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冥府の王と黄金の魔方陣  作者: 山猫亭ぶち助
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02_総務はハードワークです1

初めての連載です。誤字脱字等、平にご容赦下さい。

 残業がない仕事は幸せだ。何故ならは、終業後は直ぐに帰宅できるからだ。総務部の仕事は基本的には、残業はない。デスクの筆記具を仕舞い、パソコンの電源を切る。

 「お疲れ様です。」

 「お先に失礼します。」

帰り支度を進める、自分の周りの席の同僚達も、次々に席を立っている。


 浩市が所属する、総務部は残業禁止ルールがしっかりと浸透している。

 オフィスの別の階にある、開発部や営業部なんかは、まだまだ煌々と明かりが灯っているだろうが、この総務部はそう言った部署をサポートするのが業務である。だからこそ無駄に残業などせず、早々に上がり、コストカットする、というのが、我が部の方針だ。


 ロッカールームへ引き上げる前に、総務部の向かいに設けられた郵便室へ向かう。この一角が浩市が任されているエリアでもある。

 中堅電気メーカー、山科電気の総務部 書類管理課 社内郵便室 業務統括班長というのが、前島浩市(32)の肩書きである。


 郵便室では、社内の郵便を取り扱っている。外部郵便や、宅配便の差出しは各部から直接行うようになっているが、大物の宅配便を除く、その他の受取りは一括でこの郵便室で行っている。また、社内便は全てこの郵便室を経由している。各部から集めた社内便の仕分けや、国内、海外の支社から来た社内便の仕分け、配送の準備がここで行われる。

 電子メールが当たり前となり、ペーパーレスが言われる世の中になっても、紙の文書は消える事はないと言うことだろうか。常時数千通の文書が毎日ここを通っていく。


 廊下に面したカウンター横のガラス張りの窓から郵便室内を覗くと、各部署の名前の書かれた棚や、配送用の肩掛けバッグ、郵便物を詰め込んだコンテナなど、郵便室内がほぼ見える。業務時間内であれば、アルバイトの配達員や、仕分けのパートさんたちで賑やかな郵便室内も、5時を10分程回ったこの時間は閑散としている。唯一見える人影は、部下の山下さんか。

 部下と言っても郵便室業務統括班は班長である自分と、入社4年目の山下さんの2人のみ。他は、仕分け、配送をするパートやアルバイト12名で構成されている。実質、その仕分けや配送業務を切り盛りしてくれているのは、山下さんである。

 ショートボブのボーイッシュでいて、あどけないルックスは社内では人気らしいが、人員不足や、配送ミスなど、業務に関する報告や上申ははっきりしていて、総務部では前島は山下さんにいつも怒られている、と揶揄されているらしい。

「あ、前島さん。業務終了です。重要文書、保管庫に入れましたので、私もあがりますね。」

 山下さんもこちらに気が付いたようで、保管庫の鍵を顔の前で降りながら、声をかけてきた。


 機密文書と呼ばれる、社外秘書類や、辞令書、個人情報などが、社内便には多い。昨今の産業スパイやら、個人情報保護法やらの絡みにより、機密文書スタンプのある社内便を、郵便室で配送待ちさせる場合は、夜間は保管庫で保存をする規定になっている。

 「郵便室も施錠して鍵、仕舞ったら、あがりますんで。」

 山下さんはそう言って郵便室の照明を落とし始めた。

「あ、手伝うよ。」

そう言って浩市も、IC社員証を読み取り機にかざして、郵便室のドアを開ける。郵便室内、出入り口近くの壁に設置された空調のスイッチを切った。

 「アルバイトの田中君、配送の手順、大分覚えたみたいですよ。フロアマップは完璧だって、言ってましたよ。」

そう、笑いながら、山下さんが続ける。

「田中くん、フロアボスもバッチリです、何て言っちゃって、あー。でも、秘書課の田辺女史のことだと思うけど、あのボスは攻略出来ないっす。って、冗談まで出て、これなら大丈夫だとおもいますよ。」

さも、可笑し気に山下さんが笑う。

「フロアマップにフロアボスかぁ。RPGゲームみたいだね。田辺女史は僕でも攻略出来ない強敵だなぁ。ま、でも仕事に慣れて頑張ってくれているなら何より。」

2週間前から、勤務するアルバイトの田中君は、自分が講習を行ったばかり。その中で、田中君は自分と同じMMOでプレイしているという事も聞いた。まだ、始めて数ヶ月ということで、その興奮も交えて、楽しそうに語っていた。

田中くんを見る、田辺女史のセルフレーム眼鏡の奥からの鋭い視線と、幼児に言い聞かせるような、それでいて、有無を言わさぬ口調が脳内で再生され、思わず、自分もクスリと笑ってしまった。


「鍵、僕が戻しておこうか。」

郵便室の施錠をしている山下さんの背中に向けて浩市は聞いた。IC社員証で入退室を管理しているとは言え、退社時には施錠をする決まりになっている。ガチャリと、機械的な音のあと、クルリと反転した山下さんは、

「ありがとうございます。助かります。そうそう、これ、前島さん宛てに来てたので、鍵の返却ついでに持っていこうかと思ってたんですよね。」

と言って封筒を差し出した。


 郵便室では、毎日数千通の社内便を扱うのだか、自分宛の社内便はそう多くない。同じ書類管理課内の書類作成室や社内報作成室などと比べれば、皆無と言って等しい。業務連絡なら、電子メールが殆どだ。

「へぇ、僕宛てに?珍しいね。」

「私もそう思って。これ、一通だけなので届けようかと。」

「ありがとう。」

そう言って、郵便室の鍵と一緒に社内便様式の封筒を受けとる。社内便はリユースできるクリアファイルの様な封筒にポケットが付いており、宛先や差出人の部署、担当などを書き込んだ帳票をそこに差し込んで使うようになっている。差出部署は、国外調達部になっている。担当者の名前の欄には達筆なアルファベットが書いてある。


 国外調達部や、海外営業部などは、現地での交渉などもあるため、外国籍の社員も少なくない。そう言った社員からだろうか。しかし、本当に自分宛のなのだろうか。宛先欄には、アルファベットとは対照的な辿々しい筆運びで、郵便室マエジマコウイチ様と記入してある。

「誰だろう?同期とか、業務で知り合った方ではなさそうだけど。まぁ、僕達、総務部の顧客は社員だからね。社内便業務の改善依頼とかかも知れないしね。」

総務部の顧客は社員です。と事あるごとに、話す部長の言葉を借りて、受け取った封筒から視線を離す。

「ブロンド美人からのラブレターかもですよー。前島班長みたいな草食系はそう言う肉食外人さんノリで攻めないと、無理ですもんねー」

封筒の宛名を覗きこんでいた山下さんは悪戯っぽく笑って

「じゃ、私はこれから、おデートなので、前島班長の健闘を祈っております!お先です!」

と言って、ちょこんと頭を下げ、前島に背を向けてロッカールームの方へ歩きだす。

「ちょ、ちょっと、山下さん!…参ったなあ。そんなんじゃあ無いと思うんだけどなぁ…。」

スキップするかの様な足取りで、山下さんの背中が遠ざかっていく。

「明日から、パートさん達からやんや言われるのかなぁ…。」

浩市は一人ごちると、総務部文書管理課のフロアへ戻るべく歩を進めた。

お読み頂きありがとうございます。ゆるゆる進めていきますのでよろしくお願い致します。

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