Phase1-2 Bullet train
6人は、ミユの家の応接間で緊急会議を行っていた。
「もう……ハヤトは……」
ハヤト。彼は1時間前、反逆罪という謎の罪により、その場で処刑された。
「考えても意味ないよ……。とにかく、リョウを救う以外には……」
とても高校生が話す内容とは思えない。
息苦しい雰囲気の中、6人が決めたことはただ一つ。
リョウを救う。
首相の独裁の犠牲者を、これ以上増やしたくない。
その意識が、6人に共通して存在していた。
だから、この決意が生まれたのだ。
「とにかく、皆で新大阪まで行こっか」
ミユが、応接間にある謎のボタンを押した。
「なにそれ?」
「『札束サモナー』。北原は、こうやってお金を差し出して、取引をしているんだよね」
そして、執事が諭吉の札束を大量に持ってきた。
「何枚ご必要でしょうか」
「とにかく大量に要る」
そして、執事が50枚以上あると思われる諭吉を差し出した。
「ありがとう。リョウの為なら……これぐらいは当然…………!」
高校生が諭吉を50枚以上も持つという、到底有り得ない状況を作り出せるのが、北原の財力なのだ。
北原家が用意したワンボックスカーに乗って、6人は小倉駅へと向かっていった。
小倉駅の新幹線ホーム。
6人は、新大阪方面へと行く列車を待っていた。
「そろそろ来るかな」
「もうすぐっしょ」
『まもなく、13番のりばに━━』
少しして、白地に青帯の車両が入ってきた。
ドアが開き、降りる人を待って、乗り込んでいく。
乗ったのは、小倉駅最終の『のぞみ』である、のぞみ98号の7号車。
運良く、6人分の指定席が空いていたので、そこを取っていた。
2つある3列の座席に、それぞれ3人ずつ座った。
この移動に笑いは無い。
窓際に座るミハヤとヒカリは、車窓から流れるように移り変わる風景を、憂目で見ていた。
タクミとタツヤは、通路側で警戒している。
ミユは、頭を抱えて塞ぎ込み、それをアヤカが慰めている。
家族連れの笑い声や、サラリーマンのノートパソコンのタイプ音が聞こえてくる中で、この6席だけが異様な雰囲気を放っていた。
岡山発車後。
車内の電光掲示板のニュースには、あのことが伝えられていた。
『東山首相、北原学園附属高校にて、望団の団員である西空ハヤトをその場で処刑。また、西原リョウを確保し、現在移送中。残る団員も、明日以降に追跡すると話している。何れも反逆罪にて。』
「ヤバいぞ」
6人は、急いで持っていた帽子を深く被った。
「嘘だろ……またあのジジイか」
「ちょっとあなた……聞こえたら殺されるわよ」
「まともに暮らして行けねぇ……」
車内からも、不安の声が聞こえてくる。
「とにかく……リョウを……」
「どうにか……」
重苦しい空気を乗せて、列車はひた走っていく。
新大阪に着いた。時刻は、22時28分。
ここから、リョウを移送している車が休憩の為に停車するという、高槻へと向かう。
列車が着いた。新快速。
これに乗って1駅で、高槻に着くという。
「これでいいの?」
「うん。……まさか、再びこれに乗る日が来るとは思わなかった」
「え?」
「いや……何でもない」
ミユが、ミハヤに乗る列車の確認を取ったが、ミハヤが『過去』を思い出して、顔をしかめた。
何でもない。そんな嘘をついて、どうにか誤魔化したミハヤ。
新快速に乗り、高槻へと向かっていく。
リョウを乗せた護送車は、現在岡山県内にいる。
ここで、サービスエリアに行き、リョウを置いて食事を摂りに行った。
強制的な行為は中断され、リョウは1人、汚い車内に取り残されていた。
(脱出は出来ないが……デバイスの通信機能……伝わる気がしないが…………)
投げ捨てられたかのように転がっていたデバイスを手に取り、デバイスの通信機能を使おうとする。
リョウは衰弱している為、変身の負荷には耐えられない。
「出て……くれ…………頼む…………」
新快速の車内。まもなく高槻だ。
「で、ここに来てどうするの?」
護送車は、そこまで速く移動は出来ない。
今、それが高槻駅前に居るのは、ありえない話である。
「待ち構える。近くのホテルに泊まって、代わり番で駅前のロータリーを見張る」
タクミの判断によって、到着後の行動はそうなった。
と、ミユがデバイスのノイズに気付いた。
「なんか聞こえる?」
「え?」
「ザザーって」
音量が小さすぎるが、テレビの『砂嵐』のような音が鳴っている。
しかしその音は、電車の減速音によって、掻き消されてしまった。
高槻で下車し、通信を試みるミユ。
「もしもーし?! もしもーし!!」
大声で叫んだため、駅にいる人全員の視線が集まってきた。
しかし、ミユは動じずに叫び続けた。
その時。
『…………くれ………………たのむ………………』
微かに聞こえたその声。
6人とも、それを聴き逃しはしなかった。
「リョウ!? どこにいるの!?」
『岡山県内だ……』
「大丈夫!? 声が震えているけど……」
『もう……キツいな…………。寝させてくれ』
通信が切られた。スピーカーからは、ノイズさえも聞こえない。
「大丈夫……かな?」
「迎えに行くにはもう時間が……」
まもなく23時。高校生が歩くには、宜しくない時間帯になる。
「……ホテルに行こっか」
近くにあるホテルの中へと、6人は入っていった。
翌日の午前7時。
朝5時から、高槻駅前で張り込んでいたミハヤとヒカリ。
「確か、護送車って統一で黒地に赤帯になったんだよね?」
「そう。格好付けて、何様のつもりなんだか」
リョウが乗せられた護送車は、黒地に赤帯。
東山政権下で、最近作られた護送車は、全てこの色。
それ以外も、3分の2がこの色。
世間一般では、『血で作った帯を纏う人殺し熊』などと言われている。
「何で、黒地に赤帯なのかな……?」
「スーツの色。リョウの奴は『白地』に赤帯。あのジジイがリョウを嫌うなら、正反対の『黒地』にしても可笑しくないはず」
ミハヤが、こじつけのような説を出したのが、それは、かなり信憑性の高いものだった。
「まぁ、有り得るかもね。……あれは?」
「黒地に……赤帯!」
言っていた通りの車体の色。
言っていた通りの車体の帯。
……護送車だ。
「聞き取り調査開始……!」
「え、待って!?」
ミハヤが、全力で護送車の元へと駆け抜ける。
あまりにも速すぎる為、ヒカリは追いつけずにいた。
「速すぎるってば……」
「西原リョウはどこにいるの!?」
何故か持っているカッターナイフを、運転手の首に突き付けて、ミハヤがリョウの居場所を問い質す。
「この中だ……命だけは……!」
「もういいよ」
ミハヤは、突き付けたカッターナイフを遠ざけた。
「この中なんだよね?」
「お、おう……」
「ならば、ぶっ壊す」
ミハヤが、女子どころか、男子でも言わないようなことを、軽々しく言い放った。
それを聞いた運転手は、変な笑いを浮かべて、どこかへと走って逃げて行ってしまった。
そしてミハヤは、
「スゥー…………」
息を吸い込み、
「しゃぁッ!!!」
気合を入れて、
「おりゃあああッ!!!!!」
全力の回し蹴りを、護送車の扉にぶつけていった。
……外れかける扉。
……揺れる車体。
ミハヤの蹴りは、人間離れしたものだった。