お茶会が終わって
「お疲れの様ですね、姫」
帰りの馬車の中、レイハルトから口を開いた。
「ええ、まあ。貴方も騎士の方々に囲まれていたようだけれど大丈夫だった?」
「はい、旅での話を聞かれただけですから」
「そう、こっちと同じなのね」
二人はあの話題には触れようとしなかった。レイハルトがリリアの婚約者候補第1位だという話には。
お互いにその話は聞いていたが、その話をすると今の関係が壊れてしまう。そんな予感が二人にはあった。
ちなみにレイハルトが敬語なのは一緒に侍女がいるから。二人きりの時以外ではそのほうが良いと判断したのだ。
「あ、そうだ」
リリアがレイハルトの隣に移動する。
そして、そのまま、顔を近づけてくる。レイハルトは騎士たちから聞いた話を思い出してしまい、鼓動が早くなる。
リリアはレイハルトの耳元に口を近づけてささやいた。
「明日、町に行きましょう」
「はい?」
緊張していただけに変な声を出してしまった。
「詳しい話はあとでね」
「は、はい」
周りでは侍女たちがニヤニヤしている。
王城に着くとそのままリリアの部屋に移動した。
「明日町に行くわよ」
リリアは改めてそういった。
「町って城下のことか?」
「ええ」
レイハルトの疑問をリリアが肯定する。
「貴方と初めてここに来たときに言った酒場があるじゃない、あそこに行くわ」
レイハルトは記憶を掘り起こす。
「ああ、あそこか。でも酒は」
「一回飲んでみましょうよ。飲めないとそれだけで馬鹿にされることもあるし」
「そうなのか」
「ええ、男だと特にね」
日本でも昔はそうだったと祖父に聞いたことがある。こんな中世ヨーロッパみたいな世界だ。そう風潮があってもおかしくはないか。
「分かった。飲んでみるよ」
レイハルトがそういうとリリアが頷いた。
「それじゃあ、あとは時間とかね」
「リリア、何でそんなに楽しそうなんだ?」
嬉しそうに話すリリアにレイハルトが聞いた。
「だって今まで一人で出かけてたのよ。相手がいるってだけで楽しくなるわ」
「そういうもんか」
「そういうもんよ」
そこからは時間やどう行くかなどを話し合った。ちなみにオルガはお留守番。さすがに狼を街中にはそうそう出せないそうだ。
その夜レイハルトはなかなか寝付けずにいた。明日のデート、もとい酒場行が楽しみで寝付けないわけではない。今日お茶会で聞いたことが頭からなかなか離れない。
(俺がリリアの婚約者候補第一位?)
ありえないと首を振って頭から追い出そうとする。そもそも、レイハルトとリリアでは身分が違いすぎる。他の貴族が黙っているわけがない。
横になってもなかなか寝付けそうになかったので最近ご無沙汰していたクラフトをすることにした。
クラフトが出来なかったのはクラフトアイテムが魔道具扱いされるためだ。ただの旅人がバンバン魔道具を作ったら確実に怪しまれる。
しかし、今は個室で深夜だ。ばれることはまずない。それに作ってみたいものもあった。
「素材が分からないが、あれが出来れば」
レイハルトはアイテムストレージからアイテムをいくつか出してクラフトを始める。
少し少ないですが区切りがいいのでここで投稿します




