戦闘開始
「獣人?」
聞き返す間も無く、向こうから小走りで駆け寄る人影。
小柄で俊敏そうな身のこなしをしている。
柴犬のような大きめの耳が頭から生えているが、
それ以外は特に普通の人間と変わらないように見える。
何より、可愛い女の子だ。
「ごめーん!ちゃんとアイコン確認すればよかったね!」
開口一番、あっけらかんとした声で謝られた。
見た目の雰囲気もあり、一気に場が明るくなった気がする。
「あたしだけ先に転送されちゃってたみたいで、周辺を探索してたの!」
元気があり余ってるといった感じで、キラキラしているようにも見える。
「しかしあぶねぇな嬢ちゃん、敵だとしても、チーム相手に単独で仕掛けるのは悪手だぜ」
「あのくらいの距離なら、あたしの足があれば余裕なんだよ!」
へへん!といわんばかりにつま先で地面をトントンしている。
肩のあたりで切り揃えられた金髪の髪が風になびく。
「あたしはシェスカ!見ての通りスロープ族です!」
ニカッと笑う彼女。
大柄なブルさんの隣に並ぶと、まるで子供のようにも見える。
「ワシはブルジル。ガント族だ。こいつはノーマンのアタル」
「えっ、ノーマンなんだ!この業界で会うのは珍しいね!」
この世界は様々な種族がいるらしい。
スロープは獣人っぽいが、ノーマンとはなんだろうか。
「すみません、俺まだワープ酔いのせいで記憶が曖昧で……ノーマンっていうのは種族の名前ですか?」
「おいおい、なかなか重症だな。さっき自分でマップ使ってなかったか?」
少し呆れたような顔をしながらも、説明を始めてくれるブルさん。
やっぱりこのおじさんは優しい。
「ノーマンてのは、言ってみりゃ人造人間だ」
「人間が愛玩用に造ったロボットみたいなもんだが、中にはアンタみたく自我を持った奴がいる」
「戦闘ができるタイプもいるとは聞いてたが、実際に見たのはあんたが初めてだな」
ここまでくると、俺は覚悟を決めるしかなかった。
もはや、事実をそのまま言葉通りに受け止めるしかない。
目の前に耳が生えてる子もいるし。
ここは、現実世界じゃない……異世界なんだ。
「人造人間か。俺は人間じゃないのか」
「見た目はほぼ人間と変わらないけどね!ただ、人間とそっくりだから、外見で識別できるように、ノーマンは左目に色が付いてるんだよ!」
鏡でもないと自分では確認できないが、オッドアイのようになっているらしい。
そういえば顔も変わってるだろうし、どこかで鏡を見つけたら確認してみよう。
「ちなみにワシも……」
「ーーーっ!!」
突如、ブルさんの背後からゾクッとするような冷たい気配を感じ取る。
「パァン」
いきなり、ブルさんの右腕が弾けた。
「ーーータァン...」
遅れて、銃声が鳴り響く。
「ドチャリ」
胴体から切り離された腕が地面に落ちる。
地面に血がにじみだす頃には、3人共近くの岩場や木の陰に身を隠していた。
「少しのんびりし過ぎたな!距離は700-800ってとこか」
「森の奥からだね!海辺側から森に入った奴らかも」
「ここから退いたら草原だな。どうする?」
目の前で人体欠損したにも関わらず、冷静に分析するシェスカ。
もとい腕が弾け飛んでるのにあまり動じてないブルさん。
それよりも驚いたのは、その様子を風景のように眺めながら、スムーズに次の行動に移っている俺自身の冷静さだった。