06_総務はハードワークです5
誤字脱字等、ご容赦下さい。
……幼女に見下ろされる俺。
以外と萌えシュチュエーションか?!
って、いかん、いかん。俺、そういう趣味じゃないはずだし。
むしろ、ボインなお姉さんに手取り足取り、腰取りか希望なんだけどなぁ…って、何、訳分からない事考えてるんだ?!俺。
そんな、不遜な妄想に引き込まれそうになる浩市に、ドア隙間から声が掛かる。
「あの…、どちら様でしょうか?」
浩市は慌てて立ち上がると、ドアの前から飛び退く。
「えっと、私は前島浩市と申しますが、私も、良くわかって無いのですが、ここは何処でしょう?」
…自分で言っておいて、アレだが、質問に質問で返すとか、間抜けな返答だよな。と思いつつも、ここで、日本語での意志疎通が出来ることに少し驚く。
そして、ここが日本語が通じると言うことは、何かの事件に巻き込まれたとも考えられる。
その返答の前に、浩市という邪魔者が避けた事で、目の前のドアが開かれる。
先程から顔を覗かせていた少女の全体像が表れると、彼女はぎこちなく笑顔をむけながら言った。
「私はパッシェン・ナハト。ここはプルートサーバーテストルーム。あ。もしかして、LWのプレイヤーさん?」
ここでLWと言う単語を聞くとは思って居なかったが、プレイヤーかと言われれば、イエスと言うべきだろう。
「あ、はい。一応…。」
「あ。それなら、もしかして、フェイブルアール参加者ですよね。」
「プルートサーバー?テストエリア?ふぇいぶるあるー?」
「プルートサーバーのテスト期間イベントですよ。どうぞ、こちらへ。」
何の事か理解が追い付かない。しかし、彼女はお構い無しに、ドアを更に大きく開け、芝居掛かった仕種で浩市を中へ誘う。促されるまま、パーテーション内の部屋へ進む。
「これ、よかったら…」
と言ってパッシェンが部屋の中入り口近くの下駄箱から、スリッパを引き出し、揃えて床に置く。
言われて、自分が裸足であることに改めて気がつく。さらには、スエット上下である。先週末洗濯したやつだから、臭くは無いはずだが…、心配になって袖口の臭いを嗅いでみる…。
娘に臭いと怒られる、平井室長の気持ちが少し分かった気がする。
パッシェン位の女の子に臭いと告げられたら、そのまま永眠したくなるほどのショックだ。幸い、多少の無理矢理感は否めないが、笑顔で応対してくれている。その事は考えない様にしよう、と心に誓う。
案内された室内を見回す。部屋の中央部にはオフィスのようにレイアウトされた、デスクセットが6つ。それぞれのデスク上にはPCモニタとキーボードが置かれている。その奥に、更にもう1つドアが見える。
向かって右側には、応接用なのか、休憩用なのか、ソファーセットがある。そのソファーテーブルにはお菓子が並んでいる。
左側には2.5m四方程の鉄骨フレームと、そのなかにチューブや配線を接続した、何やらSF映画的な球体の機械が設置されている。
「とりあえず、こちらへ」
右側のソファーへ案内される。
案内されるまま、ソファーへ腰を下ろす。
「ちょ、ちょっと、待ってて下さいね」
パッシェンが、あたふたと、ソファーテーブルの上を片付ける。大量のお菓子を抱え、器用に奥のドアを開け、奥の部屋へ消える。
奥の部屋からは何やら声がきこえる。奥の部屋は倉庫か給湯室か何かだろうか。パッシェン以外にも人が居るようで、話し声が聞こえる。
奥の部屋から、パッシェンが出てきて、浩市の座るソファーの向かいに座る。
浩市は向かいに少女が座るというシュチュエーションに改めてどぎまぎする。
女性と向かい合って座るなんて、叔母さんの強い進めで数年前に行かされたお見合い以来だ。困ったように視線を動かしながら、向かいの少女の様子をこっそりと観察する。
歳は12、3歳位だろうか。中学生位か?
細く長い手足に小さな顔、その顔はそばかすの浮いた白い肌とくっきりとした目鼻立ち、いかにも欧州人のその容姿はモデルやタレント、と言っても通じるかもしれない程の可愛らしさである。ダボッとしたTシャツはメタルロックな感じでhellの文字とドクロのプリントがされている。
日本語が堪能で、浩市との受け答えも問題ない。しかし、何故こんな女の子がこの一画を自由に闊歩しているのか?
まるで自分の家のように過ごしているが、今までの情報を総合すると、ここはLWの運営会社の一部の様だ。そんな所に中学生が居るのは些か不自然でもある。
「改めまして、私はパッシェン・ナハト。story the lost worldを運営する、株式会社ヴェルトの総合企画室長、プルートサーバー管理責任者よ。ここは、LWの新サーバのテストルーム。」
そう言って、ハーフパンツのポケットから、ケーキやクッキーなどの可愛らしい意匠がプリントされたカードケースを取り出し、名刺を差し出した。こんな女の子が、責任者であることに違和感120%ではあるが、常識を心得たサラリーマンである浩市は、条件反射で名刺を推し戴くと、胸元に手を入れ名刺入れを出そうとし、じぶんがスエットである事を思い出す。パッシェンの名刺を確認し、ソファーテーブルに置く。
「ご丁寧に、ありがとうございます。生憎、名刺を持って来ていないようなので…私は前島浩市、山科電気株式会社、総務部です。」
思わず、畏まって挨拶を返す。
「で私は、何故ここにきたのでしょうか?」
真面目な顔と口調で、間抜けな事を言っている自覚は有ったが、ここは致し方ない。
「えっと…、部下があなたをここへお連れしたのだけど、手違いがあったようですね。事情を説明してないようなので、私からお話しますね。」
パッシェンから語られたのは、
LWの新規開発中のサーバーには新しくVR要素を盛り込むべく開発されていたが、その要素を盛り込む為には従来のLWのインターフェースでは足りなく、この部屋の隅に設置されたような、大掛かりな機材が必要となったこと。
その為、オープンテストなどが出来なく、こうして、テストをしてくれるユーザーを招待していること。
どうやら、浩市はテスト参加者として、ここへ呼ばれたこと。が分かったが……。
「で、何でここにきたのでしょうか?」
そもそも、浩市は自宅のモニターの前に居たはずだ。そのまま、訳の分からぬうちにここへ来ていた。犯罪臭がプンプンである。しかも、ベルト社のサーバー室と説明されたが、この部屋以外の様子はわかっていない。
良く有る詐欺の手口に、貸し会議室などで打合せを行い、大きな本社ビルと誤認させ、安心感を与え、契約を行う、何て言うものもある。
ここが、ベルト社の建物かどうかこの状況からは判断出来ない。
「えっと、それはですね。ベルト社独自に開発中の、転移装置で、あなたのご自宅と、このテストサーバルームを繋いで、お越し頂いたんです。」
「…………はい?」
転移装置?なんだそれ?どこでもドア的なやつか?
いやいや、そんなもの存在するのか?東スポなら食いつきそうなネタだが、常識人は、ハイそうですか、なんて納得出来ない話だ。
「転移装置とは、何なのでしょうか?それと、テスト参加者として選ばれたのは良いとして、こんな急に連れて来られても…、やっぱり、良く分からないのでもう少し噛み砕いてご説明を頂けないでしょうかね?」
「えと。EPRペアのエンタングルメントにより、あなたの量子情報をコピーしてあなたの肉体を再構築したの。それと、プルートサーバーは通常のサーバーと言うのと少し違っていて、デジタルの仮想空間を内包した記憶媒体ではなく、平行五次元空間へ重力と同じ様に自由移動することを可能にした空間よ。」
何を話しているのかさっぱり分からない。自慢ではないが、浩市は、所謂三流大学の工学部出身だか、証明式で白飯が三杯食べられるような、バリバリの理系ではない。相対性理論は一応読んだが、半分は理解できなかった。
「………え。あ。えんたんぐる?再構築?平行五次元?良く理解できないのでもう少し噛み砕いて…。」
パッシェンは不機嫌そうな表情を作ると、どのように説明すべきか、悩んだ風に黙り込んでしまった。
「失礼します。お茶をお持ちしました。」
声の主は若い男性だった。ソファーテーブルにコーヒーを並べ始める。コーヒーの良い香りがふわりと漂い、浩市の鼻腔をくすぐった。
そして、その男性はパッシェンの座る席の横に収まると、名刺入れを取り出し、名刺を浩市に差し出した。
「事情もご説明せず、この様な場所へお連れ致しました事、お詫び申し上げます。どうやらこちらの手違いがあった様で、ご迷惑おかけいたしました。私、犬門 番二郎、と申します。ナハトのサポートを担当しております。」
スポーツマンタイプのガッチリした体つきの青年が、爽やかに話を続ける。年の頃は二十代後半だろうか。浩市とそれほど歳が離れていないとは思うが、黒髪短髪、浅黒く日焼けしたその顔と、鍛えられた体つきは、ネトゲ廃人の浩市とは対照的である。名刺には総合企画室サポート係となっている。
「お詫びと言ってはなんなのですが、LW内データに前島様の領地や基地となる場所をご用意する形でいかがでしょうか。」
爽やかに犬門が取り引きを提示する。
確かに、LW内に領地が手に入るのは有難い。しかし、どの様なエリアで、どのくらいの広さなのか、そんな物で人を釣ることが必要なのか。
「他にも、このテストプレイの参加協力金をお支払いする形を取らせて頂きますが、いかがでしょう?」
旨い話には裏がある。こんな良い条件を提示するからには何かしら問題があるのか。そもそも、自宅から見知らぬ場所へ来て、ベルト社のサーバールームです。転移装置で来ました。と言われたところから、おかしいのだ。
例え、そんな斜めな思考だからモテないマンなのだと世間様に言われようと、ここは、もう少し状況把握をしてから決断すべきである。
「大変、有難いお話ではありますが…、何分、突然のお話で、どの様にお答えしたら良いか、少し検討させて頂けますか。しかも、この状況で、多少混乱しておりますし。」
そう、浩市が切り出して、出されたコーヒーカップに手を伸ばす。
「あ。それ、飲まない方が良いよ。切れ者番犬はおっかねーな。ちゃんと説明してやれば?」
突然、後ろから、声を掛けられる。思わず、コーヒーカップを持ち上げた姿勢のまま、そちらを振り返ろうとして、コーヒーが跳ねる。慌てて、ソーサーにカップを戻す。向かいの二人の様子を盗み見ると、犬門はそちらをギロリと一瞥すると、前のめりになっていた上体をソファの背もたれへ預ける。パッシェンの方は諦めの表情を浮かべると、困ったように声を掛けた人物の方を見やる。同じ様に浩市も、そちらへ視線を動かす。
犬門と同年輩程の青年。犬門と違いラフなオフィスカジュアルと言うのか、チノパンに綿のジャケット、ウェーブがかった茶髪。山科電気で言うと、広報部や企画部なんかに居そうなタイプだ。
「ここ、何処だか分かってる?」
砕けた口調でそう、話しかけてくる。浩市が返答に窮していると、パッシェンがため息混じりに口を開く。
「六木、お客様には敬語。そこ、座りなさい。」
「部下が失礼しました。こちらは六木真一。犬門と同じ様に私のサポートをしているのよ。」
パッシェンは浩市に向き直り、頭を下げる。それと同時に、六木と呼ばれた青年は浩市の左隣のソファに腰を下ろし、パッシェンに向かって不満気に口を開く。
「良いじゃん。そんなに、怒らなくたってさぁ。本当の事話せばさぁ、わかってくれると思うよぉ?」
「……あの。結局どう言った状況か分からないのですけれど…。」
思わず、浩市がソファテーブルを囲む3人を見回しながら聞く。
パッシェンが再びため息をつく。
そして、諦めたように、口を開く。
「……ここは、ベルト社のテストサーバールームで有るのは事実よ。でもね、冥界の入口でもあるのよ。」
消えた中身の再現をしていたら、少し表現を変えたい欲求に駆られ、回り道を大分してしまいました。ストックを作成すべく頑張っております。宜しくお願い致します。