Game Start!
人は誰だって、ひとつぐらいは才能を持っているものだ。
それに気付かず生涯を終える事もあるだろう。
幸運な事に、俺は自分の才能を見出すことができた。
First Person shooter
FPSと呼ばれる、ゲームカテゴリのひとつだ。
プレイヤーは主に銃器を扱い、CPUまたは実在のプレイヤーが操作する相手と戦う。
俺は昔からゲームは好きだったが、大学生になるまでFPSで遊ぶ機会がなかった。
友達の家に遊びに行き、たまたま遊んだその時が、人生初のプレイだった。
「まいった。お前、天才か」
「たかがゲームだぞ、おおげさな」
チュートリアルから不思議と操作が手に馴染んだ。
数回プレイした頃には、その界隈では有名だと豪語する友達を圧倒してしまった。
「俺、プロにも誘われてるんだけどな……自信無くした……」
「まぁ、調子悪い時もあるって」
知識、技術、なにより日々の練習をがモノをいう世界。
このゲームには、レベル上げの概念はない。
強さはそのままプレイヤーの操作の巧さに比例する。
知識、技術、毎日の練習に勝るもの。
それが才能だった。
「たった数回でそこまでやれるなんて、はっきり言って異常だぞ」
「そんなもんかね」
「こりゃ、お前すぐ有名になっちゃうだろうな」
一夜でコツを掴んだらしい俺は、その日からなんとなしにゲームを続けていた。
このゲームは、FPSの中でもバトルロイヤルというジャンルである。
開始直後、プレイヤーはランダムな3人1チームに振り分けられ、マップに配置される。
同様に配置された敵チームを倒していき、最後の1チーム=チャンピオンを目指すというのが、近年流行しているスタイルだ。
ゲームの世界観はあやふやなままだったが、俺は勝利の味にハマり、毎日ただひたすらに試合を重ねていった。
「お前、なかなか派手にやらかしてるみたいだな。この前有名実況者を瞬殺してたろ」
「ん?どれのことかわからないが……そうなのか?」
実況者とは、プレイ中のゲームを別媒体で動画配信して、同時に解説や雑談などをしながら実況する人たちのことである。
FPSの実況者は、ゲーム内でも実力者が多いそうだ。
「エイムが正確過ぎてチート疑われてたぞ」
「えぇ」
要は操作が上手過ぎて、ズルをしているんじゃないかということだ。
ズルする必要なんてないだろ、と言いかけたが嫌味になりそうなのでやめた。
「まあ、俺は目の前でお前の操作見てるから疑いようがないんだけど……しかしホントすごいな。もうレベルもカンストしてるのか」
「なんだかんだ毎日やっちゃってるからなぁ」
春先にこのゲームで遊んで依頼、ほぼ毎晩プレイしていた。
3ヶ月ほどたった頃には、プレイ中に倒されることはほぼ無くなっていた。
「もうお前すっかり有名だよ。出くわしたら生きて帰れない、青い悪魔とか呼ばれてる」
ゲーム内では、スキン(見た目)をある程度自由に変えれらる。
俺は渋いイケメンのキャラクターを使い、よく好んで青い色のスキンを使っていたため、変な異名がついてしまっているらしい。
「さすがにその勝率じゃチートを疑われるわな」
「そんなもんかね」
初めたばかりの頃の敗北を加えても、通算勝率は9割を軽く超えていた。
プロでも6割を超えたらすごいという扱いらしいので、さすがに異常のようだ。
「運営から警告メッセージでも届いてるんじゃないか?」
そういえば、運営を名乗るアカウントから、度々メッセージが届いていた。
「お使いのアカウントについて、異常なデータを検出しています。確認のため、早急にご返信をお願いします」
ズルをしているアカウントはBAN(アカウント凍結)されるとは聞いていたが、特に心当たりが無いので無視していた。
BANされたらそれが辞めどきかな、というくらいの感覚だった。
「だいぶメッセージが溜まってるな。ちょっと整理するか」
運営からのほかに、ユーザーからも大量にメッセージが届いていた。
ゲーム内では、相手のアカウント名がわかれば自由にメッセージが送れる。
俺のメッセージボックスは、プレイについての賛辞や罵詈雑言等で溢れかえっていた。
「うえ、数千件……まとめて削除しよ」
受信ボックスを空にしてゲームに戻ろうとした時、新たに1件のメッセージが届いた。
「Game Start!」
「ん、なんだこれ」
ひとことメッセージにしても意味がわからない。
差出人は匿名になっていた。
「イタズラかよ。あれ、消えない」
何度か削除を試みたが、なぜかこのメッセージは消えなかった。
一時的なエラーだろうと思い、俺はゲームに戻ることにした。
いつものように、プレイ開始のボタンを押す。
「今日は何回プレイできるかな」
ぼんやりと開始準備中の画面を見ていると、不意にコントローラの感触が消えた。
「ん?」
手元を確認すると、持っていたはずのコントローラが消えている。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
「え、なんだこ&¥@」
声を発したつもりが声にならない。
パニックになりかけていると、じわじわと視界がひらけた。
薄暗く、金属のさびたような匂いが鼻につく。
何かの倉庫のような、四方を鉄に囲まれた空間。
いつの間にかそこに、俺は立っていた。
「おい、もう始まってるぞ!」
「よろしくね!」
背後から不意に声をかけられ、ビクッとする。
声の主達は後ろから俺を追い越し、そのまま前方に走り抜けていった。
軍服を着たいかつい大男と、小柄な女性。
二人とも、どこかで見覚えがあるような。
整理できない頭でぼんやりと二人の後ろ姿を追っていると、急に足の力が抜けた。
そのまま、俺はその場によろよろとひざまづく。
「あれ、力が入らな……」
「ーーー1キル」
冷たく、無機質な声が聞こえた。
直後、自分の腹が熱く焦げるような感覚を覚えた。
「ーーーえ」
うずくまり、腹に手を当てる。
べっとりとした感触に、直感で血が出ていると悟った。
「あぁぁ……」
うまく声を出せない。
なんとか絞り出した声は、自分ではない、他人の声のようだった。
痛みを自覚する頃には、視界がボヤけていた。
徐々に目の前が暗くなる。
暗闇の中、身体が宙に浮いたような感覚を覚える。
「これは、夢なのか」
意識だけがはっきりしている暗闇で、必死に出来事を整理しようとする。
「それにしては感覚がリアルのような。なんなんだ、いったい」
思考がぐちゃぐちゃになった頭に、無機質な声が鳴り響く。
「ーーー Game Start!ーーー」