アフロ
「シャア!!先制ヒット〜!」
品のない声が響く。
ボリュームのあるアフロヘアをゆらゆらさせながら、男は勝ち誇った。
「貴様、勝手に始めるな!しかも殺せてないのか?!」
アフロのそばで前方を伺っていた軍人が、怒りを込めた口調で問う。
「うるせーな、相手の装備は伝えたろ?手負いにしただけで充分じゃんよ」
一瞥して吐き捨てた後、あとはよろしくと言わんばかりに手をヒラヒラさせ、再度スコープを覗き込む。
「あーあ、見失っちゃったじゃねーか。さっさと片付けてこいよ」
「くっ、これだから賞金稼ぎは好かん!」
軍人は拳銃を構え、警戒しながら森の奥へと進んでいく。
やれやれといった表情で、アサルトライフルを構えた小男が後ろを付いていく。
「いってらっしゃ〜い」
アフロが気だるそうに声をかける。
このチームの出だしは順調だった。
転送直後に探索したエリアで、スコープ付きのスナイパーライフル、アサルトライフル、おまけに拳銃まで手に入れた。
さらに探索エリアを広げて入った森では、早々に索敵に成功。
確殺は逃したものの、敵の装備を把握し、うち1人の片腕を奪い、戦力を大幅に削った。
「いちばん強そうな奴の片腕を潰したし、後は奴らがなんとかするだろ」
アフロはスコープから顔を上げ、首をコキコキと鳴らした後、おもむろにタバコに火をつけた。
アフロは、その日暮らしのしがない賞金稼ぎだった。
酒、タバコを好み、稼いだ日銭は怠惰な日常に消費する日々を送っていた。
そんな暮らしを続けられるほどに、狙撃の腕には絶対の自信があった。
だからこそ、チームで獲得したスナイパーライフルの所有権を強引に奪った。
自らの腕を証明し、主導権を握るためにも、、さっそく見つけた相手チームを1人、あわよくば全員殺すつもりでスコープを覗いた......はずだった。
「なんだったんだろ、あれ」
索敵が成功し、スコープを通して見えたのは、大柄な軍人風の男と、小柄なスロープの可愛い子ちゃん。
そしてちょっとイケメンな優男。
アフロは迷わず、殺意を込めて優男の頭を狙った。
そしてすぐさま引き金を引いた。
相手は確実にこちらに気づいていないし、それはいつものルーティンよりも簡単な作業だった。
「ーーータァン」
小気味良く、聞き慣れた音。
威勢良く吹っ飛んだのは、大柄な男の腕だった。
「スコープの調整は狂っていない。距離も、感触もいつも通りだったはずだ」
全ての条件が揃っていたのに、結果だけが違う。
まるで時空が歪んだかのような感覚だった。
「今さら緊張ってわけもねぇしなぁ。ヤキがまわったか」
煙をくゆらせ、しばらく思案していると、遠くで銃声が聞こえた。
「お、始まったかな」
どれどれとタバコを足元で踏み潰し、スコープを覗き込む。
ふと、一陣の風が吹いた気がした。
「ピシュッ」
「ん?」
何か聞こえたかと思う間も無く、アフロは額に空いた風穴と共に、地面に突っ伏していた。