いざ、討伐へ
レイハルトは翌日、ドラゴン討伐の準備をしていた。
準備といってもたいしたことをするわけじゃない。回復アイテムをすぐ使えるようにショートカットに入れておくぐらいだ。
それと、討伐に行くと1週間ぐらいは戻れないだろうから、騎士団や兵士たちにいない間の連携の訓練の指示をしておく。
いまだに連携が全然取れない。特に騎士団がひどい。自分の実力に自信を持っているせいか誰かと合わせようとしない。合わないと相手のせいにする。
そんな状態では絶対に連携なんて取れないのでそこを直すよう指示を出す
。
「レイハルトさん、俺たちも討伐に加わっちゃだめですか?」
兵士たちからうれしい申し出があった。しかし、ドラゴンがどれくらいの強さか分からない以上、何とも言えない。判断を間違えれば死人が出る。
「あ、やっぱりまだ俺たちじゃ足手まといですよね」
レイハルトが考え込んでいるのを勘違いした兵士が申し訳なさそうに言う。
「いや、そういうわけじゃない。ドラゴンの強さが分からないからなとも言えないな。一緒に戦っても問題なさそうなら加わってもらうがそうじゃなかったら加わったら死人が出る」
気落ちする兵士たち。
「つまり、ドラゴンが強かったら足手まといってことですよね」
そういうことになるのか?
「とりあえず、ドラゴンの強さを見てくるよ。大丈夫そうならいったん戻ってくる」
「それなら私がお供します」
一人の騎士が名乗りを上げた。確かユリスだったか。
「私は駿馬が使えますので、レイハルトさんより早く戻れると思います」
確かに馬車で戻るよりそのほうが早いな。テレポーターを使わなければ。
「それじゃあお願いするよ」
「はっ!」
「強くなかったら一緒に戦おうって普通逆じゃない?」
先ほどの会話を聞いていたリリアに突っ込みを入れられた。その通りだ。通常一人で倒せないから協力して戦う。
「仕方ないだろ」
今回は普通じゃない。レベル100のキャラがレベル10とかのキャラをキャリーするようなものだ。
その場合は大体キャリーするキャラが1又は2発で倒せる敵を倒しに行く。死ねないならなおさらだ。
残念ながら今回はそうはいかないだろう。討伐隊を何度も退けているほどの奴だ。楽勝で勝てるとは思わない方が良い。
「それであなたの装備はどうするの?甲冑ならいくらでも用意できるけど」
「リリア」
少し呆れ口調でレイハルトが言う。
「弓主体の奴が全身鎧なんて着るか?」
「そういえばそうだったわね」
リリアもうっかりしていたようだ。
「最近は剣を使っているところしか見ていなかったからうっかりしてたわ」
さて、これで準備は出来た。明後日には王城を出発する。
「待っていたよ、レイハルト殿」
王城の外に出ると意外な人物が立っていた。
「オルキス殿下、今日はどういったご用件で」
「決まっているであろう。私も付いていく」
「え?」
何で?
他にもマルファスやレイザス、オグゾルの姿もあった。
「皆、そなたの雄姿を実際に見たいのだ。別に問題はなかろう」
ありすぎるわ!
「さすがにレイハルトでもこれだけの人数だと」
「リリア、君の専属騎士はこれだけの人数も守れないのか?」
そう来たか。
「分かりました」
「レイハルト!」
レイハルトの判断に驚くリリア。
「ただし、戦場では私の言葉に従っていただきます。出なければ命の保証は出来ません」
「な!我々が平民の指示に従えと」
「待てクラーキス伯爵」
レイザスがオグゾルを制す。
「分かった。ただ、誰も死なないように頼むよ。ここには国の重役が何人もいるのだからな」
なら来るなよ。仕方ないあれを使おう。
「では出発しようか」
最初は数人で行く予定だったが予定外の同行者のせいで近衛兵を数人連れていくことになり、馬車の数も増えてしまった。
連れていく近衛兵はもちろんレイハルト側ではない方だ。
移動中は盗賊に襲撃されるなどのことはなかったが、リリアが終始レイハルトとオルガと話しているものだから、オルキスはずっとレイハルトを睨んでいた
。何度か話しかけるが素っ気ない返事をしてまたレイハルトたちとの会話に戻る。
(前にもあったな、こんなの)
レイハルトはオグゾルの馬車で王都に向かうときのことを思い出して思った。
王子と王女、さらに公爵の子息がいるため町に着くたびに盛大なおもてなしを受け、3日でつくはずが5日かかってしまった。
目的の山に一番近い町でレイハルトたちは作戦会議をしていた。部屋にいるのは、レイハルト、リリア、オルガ、ユリスの4人(3人と1匹?)である。
「で、どんなドラゴンなんだ?」
レイハルトは今回討伐するドラゴンについてほとんど知らなかった。
「見た目は緑色の大型ドラゴンです」
ユリスが説明をする。
レイハルトに緑色のドラゴンの記憶はなかった。ドラゴンは基本赤か青のはずだ。
(まあ、フォレスレオンみたいな前例も見てるし、何かしら変化したんだろう)
「攻撃方法は口からの炎のブレス、あとは全身を使った物理攻撃ですね」
「ちなみに今までの討伐隊はどんな感じだったんだ?」
これで実力を測れないかと質問してみる。
「最初は冒険者30名が討伐に向かうも5分たたずに半数がやられ撤退したとのことです」
この世界の冒険者の実力を知らないから何とも言えないな。
「国に要請があったときは兵士と騎士、魔術師の50名編成で行きましたがほとんど傷を与えられずに半数以上が死傷したとのことです」
(連携が取れてなかっただろうとはいえ50名か)
これは苦戦しそうだとレイハルトは思う。
「力としてはこの国の総力と同等に近いか?」
「間違いではないかと」
レイハルトは考え込む。
この国の総力と同じくらいの力を持つドラゴン。しかし、この国が残っているからには向こう側に積極的に攻撃してくる気はないと見える。
(あの山に何かあるのか?それとも裏で何者かが糸を引いてる?)
1か所にとどまり続けているからには理由があるはず。
「どう、行けそう?」
「対峙して見ないことには何ともな」
リリアの問いに答える。
「だが、おそらく俺一人で相手することになるだろう」
ユリスは落ち込んでしまったが仕方がない。
翌朝には出発したが山の頂上付近に着いた時には日が沈みかかっていた。というのもレイハルト、リリア、ユリス、近衛兵以外の貴族連中が何度も休憩を申し出たせいだ。
「フィルリリア様はなぜそんなに余裕なのだ」
オグゾルが問いかけるがリリアは笑うだけ。
一行が頂上にたどり着くとドラゴンが座っていた。レイハルトたちを見ると立ち上がり大きく吠えた。
「gyaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
その声に近衛兵の一人が尻餅をついてしまった。
それも仕方のないことだろう。自分よりも強大な敵に威圧を飛ばされたのだから。
(これは、俺より強いな)
レイハルトは今の威圧でドラゴンの強さをおおよそ測った。これは自分より強い。
そして同時に騎士や兵士を連れてこなくてよかったと思った。
(こんな楽しそうな奴との戦いに足手まといがいてたまるか!)
レイハルトのステータス、戦闘狂が解放されました




