Re:start
「気持ちわる……」
相変わらず暗闇に浮いているような状態が続く。
傷を負った感覚はいつのまにか消えていた。
「今たぶん死んだよな、俺」
ふいに、じわじわと視界が広がる。
「ま、まぶしい」
さっきとは打って変わり、眼前には青々とした草原が広がっている。
小高い丘の上のようで、遠くのほうには海辺や森が確認できる。
吹き抜けるそよ風が心地良くすらある。
「おお、とりあえずこの辺にいるのは俺たち2人だけのようだな。よろしくな!」
またしても背後から声をかけられる。
振り向くと、恰幅のいい、それでいてがっしりとしたおじさんが立っていた。
この人も軍服のような、民族衣装ような物を着ている。
「あの、ここは……?」
「なんだ、お前もしかしてノーマンか?」
よほど呆けた顔をしていたのが面白かったのか、おじさんはガハハ、と笑いながら肩を組んできた。
「ノーマンで参加とは珍しいな。場所もリュージュ方面だし、運が良かったなアンタ」
「ノーマン?あの、俺なんでこんなとこに……」
ようやく喋れたと思うや否や、激しい違和感に気づいた。
自分で声を発しているつもりが、耳に入る音は他人の声に聞こえる。
「え、なんだこれ、えぇ!?」
よく見ると体つきもおかしい。
肩を組んでいるおじさんの体格から察するに、俺もそうとうガッチリした体格をしている。
身長もだいぶ高くなっているようだ。
短髪だったはずの髪も伸びているようで、眼前に垂れてきている。
「ヒゲまで生えてる……なんだこれ、一瞬で10年分くらい成長したって事か?」
そんなバカなと思いながらも、必死に状況の整理を試みていると、ドン!とおじさんに背中を叩かれた。
「行くぞ!いくらリュージュとはいえノンビリしすぎるのは良くない」
そう言って駆け出すおじさん。
ドスドスと地面を鳴らしながら前方の森の方へ走って行く。
とりあえず後について走る。
意外にも走り出すと身体が軽やかで、まるで自分がアスリートになったかのような力強さを感じた。
「いったん森に入るぞ!」
おじさんに連れられるがまま森まで走り、木のうろの陰に隠れるように座った。
この森はジャングルのように草花が生い茂っていて、大木が所々に点在しているようだ。
「ノーマンにはよくあるんだってな、ワープ酔い。自分が誰だかわかるか?名前は?」
心配そうに優しく声をかけてくれるおじさん。
「俺はアタルっていいます。たぶん。ゲームしてたらいきなりここに来てて、声も違うし体も……なんか自分が自分じゃない……ゲホッ」
優しそうな雰囲気に安心したのか、まくしたてるように一気に話してしまい、喉が詰まってしまう。
不安と安堵がぐちゃぐちゃになって、涙が溢れる。
嗚咽しながら状況を説明した。
「おうおう、とりあえず落ち着け。混乱してるのはおそらくワープ酔いだろう。なぁに、自分の名前が言えりゃ充分だ」
必死に説明したつもりだったが、全然伝わっていないらしい。
ガハハ、とただ豪快に笑い飛ばされた。
「その様子だとブリーフィングの内容もすっかり飛んでるな?一応説明するぞ」
俺が落ち着いた頃を見計らって、今の状況と、自分達の目的を、荒っぽい言葉ながら丁寧に教えてくれた。
ここは、ウル島と呼ばれる無人島である事。
ここで行われているバトルロイヤルに参加している事。
参加者は事前にブリーフィングを受けた後、島のさまざまなスポットに転送されている事。
参加者の出自は様々で、転送時にランダムな3人ひと組のチームを組んでいる事。
優勝チームには莫大な賞金と様々な特典が与えられる事。
「え、バトルロイヤルって...」
「まあ、簡単に言えば殺し合いだな」