第二話
「パーティーだったのよ」
リノンの街並みを一望できるオフィス。
使われていない会議室を借りてエドガーは聞き込みをしていた。そこはジュリアの務めているオードリーという化粧品会社のビルだった。縦に伸びた会議用の机の端に、エドガーとジュリアの同僚の女性だけが座っている。
「何の?」
エドガーはメモを取りながら問う。
「社長の息子さんのバースデーパーティー。殆どの社員は参加していたはずよ……彼女も来ていたわ」
「ふむ……」
考え込む。
社員の男性だけを集めても五百人ほどいるだろうか。パーティーの参加者を一人一人調べるのは骨が折れそうだった。しかも犯人が外部の人間である可能性も十分にある。当人のジュリアは未だに口を開かず、目撃者である探偵も当てにはできない。
(だが俺はやるぞ)
意気込みは十分だった。
例え本当に骨が折れてでも犯人を探し出す。エドガーは本気だった。
「えっと……他にはまだ?」
「あ、ああ。そうだな、何か気付いたことは?」
黙り込んだエドガーに女性が遠慮がちに声を掛ける。
何を聞けばいいのかすぐに思いつかず、ありふれた質問をした。この質問は確かにありふれているが、なかなか有効でもあった。問われた者は取り敢えず何か言おうと、こちらが予想もしていない事柄に触れることがある。それが事件解決の糸口になることもしばしばあった。
「そうね……もしかしたら……ううん、違う」
「どうした?」
女性は目を逸らした。
後ろめたいことでもあるのか、口を濁してしまう。
「頼む、何でもいいんだ」
エドガーは彼女の目を見つめて懇願した。
警官としてのプライドはない。ジュリアの兄として事件に立ち向かう男の姿があった。
「ごめんなさい、もう行かなくちゃ」
しかし彼女はエドガーの視線から逃げるように立ち上がった。
普通ではない。この事件には何かある。女性が表情を青ざめさせて立ち去るのを見つめながら、エドガーはそう感じ始めていた。