公爵とクラーキス
「なんだ、あの男は!」
男の怒号が部屋の中に響く。男の前にはオグゾルがいた。
「本人は旅人と称していますが」
「ただの旅人があれほどの力を持っているものか!」
「しかし、スレンディット公爵」
「貴様も貴様だ、クラーキス伯爵。なぜ姫だけ連れてこなかった」
「それが」
オグゾルは公爵に姫を見つけた時のことを話した。
「駆け落ち、だと。確かに、今日もベランダで仲睦まじそうにしていたな」
その時のことを思い出しオグゾルは歯噛みした。なぜ、あんななんの権力も持たない下民なのだと。
「しかし、城行きを提案したのはあの男だったのか」
「はい、その通りです」
「何を考えているのだ、あの男は」
あの時に城に行けば、二人は離される可能性もあった。結果的にそうはならなかったがその可能性も十分にあったのだ。もし本当に恋仲なら駆け落ちを選ぶのではないだろうか。
「それと姫の様子から我々の計画に気づいているようです」
「そのようだな。私に言えと言った時点で確定だろう。どこから漏れた。失敗作でも見られたか」
情報管理は徹底して秘匿していたはずだ。リリアにも魔物を召喚してもらった後の実験は見せていない。
実際にはリリア自身が召喚した魔物を使って情報を集めていたのだが、彼らにそれを知る術はない。
「そうなると、姫を実験に自主的に参加させるのはもう無理か。無理矢理やらせようにもあの男が邪魔だ」
公爵が舌打ちをする。実力はこの国で最強クラス、そのうえ権力は一切効かない。これほどやりにくい相手は初めてだった。
「計画の方はどのくらい進んでいますか?」
「姫がいなくなってからはあまり進んでいない。何せ、人が足りないからな」
魔物の死体ではなく生きたままのものが必要となる以上人手はかなりいる。
しかし、リリアが城を飛び出したことでそちらに人員を割かなければならず魔物の捕獲に人をあまり回せなかった。完全にリリアの狙い通りになっていた。
「だが、もう少しだ。もう少しで完成するのだ。この、魔人兵計画も」
魔人兵。人間と魔物を魔術によって無理矢理融合させて、強力な兵士を作る計画。これが成功すればこの国の軍事力は劇的に上昇する。
「だから、絶対に邪魔をさせるわけにはいかない」
スレンディット公爵は拳を震わせる。もうすぐ長年の研究が実を結ぶ時が来る。
「しかし、足りないものがある」
「足りないもの、ですか」
いったい何がと首をかしげるオグゾル。
「ドラゴンだ」
その言葉に驚くオグゾル。
「ど、ドラゴンを生け捕るのですか?」
「いや、生け捕る必要はない。死体で構わない」
ドラゴンを生け捕れなどと無理難題を吹っ掛けられなくてほっとしたが、すぐに考え直す。ドラゴンを討伐するのも普通の人間ならまず無理だ。そう、普通なら。
「あの男、利用させてもらうか」
レイハルトならばドラゴンを討伐できるかもしれない。出来なくて死んでくれてもいい。そんな思惑がスレンディット公爵にはあった。
「王子にも少し働いてもらうか」
スレンディット公爵は不敵な笑みを浮かべた。
キリがいいので少し短いけど投稿します。これがデフォにはならないのでご安心を




