Phase1-3 Crazy girl
「リョウ!? 居るなら返事して! 帰るよ!」
こじ開けた扉から、護送車の中に入り込み、リョウを探す。
車内は暗く、さらに……
「うわ……なんか臭い」
車内は、老人の寝室のような匂いと、発酵させた脇汗のような匂いが混ざったかのような匂いで充満していた。
と、布で覆いかぶさった何かが。
ミハヤがそれをめくると……
「…………酷すぎる」
全裸で、全身にあざが残り、滅茶苦茶にされたリョウが横たわっていた。
半目を開き、思考を完全に停止させている。
「━━ミハヤか。何なんだろうな。知らない奴から散々にされるしさ…………」
ミハヤを虚ろな目で見つめながら嘆くリョウ。
「知らないよ! ……あんた、帰るよ」
ミハヤは、雑に投げ捨てられていたリョウの制服などを着させ、リョウを背中に担いで、車外に出た。
「なぁ……重くないか?」
「私より軽いと思うぐらいに軽いから」
「済まないな。本来なら、俺がお前を担ぐのが普通なのに」
「こんな状況なんだし、いいでしょ」
「そうか。それと……」
「何?」
「俺のことを、どう思っている?」
その質問を耳にした瞬間、ミハヤは足を止めて、ベンチにリョウを座らせて、ミハヤもその左隣に座った。
「どうした?」
いきなり座らされたリョウは、やや困惑していた。
そして、ミハヤが想いをぶつけた。
「正直……あの時の決闘の時から、『何アイツ』だとか思ってたよ。ただ、ミヅカの面倒をしっかり見たり、会長と楽しくしていたから、根はかなり良い奴なのかなって。そんなものかな」
「そうか……」
リョウが少し笑った。更に続けて質問した。
「俺は、お前が挙げた2人を失った。そして、親の手によって、こんな目になってしまった。どうすればいい?」
「知らないよ。ただ、1つ言えることは……」
「何だよ」
「私は、あのジジイを殺す」
「…………過激派、か」
「そうなるね」
ミハヤが、その過去の全てを明かす。
私の両親と兄は、『反東山政権』を掲げて活動していた。
2003年頃に第1次東山政権が発足して以降、政権批判は弾圧の対象となってしまった。
当時の東山政権は、今よりはまだまともだけど、それでも狂っていた。
全ての税金を3倍に、表現の規制、国政の絶対権力化……やっぱ狂ってる。
そして2007年9月6日。
私は、当時は京都市民だった。
市内のショッピングセンターのゲームセンターで遊んでいた時……
両親と、兄が刺されて殺された。
私はトイレにいて難を逃れたけど……
私だけが、生き残ってしまった。
この件は、『犯人不明』で片付けられているけど、私にはわかる。
東山政権によるものだと。
南沢家と、大阪の堺市に住んでいる南田家は、親戚同士。
だから、私はヒカリの元に逃げ込むことが出来た。
でも、小学校の入学式の時に……
『潔く殺されぇや!』
黒服にサングラスをかけた人の集団が、刀かなにかを手にして乱入してきた。
どうにか逃げることが出来たけど、もう関西にはいられない。
だから、北九州に逃げてきた。
だけど、そこでも『親がいない』という話だけが一人歩きして、散々な目にあった。
いつしか、そういうことを言ってくる奴を殴ったり蹴ったりしていくようになった。
護送車のドアを蹴破れたのも、そこからだと思う。
……多分、私も狙われている。
今まで捕まらなかったのが奇跡なレベルで。
いや……もしかしたら狙われないようにされている…………
「……お前も、隠し事があったのか」
「そう。ある意味、同じね」
ある意味同じ。リョウとミハヤの共通点は、『首相に狙われている』こと。
「下手したら……一緒に逃げるなんてこともあり得るな」
面白半分で、リョウが冗談を言うと……
「な、何を言ってるのよ!? そんなのはありえないからねっ!?」
何故かミハヤが頬を赤く染めさせて、手を振り回しながら照れていた(?)
そこへ、少し駆け足でヒカリがやってきた。
「大丈夫!? ケガは……うわぁ…………」
リョウは半袖の制服を着ているのだが、付着した血に、殴打された痕。
リョウは、誰が見ても事件に遭ったとしか言えないような姿だった。
「……帰るか」
「だね」
リョウとミハヤが立ち上がった瞬間のことだった。
「危ない!」
ヒカリが、リョウとミハヤと突き飛ばした。
2人はベンチの後ろに転がるように落ちた。
直後、無数の放物線が、2人の目線の先を通過した。
放物線と同時に、重くて低い音が、駅前に響き渡っていく。
2人は、慌てて車の陰に隠れた。
街灯や、バスや車などが窪んでいく。
窪んだ所から、僅かな煙が立ち込める。
「ヒカリ!? 大丈夫!?」
ミハヤがヒカリの方を見た。
そのヒカリは、物陰に隠れており、右脚を抑えていた。
抑えている手は、赤く染まっている。
「大丈夫……。痛いけど……」
通信越しで、大丈夫だと言うヒカリなのだが、それとは裏腹に、苦しい表情を見せていた。
銃声が止んだ。直後に、怒鳴り声が。
「つまんねーんだよ! 黙って殺されぇや!」
「非国民めが!!」
「反逆者には死を!!」
『反逆者には死をッ!!!』
恐ろしい程に大きくなる罵声。
ミハヤは、右脚を抑えているヒカリを背中に担いで、リョウの右腕を掴みながら駅へと逃げていく。
「とにかく、駅に逃げるから!」
ミハヤの走る速さは、2人を連れていても衰えることはなかった。




