料理
「よし」
2日後、レイハルトはリリアと共に厨房に来ていた。
「ところで、何を作るの?」
「俺の故郷の料理だよ」
リリアの問いにそう答えると、リリアや料理人の目が輝いた。
「レイハルト様はここよりずっと遠くから来られたとか」
「きっと見たこともない料理が見られる」
(そんなにハードルを上げないでくれ)
今回作る料理は春巻きだ。片手で食べられるからゲームのお共にちょうど良くて自分で良く作っていた。
まずは皮を作る。材料は小麦粉と水と塩。人によって若干異なるが基本はこれで行ける。
生地を作っている間に火をつけてもらう。火は魔法で簡単についた。かまどの上に鉄板を置いてそこにお玉で生地を薄く流す。両面を焼いたら取り出す。それを何回か行う。
次にタネ。肉と野菜。肉はブロックしかないので叩いてひき肉のようなものを作る。
野菜は千切りにしておく。
次は味付け。
(流石に醤油はないか)
調味料を一瞥してそう思う。
(仕方ない。塩胡椒で、ん?)
ビンに入った黒い液体を見つけた。それをなめてみると醤油のような味がした。しかし、醤油と違って生臭さがあった。
「これは?」
「魚醤です」
レイハルトの質問に料理人の一人が答える。
(魚醤か。醤油に近いが魚の生臭さがどう影響するか分からないからな)
レイハルトは塩胡椒で味付けすることにした。
味付けたタネを軽く炒めてから皮に乗せて包む。油を少し多めに敷いてもらい鉄板で春巻きを焼く。
本当は揚げたかったが油は貴重だろうから焼くことにした。
出来上がった物からさらに移し、一口サイズに切っていく。フォークで上品に食べるだろうからこうした方が良い。
すべて焼き終わるとみんなの前に出した。
「どうぞ、春巻きです」
「ハルマキ?」
聞いたことない料理名に困惑する料理人。レイハルトは作っているときから我慢の限界だったので早速食べた。
(醤油の方が良いけど、これもこれでまた)
レイハルトが食べるのを見て他の人たちも食べだす。口々に称賛の声を口にする。
「ほんと、美味しい」
リリアも気に入ってくれたようだ。
「レイハルト、どうしたの?」
リリアがこちらを見ながら首を傾げる。
「貴方、涙が出てるわよ」
「え?」
驚いて目元に手を当てると確かに濡れた。自分は泣いていた。
そのことを自覚した瞬間に胸を締め付けられるような感覚に陥った。涙は止まらず胸が苦しい。
「レイハルト!」
レイハルトは全速力で自室に戻った。後ろでリリアの声が聞こえたが止まれなった。
レイハルトは部屋に入るとベットにあおむけに寝ころんだ。
なぜ、今さらになってこんな感情が出てきたのだろう。郷愁の念、とでも言うのだろうか。
だが逆に当然でもあるように感じた。自分が何者か分からず不安定な時に故郷を思い出すようなことをしたのだ。
帰れるか分からない自分の故郷、日本。今回のは日本ではなく中国の点心だが日本で食べていたものには違いない。
(俺が何者か、なぜこの世界に来たのか。元の世界に帰れるのか)
その答えを知っている可能性がある人物を知っている。
(彼女ならもしかしたら)
彼女なら今でも動いてるかもしれない。それを確かめるにはもっと遺跡を回らなくてはならない。
ドアからノックの音がした。
「レイハルト、入って良い?」
リリアの声だ。レイハルトはドアを開けた。
「もう、大丈夫?」
「ああ」
厨房での様子から心配してくれていたのだろう。
「レイハルト、ごめんな」
「リリア」
レイハルトがリリアのセリフを遮る。
「俺は改めてドラゴン討伐の報酬をもらおうと思う」
「な、何?」
リリアは少し怖かった。先ほどの様子から少しの間自分のもとを離れて故郷に戻りたいというのではないかと。
「長期間の遺跡探索をさせてほしい」
「遺跡?」
予想外の回答に頭が一瞬止まった。
「ああ、あそこに俺の探しているものがある」
「でも、今でも時々出てるわよね」
「半日じゃ短い。1ヶ月ぐらい欲しい」
「1ヶ月!」
今のリリアの状況ではそんなに長時間城を離れることは出来ない。もちろんレイハルトもだ。
「分かったわ。お父様に相談してみる。ただ3日後にお茶会があるからそのあとになると思うけど」
「ああ、大丈夫だ」
「申し訳ありません、公爵。失敗してしまいました」
オグゾルがスレンディット公爵に頭を下げる。
「まあ、あの者が本当にドラゴンを討伐するとは思わなかったからな。だが問題はない」
「しかし、ドラゴンの頭は」
目的であったドラゴンの頭はレイハルトによって吹き飛ばされてしまった。なぜ、問題ないのだろう。
スレンディット公爵は机の上に液体の入った筒を置くその中には人間のこぶしほどの目玉が入っていた。
「ドラゴンの目玉は手に入った。これで実験は次の段階へと進める」
春巻きは色々レシピを見ただけで実際に作った訳ではないのでこれではそれっぽいのしか作れない可能性があります




