この声は貴方に届いてますか
BL×魔法×学園物
好きなものをギュッと詰め込みました。
《裏庭で2年の先輩が数人の男たちに囲まれてます!》
世界が誇る有数の魔法学園、その中でも特に世に名を残した者を多く輩出したのがこの王立学園だ。
その学園の、人通りの少ない廊下で目を瞑り胸の前で両手をきつく握りしめる少年がひとり。
ふぅ、とタンポポの綿毛を飛ばすかのような軽い空気をこぼした少年は、パタパタと窓ガラスへと近づき、ヒョコリと何かを覗きこむように窓枠から眼下に広がる光景を見やる。
数メートル下では一人の小柄な少年を壁に追いやるように、数人のーーー少年からしたらとてもーーー大きな体格の男たちがいた。
リーダー格であろう男に細腕を捕まれ、少年が何かを騒いでいるようだが恐怖で声が響いていない。
なによりもその場所が悪かった。
広い敷地内に数ヶ所あるデッドゾーンと呼ばれるその場所は人通りも少なく、視界に入りづらい奥まった裏庭である。
上から見たら分かりやすいが、そもそも此処も上級生が特別授業で使うときにしか人が寄り付かない特別棟だ。
助けはこない、と誰もが思う中、颯爽と現れた一人の青年により事態は一変した。
逃げ惑う数人の男たちをたった一人で捕らえた青年の姿を最後まで隠れながら見ていた少年は安堵したようにズルズルと大理石の床に座り込んでしまった。
「良かった…来てくれた」
安堵とは別の感情で口元が緩む。
それを誰も見ていないと知りながらも小さな両手で口元を隠した。
(今日も僕の声、届いてた)
「よし、戻ろう」
スクリと立ち上がり、窓に背を向けて歩きだす。
そんな彼の姿を外から見ていた者がいたことに気づかずに……。
僕の名前はミシェル・ランバート
全寮制の魔法学園に通う1年生だ。
王立魔法学園は魔力の適正が現れると入学許可証が得られる…だけど、魔力を持たない両親から生まれたからか、発達が遅かったのか分からないけれど11歳の夏ごろにやっと許可証が送られてきた。
僕にはもう縁がないんだと諦めていたところに舞い降りた封筒。
呆気にとられ固まる僕の代わりに驚いてくれたのは幼馴染の二人。
どうしよう……
「勉強まったくしてない」
「今からやるぞ」
「死ぬ気で叩き込むからね」
「「一緒に同じ学園に行こう」」
あのときの二人のスパルタ具合に、大好きな甘味が喉を通らずに体重が激減したのは幸か不幸か。
二人の家庭教師をつけた僕は遅いスタートダッシュだったにも関わらず先をいっていた他の子と足踏みを揃えることができた。
でもそれで満足する家庭教師(幼馴染たち)じゃないのは分かっていたことだ。
他所は他所。うちはうち。
母さんと同じようなことを言う二人に反論する気力も沸かず、山積みされて教科書と問題用紙に手を伸ばすのであった……。