王子の勧誘
「レイザス様、フィルリリア様とレイハルト様をお連れしました」
「入れ」
二人はメイドに促されてレイザスの部屋に入る。
「やあ、待っていたよ」
レイザスが不敵な笑みをたたえて座っていた。
「レイザス兄様、なんの御用でしょうか」
メイドが立ち去るのを待ってリリアが口を開く。
「なに、少し話をしようと思っただけだ」
レイザスは足を組む。
「昨日の模擬戦、見事であった。まさかグランツもマルファスも負けるとは」
「ありがとうございます」
レイハルトは頭を下げた。この男、何を狙っている。
「特に君の魔法は興味深い。昨日の火の魔法。あんなことはエレナでも出来ないだろう。見たことない魔法もあったしな」
二人は黙っている。レイザスは尚も話し続ける。
「君の剣技もなかなかのものだ。君と同じことができる人間が果たして何人いるか」
あれは武技であり、マイクロチップのアシストがあって出来ることなので多分同じことができる人間はこの世界にはいない。
「どうやら騎士の中にも君に教えを乞いたいと思っているものが何人もいるとの話が」
「お兄様、早く本題に入ってください」
長々と話しているレイザスをリリアが途中で遮る。
「ちっ、愚妹が。まあいい、本題だ」
レイハルトは気を引き締める。
「リリア、その男を俺に寄越せ」
「お断りします」
即答だった。当然と言えば当然か。レイハルトはリリアの計画の核。失うわけにはいかない。
レイザスもその回答を予測していたのか笑みを崩さない。
「そうだと思ったよ。なら、レイハルト」
レイザスは真剣な顔をしてレイハルトを見る。
「王子として命ずる。リリアのもとを離れ私のもとに付け」
そう来たか。通常、王族の命令は絶対。それが王位継承権持ちとなると国王に次ぐ権力を有する。リリアが驚いてレイハルトの方を見る。
「国に仕える騎士ならば、私の命令には逆らえまい。私の騎士となれ」
「お断りします」
その言葉にレイザスが目を見開く。
「なに!貴様!国に仕える騎士が俺の命令に背くのか!」
先ほどまでの余裕のある態度は消え、立ち上がり叫ぶ。
「そんなことをしてどうなるか分かっているのか」
「私は国に仕えているわけではありません」
「何!」
レイハルトは静かに続ける。
「私が使えているのはフィルリリア様個人であり国ではありません」
「戯言を、リリアに仕えている時点で国に仕えていると同義」
「国に仕えることは国王陛下の前で辞退させていただきました」
昨日のことを思い出す。
確かにレイハルトは謁見の間で国王の騎士として国に仕えることを断った。そして強引にリリアが自分の専属騎士にしたのだ。
「貴様、家族や親族がどうなっても。っと貴様には親族はいないのだったな」
レイザスは舌打ちをする。そのことを忘れ、権力で脅せばどうにかなると思っていたようだ。
「だが、いいのか。俺に逆らえばこの城で暮らせなく出来るぞ」
「私ならばフィルリリア様を守りつつこの城の兵すべてと対峙して、逃げ切れる自信があります。なんならばこの城を破壊することも」
レイハルトの言葉にレイザスはさらに食って掛かろうとするが、権力が効かない、実力も最強となると打つ手がないのか腰を下ろす。
「ちっ、よっぽどその女に入れ込んでいるようだな。まあいい、この話は無しだ。帰っていいぞ」
二人がドアを出る直前にレイザスの言葉が届く。
「後悔しても知らんぞ」
レイザスの部屋を後にした二人はその足で書庫に向かうことにした。
「しかし、さっきのあなたかっこよかったわ」
「そうか?」
「なるほど、私個人に仕えているか。そういう解釈もあるのね」
「もともとそのつもりじゃなかったのか?」
「あの時はあなたを引きとめるので精一杯だったから。そこまで考えてなかったわ」
おいおい。
「でも、そうね。そういうことにしておいた方がいいわね」
リリアが立ち止まり、レイハルトの方を向く。
「改めて、レイハルト。私の剣として、盾としてその身を捧げなさい」
「はい、フィルリリア様」
レイハルトは騎士の礼のようなポーズをとる。
「それで、フィルリリア様」
「……、誰もいない時はリリアと呼びなさい」
少し照れたように言うリリア。
「リリア、レイザス様が俺を引き入れようとした理由て分かるか」
リリアは少し考え込んでから顔を上げる。
「確証はないけど予測は立つわ」
「それでもかまわない」
「多分だけど……」




