近衛と魔術師
翌日、レイハルトたちが訓練場に顔を出してみると、訓練場はやけに騒がしかった。
「何かあったのかしら」
二人は人が集まっている方に寄っていった。ちょうど困り顔のグランツを見つける。
「グランツ将軍、何かあったんですか?」
「ああ、君か。ちょうど良いところに。いや、良くはないか」
レイハルトはグランツが見ている方に目を向ける。
そこでは騎士とローブを着た男、多分魔術師と騎士とも一般兵とも違う兵士?が口論していた。状況的には騎士に残りが怒鳴っているような状況だ。
「魔術師と一緒にいるのは誰ですか?」
「彼は近衛の者だ」
近衛、近衛兵。はて、どこかで聞いたことがある気がするがグランツの説明にはいなかったはずだ。
「そういえば近衛兵のことは言っていなかったな」
グランツは口論中の人たちを見ながら説明を始める。止めなくていいのか?
「近衛兵も私の下にいることには変わりないが、兵士や騎士と違って国を守るのが仕事じゃない。彼らの仕事はこの王宮と王族を守ることだ。だから騎士や兵士は軍、近衛兵は近衛兵と分けている。それぞれにトップもいるしな」
「その、総括があなたであると」
「まあそういうことだ。ついでだから魔術師についても説明しよう」
(あの、彼ら、剣持ち出したんですけど。止めなくていいんですか?)
「魔術師団は私の管轄から外れた独立組織だ。主に魔術の研究をしている。もちろん戦時は軍同様出撃してもらうがな」
「トップがあなたでないとなると、誰がトップなんですか?」
「魔術師団はスレンディット公爵だな」
(うげ!)
ここでも来たか、スレンディット公爵。
「彼は魔法研究の第一人者だからな」
レイハルトがリリアの方を見てみると、嫌そうな顔をしていた。魔法研究の第一人者が外道な方法をとろうとしているとは。いや、第一人者だから、か。
「ただまあ、彼らにも派閥はあるようだがな」
「すべてがスレンディット公爵に従っているわけではないと?」
「ああ、一部ではあるがな」
それはうれしい情報だ。何とか彼らをこちら側に引き込めないだろうか。
「とまあ、こんなところだ」
グランツはそういうといきなり踏み込んで前に跳ぶ。近衛の剣と騎士の剣が振り下ろされる瞬間、グランツが間に入り両方の剣を受けとめた。素手で。
「ぐ、グランツ将軍!?」
周りが皆驚いている。剣を二本片手で白刃取りとかどうなってんだこのおっさん。
「そこまでだ。ちょうど当人も来ていることだしな」
グランツがレイハルトを見ると、他の全員も続く。
「あ、レイハルトさん。今日は来てくれたんですね」
「な、レイハルト!」
(ん?聞き覚えがある声が)
レイハルトが声のした方に顔を向けるとマルファスがいた。
「貴様!軍と手を組んで何を企んでいる!」
「何をと言われても、何も」
「嘘をつくな!」
「なぜ嘘だと?」
「オルキス様から貴様が軍とともに何かを企んでいるという話を聞いた」
(オルキス、あいつか)
「さあ、吐け。貴様は何を企んでいる!」
「オルキス様の勘違いだろ。俺は騎士や兵士たちの訓練を付き合っているだけだ」
「だから、さっきからそういっているだろ」
騎士の人も援護してくれる。
「しかし、オルキス様は」
「証拠はあるのか?」
「何?」
マルファスは首を傾げる。
「お前は俺と軍で何かを企んでいるのを実際に見たのか?聞いたのか?」
「それは」
「証拠もないのになぜ決めつけられる」
マルファスは黙り込む。
「しかし、オルキス様が言っていたのだから」
「上の人の事が全て真実とは限らないだろう。勘違いすることだってある。もし、断罪したいなら証拠を持ってこい」
マルファスはうつむいて黙り込んだ。
「近衛の方々も同じ理由ですか?」
近衛兵は半分は頷き、半分は首を振った。
「私たちは、軍と一緒にあなたに教えを乞いたいと思ってきました」
残り半分はその気はないのかこちらを睨み付けている。
「分かりました。教えられることはあまりありませんが私でよければ喜んで」
魔術師団と近衛の半分はそのまま帰り、残りと軍は一緒に訓練をすることになった。




