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冥府の王と黄金の魔方陣  作者: 山猫亭ぶち助
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04_総務はハードワークです3

誤字脱字等、ご容赦下さい。

「はぁ~?」

 思わず、心の声が漏れ出てしまった。慌てて、辺りを見回す。書類作成室の方はそんなことも気にせず、黙々と業務を続けている。改めて文面を見返す。


 意味がわからない。いやはや手の込んだ悪戯か。もしや隠しカメラがあるのかと、挙動不審な程、辺りを見回す。ふと、見上げると壁掛け時計は5時20分になろうとしている。


 今夜はギルドメンバーと、6時30分には約束している。ギルマスが行かない訳には行かない。慌てて、その紙の間に、封筒のポケットに入っていた宛名帳票を挟み込み、それを持ってロッカールームへ急いだ。

 作業着を脱ぎ、ロッカーに掛け、ジャケットを着る。鞄を出すと、その中に先ほどの謎の郵便物を入れ、足早にエレベーターホールへ向かう。

 社員通用口で、守衛さんにお疲れ様です。と声を掛け社員証をIC読み取り機に翳す。電子音の後に読み取り機の画面には業務的な「お疲れ様でした」が表示されている。


 この郵便の意味が良くわからない。この書類はなんだ?グリーティングカードのように二つ折りになっているが、こんな書式は社内には無い。それこそ、海外営業部が、現地の顧客に向けてとか、秘書課が役員の代わりにお世話になった方に向けて、とかで独自に送らない限り、このような書類様式はないはずである。

 総務部文書管理課文書作成室で良く作成されている、社内報奨用紙、所謂、賞状用紙にに紙質は似ているが、もっと厚みがあり、表面はざらつている。

 まさか、ラノベや漫画で有名な勇者召喚か?まてよ?転生物だったら、ここで通り魔にやられるとか、トラックに轢かれるとかだよな。そんな、テンプレ展開はゴメンだ。

 挙動不審な動きで最寄りのバス停までギクシャクと歩を進める。


 会社からバス停で5つ離れたところに浩市のアパートはある。何かの時には歩いても出退社出来るようにである。

 2年前までは、会社まで歩いて10分程の独身寮住まいだったのだが、社内規定により、30歳までしか入寮出来ない。通勤の事を考えなければ、駅前や、はたまた違う街に引っ越しをしてもよかったのだが、この辺りは工業団地という立地で、そう言った企業の社員向けのアパートがそれなりにある。手頃な家賃で、一人住まいには加分な広さを満喫出来るのは有りがたい。

 まあ、浩市の生活スタイルから言えば、3畳程度の空間とパソコン2台、風呂とトイレさえあれば十分なのだが、彼女ができたときにとか、友人が遊びに来たときにとか、現実的ではない夢を描いてしまったのも、一人暮らしにはやや広めの2DKのアパートを決めた理由でもあった。

 この時間のバスは、帰宅をする山科電気を始め、工業団地の企業の社員達で、ごった返していた。山科電気も、本社社屋と、研修センター、関東工場をこの敷地の中に有しており、多くの従業員が勤務している。

 そう言った人たちの殆どは終点の最寄り駅で降りるのだろうが、浩市は5つ先で降りれば良い。しかし、先程の社内便のことや、今夜やらねばならないゲーム内総務をぼんやりと考えていたら、危うく乗り過ごしそうになってしまった。慌てて降車ボタンを押し、人を掻き分けてバスを降りた。


 アパートの鍵を開け、先ずはPCの電源を入れる。起動している間にスーツを脱ぎ、シャワーを浴びる。朝食はきちんとコーヒーを入れ、パンを食べる浩市だが、夕食は基本的には取らない。何故なら時間が勿体ないからだ。LWにログインしている18:00~2:00までの時間は極力モニターの前に居たいのである。

 流石にオムツをして、なんてことはないが、攻略中や対戦中にはトイレにさえ行くのも勿体ないと思ってしまうこともある。


 立ち上げた二台のPCからそれぞれLWにログインする。アカウント違いのキャラクターを持っているからである。

 浩市が使用するメインのキャラクターは人族の聖騎士パラディン。騎士と言っても支援職寄りである。仲間に聖なる守りバフをかけたり、敵の力を削ぐデバフをかけたり、弱った仲間を回復したり、仲間が撃ち洩らしたモンスターを撃ち取ることも出来る。どっち付かずのバランス型のキャラクター故に、成長させるのは苦労した。そしてそれを支えるサブキャラクターはリッチというモンスターで死霊使いネクロマンサーである。


 LWの魅力として、人以外の種族が豊富に用意され、その職業も多岐に渡って選択することができる。浩市も、メインで使う以外のキャラクターには農民や商人も作っている。

 また、そのアバターも、課金により、自由に作成可能である。特に、メインキャラクターのパラディンはマッチョなイケメンである。リアルでは、中の下が良いところのルックスに、モヤシっ子という表現がピッタリの浩市が、この世界では200%増しである。このキャラクター達は正に、浩市の地と汗と涙と給料の結晶でもある。


 パウチのゼリー飲料を開けると器用に食わえて、キーボードをタイプし始める。

 ギルマスのやることは多岐に渡っている。イベントや狩り、攻略をするなら、ギルド内にも取りまとめをしてくれるメンバーがいる。しかし、そう言った既に出来上がっている馴れ合いグループに入り辛そうにしているメンバー、特に初心者を誘って狩りや攻略を率先して計画し、大規模戦闘に向け戦力を強化したり。各領地に他ギルドなどの進行がないか、各サブギルマスの報告を聞き纏めたり。有益な鉱物資源やアイテムを生む土地の情報を仕入れ、メンバーに斥候を頼んだり。時には、ギルドメンバー間の喧嘩を仲裁したり。

 つまり、優秀なギルドメンバー達が楽しくギルドを繁栄させてくれるのをサポートするのである。業務時間外の仕事の方がよっぽど大変だと、浩市は思わず苦笑する。


 日付が変わった。明日の仕事を考えると、あと2時間程でログアウトしなければならない。明日の予定をメンバーと共有し、切りの良いタイミングを図っていると、ふと、今日受け取った社内便を思い出す。


 隣の部屋の鞄の中からその社内便を取り出す。

「まさか、LWプレイヤーで自分の正体を知っているとか?いやぁ、オフ会とかでも、自分には無理なんだから、リアルでコンタクトされてもなぁ…。」

 社内便をキーボードの横に無造作に置く。何か飲み物でも取ってくるか。ディスプレイから目を離さないまま、立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。確か、冷蔵庫にオレンジジュースがあったはずだ。

 カップに紙パックのオレンジジュースを注ごうと、手に取る。と、その時、カップを持つ手が滑り、カップはキッチンの床に落ちる。お気に入りのカップだったが、、キレイに割れてしまった。仕方なく、幾つかの破片を拾う。この時間だ、細かい破片を集める為に掃除機を使うのは集合住宅的にマズイだろう。ティッシュペーパーで拭き取るように集める。

 「っつ?!」

小さな破片で指先を軽く切った様だ。何だか今日の自分は付いていないのかもしれない。


 飲み物は諦めてモニターの前に戻る。

「付いていないのは、お前のせいかぁ?」

そんなことを呟き、先程放り出した、社内便を手に取る。

「ん?」

サブPCのモニター光越しに透かされて、何か模様の様なものが見える。会社で開いて見たときは、なにもなかったはすだ。もう一度、中を広げてみる。

「何だ?これ…」

 先程見た文面を取り囲む様に薄墨で描いた様な複雑な模様が広がっている。1㎜にも満たない小さな文字らしきモノや記号を組み合わせて作られたその模様は10㎝程度の円形を型作っている。

「まさか?魔方陣とか?ファンタジーかよ!いつ現れた?」

浩市はその模様にそっと触れてみる。

「痛っ」

突然の事につい忘れてしまったが、先程切った利き手でつい触ってしまった。紙には指先から滲んだ血がついてしまった。


「汝、血の盟約により、冥府より召喚す…」


地の底から響く様な声が聞こえた。

「わわわわわ、なに?なんだ?」

慌てて紙から手を離すがその時はもう既に、浩市は音と光の濁流に呑まれていた。LWのプレイ画面、サブキャラクターのリッチの姿を映すモニター画面を最後の記憶とし、浩市は意識を手放した。


ゆるゆる更新して参りますので宜しくお願いします。

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