旅の確約
「レイハルトと共に旅に、だと?」
レイハルトとリリアは今、国王の執務室にいた。執務室には国王と宰相が居る。国王は2人を見ると納得したような顔をした。
「なるほど、それがリリアからの報酬というわけか」
「どうでしょうか」
国王は考え込む。正直許可したくはない。また長期間姫が城を留守にするというのは良いことではない。
それに今は、リリアの帰還を祝すようにお茶会の申し出が多く来ている。
しかし、リリアは彼をつなぎとめる条件に彼の目的、旅の目的の支援を約束している。それを反故にすれば国と彼との関係悪化につながる。それは避けたいところだ。
「明後日に控えている茶会はどうする」
「そのあとに出発できればと」
もともとそのつもりだったのでここは問題ない。
「その後も何件か来ているぞ。お前の帰還を祝すものもだ」
二人は顔を見合わせる。そして、お互いに頷き話すことを決める。
「それらも可能な限り出ようと思います」
その言葉に国王は眉根を寄せる。
「日帰りの旅を続けるのか?それではあまり遠くへは行けんぞ」
「もしやレイハルト様は転移魔法を使えるのですか?」
宰相の言葉にレイハルトは首を横に振った。
「転移魔法は使えません」
「転移魔法“は”?」
その言葉に反応したのは国王だ。
「別の移動手段があるのか?」
レイハルトは頷く。
「レイハルトは転移の魔道具を持っています。彼にしか使えないという難点はありますが」
二人は驚いた顔をする。レイハルトはリリアに促されてテレポーターを部屋の端2か所に設置する。そしてテレポーターを起動して転送した。
「これは驚きました」
宰相はテレポーターを置いたところを触ったり、魔力を送り込んだりしている。
(残念ながらそれは魔法ではなく科学なんだ。魔法には反応しないんだよね)
宰相は国王の方に向かって首を振った。
「残念ながら私ではこれがどういったものなのか全くわかりません。魔力の反応もほとんどないですし、私では動かせそうにありません」
「魔術師団の解析班に回せば分かりそうか?」
宰相は顔をしかめる。
「どうでしょう。これは魔法とは違う原理で動いてるように思います」
レイハルトは驚いた。まさかそこに気づく人間がこの世界にいるとは。
「ふむ、これは1度に何人まで転移可能なのだ?」
「その円の中に入れれば何人でも。4人までは確認しています」
「量産は出来るか?」
「素材があれば」
「その素材とは?」
レイハルトは紙を貰い、アイテムを書きだした。そして自分で驚いた。書く文字がこの国の文字になっている。まさか書く文字すら翻訳されるとは思わなかった。
「こちらになります」
それを見て国王と宰相は顔をしかめる。
「聞いたことのない物がいくつかあるな」
それぞれの素材について説明をする。
「雪原に砂漠、この国にはない物、ということですか」
「おぬしいったい何者だ?」
(まあ、そうなるよな)
この世界の基準で考えれば、そんな色々なバイオームの場所を行っている人間はいない。しかし、まだ正直に打ち明けられる段階でもない。
「旅人です」
明らかにはぐらかされたが国王たちは何も言ってこなかった。
「ふむ、確かにこれなら遠出してもすぐに帰還でき、次も続きの場所から始められるか」
国王が頷く。
「して、これを他の者にも使えるようにはできぬか」
これも予想はしていた。
「現状では出来かねます」
「ふむ」
そうなると、そもそも起動できないものを解析するのは難しいだろう。
「分かった。旅の許可をしよう」
「良いのですか?」
宰相が聞く。
「リリアがレイハルトを雇った条件がこれだ。これを反故には出来ん」
リリアとレイハルトは胸をなでおろした。
「ありがとうございます」
「ただし、期日には必ず帰るように」
「フィルリリア様!」
リリアたちが一度部屋に戻ろうと部屋の前まで来たとき、リリアが誰かに呼ばれた。振り返ってみると剣を腰に下げた女性が立っていた。
(騎士?でも女性の騎士なんていたか?)
「エレナ!」
リリアがエレナと呼ばれた女性に駆け寄る。
「フィルリリア様、ご無事で何よりです」
「貴女も。今回は結構危険な任務だったのでしょう」
「はい、ですが問題なく終わりました」
エレナはリリアの後ろにいたレイハルトを見た。
「貴方がレイハルト殿ですね」
レイハルトは頷く。
「私は魔術師団所属、エレナ・ライルヴィッヒです」
「レイハルト、元旅人、現フィルリリア様の専属騎士です」
エレナはレイハルトを見つめる。エレナは肩まである赤い髪に鋭い眼。整った顔立ち。美人と呼んで問題ない人物だ。
「このたびはフィルリリア様をお助けいただきありがとうございます」
「え、いえ。成り行きでそうなっただけでして」
そんな美人に頭を下げられ慌てるレイハルト。
「理由はどうあれ助けてくださったことは事実、それにドラゴンも討伐してくださったとか」
(この人苗字があるってことは貴族だよな?平民に簡単に頭を下げていいのか?)
レイハルトは突然のお礼連打に慌てながらそんなことを考えた。
「して、そんな貴方に一つお願いがありまして」
「な、なんでしょう」
「私と手合わせしていただきたいのです」




