Phase3-3 Judgement fate
小倉駅付近の公園。
そこには、巨大化したクワガタと、それに応戦するミハヤ、ヒカリ、アヤカと、再使用待機中のタクミ、そして息絶えたタツヤがいた。
「北原のところに行きやがったか……」
傍観していた首相は、SPを引き連れて警察署方面へと向かっていった。
ブースターによって飛行しているミハヤ。
その目は赤く光り、言葉は何も発しない。
簡単に言えば、彼女は自我を失っていた。
ヒカリが戦場に立っているのは、ミハヤが街を破壊しないようにするための抑止力のようなものだ
でもある。自らやっていることなのだが。
アヤカは、地に足を着け、クワガタの脚を破壊することに専念する。
タクミは、タツヤを抱えて建物の陰に避難していた。
ミハヤが攻撃を開始したのだが━━
「え、必殺!?」
「離れた方がいいわね」
「了解した! 出来るだけ離れる!」
ミハヤがレバーの手をかけ、引いた。
直後に、ミハヤの目が紫に光る。
その瞬間……
「地鳴り!?」
「何を起こすつもり……!?」
「だぁっ……立てねぇ……」
凄まじい重力。
クワガタを中心に、地球のものとは思えない程の重力が襲う。
地面にめり込むように、クワガタが潰れていく。
残骸が、轢かれた亀のように散乱した。
「やったみたいね……」
アヤカが、安堵の表情を見せたのだが……
「止めないと」
ヒカリが、ミハヤのデバイスのレバーを戻そうとした━━
━━が。
赤い眼差しは、ヒカリを向いた。
「ヒカリ! 離れて! 杖に魔力が溜まっていってるわ!」
「無理だよ……私も2番を……」
ヒカリが2番のボタンを押した。
その瞬間、闇がヒカリを包んだ。
だがしかし、その闇を打ち破る程に眩い光が。
「やっぱり……ミハヤちゃんを止められるのは……私ッ!!!」
レバーを戻し、再び倒した。
眩い光を引き連れて、大きな翼を広げ、光る輪の様な機械を頭上に浮かべさせたその姿。
それは正しく『天使』そのもの。
ヒカリが、輪形の機械を手に取って、それをフリスビーの様に投げる。
それから発現される光彩幻覚によって、暴走したミハヤを混乱させる手に出た。
周囲に浮かぶ、無数の矢印。
その矢印の先には、龍の幻が舞っていた。
ミハヤは、矢印を辿った先にある龍を視認し、ブースターで飛行し、左手に持つ杖に、魔力を蓄えていった。
「よし、今だ!」
ヒカリは、ミハヤが左手を突き出した隙を狙い、右腕のデバイスにあるレバーを戻そうと試みた。
だがしかし。
「ヒカリ! これは罠よ! 近付いたら負けよ!」
ヒカリがミハヤに接近した瞬間、黒い円錐が10個ほど生成された。
その鋭い先端は、10個全てがヒカリに向いていた。
「え……避けられ……ない……!」
円錐は風を切り、ヒカリを狙って高速で直進してきた。
ヒカリは避けられるはずも無く、幾つかの円錐が直撃した。
ヒカリはバランスを崩し、空中から地面へと叩き落とされてしまった。
「くそ……いつになったら目を覚ますんだッ!」
「ヒカリ! 目を覚まして!」
アヤカとタクミの必死の呼びかけで、ヒカリが目を覚ました。
まだ変身は解除されていない。
「うっ……アヤカちゃん…………大丈夫!? かなり傷まみれだけど……」
ヒカリが見たアヤカは、肌が露出している部分がある程に破れたスーツを身につけいる状態だった。
「20分ぐらいどうにか時間を稼いだけど……もう、抑えられなかった。今は小倉城付近でリョウが応戦しているけど……」
ここで、リョウから通信が入った。
『残酷なことを言うかもしれないが…………許してくれ。これを使って暴走した場合は、俺でも止められない。自力で止めることなど…………』
「……だから、どうするの?」
『俺が…………全て背負う』
ヒカリは、その言葉の意味を直ぐに理解した。
「私がやるよ。手を出さないで」
『だが……城も百貨店も何もかも……』
「なら、壊されるものは無いよね。手を出さずに待ってて」
ヒカリが通信を切り、即座に小倉城付近へと向かった。
アヤカも、それを追って行った。
タクミは、抱えたタツヤの亡骸を建物の陰に安置し、近くに止まっていた花屋の車から、ある分全ての花を取り、タツヤに添えた。
「行ってくる……」
タツヤに手を合わせて、タクミは走って小倉城方面へと向かっていった。
「まさか……ヒカリ……」
リョウは、躊躇いながらも指示に従い、ヒカリを待っていた。
あの発言から、ヒカリが何をしようとしているのかは目に見えていた。
その時、ヒカリがリョウの前に立った。
「ミハヤちゃんはどこに行ったの……?」
「…………恐らく、西の方に向かっている」
「早くしないと、北附に辿り着いちゃうよね」
ヒカリは、ミハヤのいる方へと歩んで行った。
「通信で━━」
「いいよ。これは、私とミハヤちゃんの話だから」
ヒカリは、リョウの方を向いた。
目元だけが見えるヘルメットなのだが、ヒカリの表情は、目元だけで分かる程に、悲しみに支配されているものだった。
「許してくれッ…………」
リョウは泣き崩れた。
ミハヤが、黙々と住宅地を破壊している。
赤く光るその目は、探知機の様に動く。
それに行き先などはない。
ただただ『壊す』。
それだけだ。
「ミハヤちゃん!!」
そんなミハヤに、大声で声をかけたヒカリ。
赤い眼差しは、ヒカリを向いた瞬間に、攻撃を開始した。
しかし、その攻撃を、振り払ったヒカリ。
「ミハヤちゃん……楽にしてあげる。私と一緒に…………」
ヒカリは全力で駆け出した。
ミハヤが放つ攻撃を回避しながら。
そして、ヒカリが、ミハヤに抱きついた。
「ッ!?!?!?」
同様しているのかは分からないが、赤い眼差しは揺れている。
「一緒に……いつまでも一緒だから……」
ミハヤを強く抱きながら、レバーを引いたヒカリ。
翼が離脱し、それの羽1枚1枚が弾丸と化し、ヒカリとミハヤがいる方へと向いた。
私たちはずっと一緒だよ。
いつまでも、いつまでも━━
ヒカリが、そう語りかけた。
光る弾丸が、迫り来る。
━━そうだね。ずっと一緒。
どこまでも、どこまでも━━
ミハヤが、優しい声で答えた。
最期に、2人が声を揃えて、こう言った。
これが……
闇と、
光の、
協奏曲。
ミユを引き連れたリョウが到着した。
続けて、タクミを引き連れたアヤカも到着した。
4人が目の当たりにしたのは━━
「2人共……笑っている……かしら」
散乱するデバイスの部品と、肉片。
そして、強く手を握りあっている……
2つの手がいた。