岩場へ
道中に血を滴らせながら、ブルジルはできる限りの速度で指定の岩場に急いだ。
幸い、スナイパーの追撃は無い。
「アタルが遊撃を買って出てくれるとは、ちと意外だったな」
今回の作戦で一番の要になるのは、遊撃手だ。
敵が詰めてくるとすれば、尖兵はおそらく2人。
背後にスナイパーがいる事を考えると、奇襲の戦果が大きく勝敗を左右する。
もし奇襲が失敗し、シェスカが乱戦に加わる事になれば、スナイパーの援護がある敵側が圧倒的に有利だ。
スナイパーに気取られず、できるだけ速やかに複数人を無力化する必要がある。
だがもちろん、戦闘体制に入った複数人を相手にする奇襲は、相当な実力差でもない限り成功率は高くない。
戦場のセオリーに当てはめてみれば、まさに薄氷を踏むような作戦だ。
「今のワシにできるのは、残党をここで迎え撃つことだけか」
待機する事しかできない自分が情けない。
袋小路の岩場に到着し、死角になるような位置に陣取る。
ここにたどり着くまでに、血痕に細工をしておいた。
相手が血痕をそのまま辿るような間抜けであれば、ある程度有利な態勢で会敵できるはずだ。
「まぁ、気休め程度にしかならないが、な」
自虐的に嘆いたその時、ブルジルの端末に戦況の変化が通知された。
「ポーン」
マップに敵の位置情報がマークされる。
シェスカが索敵に成功したらしい。
「始まる、か」
ブルジルは戦場に思いを馳せる。
戦場では、いつも気の良い奴から死んでいく。
「祈るしかないってのはもどかしいが......死ぬなよ、アタル」