな」
「どうするの? 僕達だけで政権を倒すの?」
「無茶な話ね。3人ではとても……」
『おーい、タクミくーん?』
「「「なっ!?」」」
突如として、タクミのデバイスから首相の声が流れてきた。
『面白いから、北原ミユは北九州で処刑する。その方が、絶望的だろ?』
「ふざけたことを言うな! 今すぐに……」
『ならば! 北九州で決闘だ。俺がこれを付けて戦う。勝てば俺は政治の世界から立ち去る。そして、北原を解放する。ただし……』
「ただし……?」
『負けたら、北九州に爆撃を仕掛け、壊滅させる。北原も、戦闘機から落として殺す。さぁ、どうする?』
あまりにも両極端な取引を持ちかけられた。
「なにか裏があるはずよ。手堅く北九州でミユを救えばいい話」
「タクミ……」
頭を抱えて悩むタクミ。
ある意味、今、北九州とミユ、さらには日本の運命を握っているのはタクミなのだ。
(どうする……? こいつとの勝負に勝てば……だが、負けた時の代償が大きい……)
その瞬間、タクミの思考が大きく傾いた。
「面白い賭けだ……大きな賭けには大きな対価があるからな……受けて立とう」
「「!?」」
『面白い心意気だ! 参加料を誰にするか決めとけよ! 小倉駅新幹線口の公園で決闘な!』
通信が終わった。
タクミの発言に、タツヤとアヤカは、言葉を失った。
「何を言っているのよ……」
アヤカが呆れ、
「タクミ……」
タツヤが心の底から心配している。
そして……
「もう、俺たちしかいないんだ。ここでやるしかない」
誰よりも、タクミがこの状況を恐れていた。