酒場へ
翌朝、レイハルトとリリアは王城の城壁の近くにいた。
「ここに置くのか?」
レイハルトがアイテムストレージを操作する。もちろんテレポーターを置くためだ。
「いいえ、別にいらないわ」
リリアは首を横に振る。どうやらテレポーターで外に出るわけではないらしい。
「じゃあどうやって外に出るんだ?」
当たり前のように門からは出れない。
「魔法や魔道具がないと出られないなら、私はここから出られてないはずだけど?」
「確かに」
リリアがここから出られている以上、何らかの抜け穴があるはずだ。
「こっちよ」
リリアに案内された場所にたどり着くと、城の裏側だからか少しひびが入った城壁があった。リリアはそこの一部を軽く押す。するとレンガが数個奥に動いた。
「ここから出られるわ」
リリアがレンガをさらに押し込む。
「そのまま落としたら音で気づかれるんじゃないか?」
「大丈夫よ、向こう側に草が茂っているから音がしないの」
リリアはそのままレンガを落とす。草の上に何かが落ちた音がしただけで大きな音はしなかった。
「リリア、ちょっと待った」
空いた穴に入ろうとしたリリアをレイハルトが止めた。
「俺が先に行く」
リリアが不思議そうに首を傾げて、顔を赤くした。どうやらスカートをはいていることを忘れていたようだ。
レイハルト、リリアの順に穴をくぐり城の外に出る。落としたレンガは元にはめておく。
王城をぐるっと回って城下町に出る。
「こっちよ」
リリアの先導で町を進んでいく。ほどなくして目的地である酒場にたどり着く。
「いらっしゃい。お、リリアちゃんじゃないか、久しぶり」
「おじさん、久しぶり」
中はカウンターとテーブルが3つあるだけの小さな酒屋だった。客は男が二人テーブルに座っているのみだった。その二人も冒険者というより職人の様だった。
「冒険者はいないのか」
「ここは依頼の仲介はしてないからね、純粋な酒場なのよ」
レイハルトの疑問にリリアが答える。
「リリアちゃん、今日は連れがいるのかい。なんだ?リリアちゃんの良い人か?」
カウンターの奥の男性、おそらくマスターだろう、が茶化すように言う。
「違うわ、仕事仲間よ」
しっかりと否定するが、顔が若干赤くなっていた。ただ、店内が薄暗いこともあって誰も気が付かなかった。
リリアがカウンターに座ったのでレイハルトも隣に腰を下ろす。
「マスター、いつもの、こいつには弱めのをお願い」
「了解、なんだ兄ちゃん、酒苦手なのかい?」
「いや、飲んだことがないらしいんだ」
「なに!?その年でか!?」
やはり驚かれる。
「何でも、彼の故郷では酒は20歳にならないと飲んじゃいけない決まりだったみたい」
「なんだ、兄ちゃん旅商人か。しかし、珍しい決まりだな」
「私も聞いたときに驚いたわ」
そんな話をしているうちに酒が入ったグラスが二つ出てきた。
「ちょっとまってな」
マスターは肉を焼きはじめる。
「珍しいハーブが手に入ったから、それを使ってみた」
そういってステーキのような肉が二つ並ぶ。
リリアがステーキを食べながら酒を飲む。レイハルトもそれにならう。ステーキはこってりしたソースをさっぱり気味のハーブがうまい具合に調和していた。
「どうだ、うまいだろ」
マスターの質問にレイハルトは頷く。そして酒を飲んでみる。
アルコールが喉を刺激し、アルコールと果実の香りが鼻を通る。そして、
「甘い」
レイハルトは酒は苦いものだというイメージを持っていた。しかし、この酒は苦みはほとんど無く、果実の甘味が強かった。
「そりゃ甘いのを選んだからな。初めてだし飲みやすいものをと思ってな」
その後は最近の王都の話など他愛もない話をした。
「マスターごちそうさま。また来るわ」
リリアがお金を払って席を立つ。
「おう、またな。っと、兄ちゃん」
マスターに手招きされたので近寄ると腕を肩に回して耳元で囁いた。
「あんないい女、そうそういねえぜ。逃がすんじゃねえぞ」
「は、はい」
レイハルトはあいまいに頷いて店を出た。
「なあリリア」
レイハルトは酒場から気になっていたことを聞いた。
「同業者って?あと旅商人って」
「ああ、あそこでは私商人の娘ってことにしてるのよ」
「ああ」
レイハルトは納得した。本当のことを明かせるはずもないし、マスターと気軽に話すには商人ぐらいがちょうどいい。
王城の裏にたどり着いたリリアはまたレンガを押そうとする。
「リリア、ちょっと待った」
レイハルトはリリアに待ったをかけてアイテムストレージを操作し、足元にテレポーターを設置した。
「この方が楽でしょ」
「それもそうね」
二人はテレポーターでリリアの部屋に戻った。
甘口の方が飲みやすいってのは私の主観です。人によって異なると思います




