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SFゲームの1000年後はファンタジー(旧名SF世界からの漂流者)  作者: アロマセラP
EPISODE1 第1章
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リリアの過去と家出

レイハルトはこれから住むことになる部屋へ案内された。結局、レイハルトに専属騎士なるかならないかを聞かれることはなかった。まるで図られたかのようだ。


「こちらになります」


 案内された部屋は15畳くらいはありそうな広めの部屋だった。広さ的にはここだけで生活できそうだ。日本のマンションだと広いほうではなかろうか。


(一戸建てに住んでた俺にはよくわからんが)


 部屋には大き目のベッドと机、クローゼットのようなものがあった。もちろん台所なんかはない。


「今日は姫様がお帰りになられたので宴を催します。時間になりましたらお呼びしますのでそれまでお寛ぎください」


 そういって案内してくれたメイドさんが出ていった。


(さて、何をしよう)


 くつろいでくれと言われたが、いかんせんすることがない。今まで考えてこなかった、否、考える余裕がなかったが、ここにはスマホがない、もちろん電波もない。


クラフトをしようかと思ったが、魔道具(本当は違うが)を作れるところを誰かに見られるのはまずい。リリアにも魔道具は売るなと言われていた。


ここで住むと言っても服はコスチューム変更でどうにでもなるしわざわざクローゼットに入れておく必要はない。


リリアに少し話を聞きに行きたいがここで待っていろと言われているから今は動かないほうがいいだろう。


 完全に暇を持て余したレイハルトは武器の手入れ(ごみをとる程度)をし、それも終わったので、昔話の本を読むことにした。


一通り目は通してあるがこの前は流し読み程度だったので今回は少しじっくり読むことにした。とはいえ何か新しく分かったものがあったかというとなにもなかった。


 半分くらい読んだところでドアがノックされた。


「宴の準備が出来ました」


 メイドさんに連れられて行くと、先ほどの謁見の間を少し小さくしたくらいの部屋に、たくさんのテーブルとその上に料理が並べられてた。


もうすでに結構な数の人が来ていた。レイハルトが部屋に入ると部屋のあちこちから睨まれた。


(うわー)


 レイハルトが少し引いていると横から声をかけられた。


「よう、レイハルト殿」


「あ、どうも、グランツさん」


 将軍であるグランツだ。グランツは笑って背中を叩いてくる。


「いきなり大人気だな」


「こんな人気は嫌です」


 人気というかただただ嫌われているだけだと思うが。


 少しグランツと話をしていると周りからおお―、という声が上がった。


何事かとみんなが見ている方に目を向けてみるとどうやらリリアが入ってきたようだ。そしてその姿に思わず見惚れてしまった。


 リリアは先ほどまでの薄青色のドレスではなく、黒に銀の刺繍の入ったドレスを着てる。


リリアの銀髪が、白い肌が黒いドレスを映えさせ、色っぽさも先ほどよりも上がっている。


(銀髪にそれは卑怯だー!)


 そう叫びたくなるぐらいに今のリリアは美しかった。そんな彼女が優しそうな笑みを浮かべれば男どもの頬が緩むのも仕方がない。


「このたびはわたくしがご迷惑をおかけし申し訳ございません」


 リリアが少し声を張り上げて話す。この世界にはマイクなんてものはないから仕方がない。


「お詫びとしてささやかながら宴の場を設けました。どうぞごゆっくりして言ってください。それでは」


 そういうと、メイドたちが一人一人にグラスを配り、おそらくワインを注いでいく。全員にいきわたったことを確認すると乾杯の合図とともにグラスの中の物を飲む。


「なんだ?レイハルト殿。飲まないのか?」


「飲んだことがないので」


 まだ口をつけていないレイハルトにグランツが聞く。


「飲めないかもって思っているのか?大丈夫だ。飲んでれば慣れる」


 それ現代医学で否定されてるから!


 そんなことを考えるも口には出せない。じーっとワイングラスを眺めているレイハルトを見て、グランツがグラスを取り上げ、一気に飲み干す。


「少しは飲めるようにしておいた方がいいぞ、今後のために」


「ありがとうございます」


 レイハルトは礼を言ってからになったグラスを受け取る。


「それよりもお前はさっさと姫様のところに行って来い。専属騎士だろ」


 そういわれリリアの方に顔を向けるとこちらを向いているリリアと目があった。レイハルトはリリアの隣まで歩いていく。


 リリアは貴族たちから挨拶されて大変そうだ。その大半が無事の帰還を祝う言葉ばかりだったが、時折政治的な会話が入っていたような気がする。気のせいかもしれないが。


ただ、貴族のほとんどがリリアに挨拶した後、レイハルトを睨んでから去っていく。


「リリア、無事に帰ってきたんだね」


 優しそうな声がして、そちらに顔を向けてみると一人の青年が立っていた。


「レファンス兄様。ご心配をおかけしました」


 兄様ということはこの国の王子か。レイハルトは頭を下げる。


「レイハルト、紹介します。この人はレファンス。この国の第一王子よ」


「レファンスだ。よろしくね、レイハルト殿」


「よろしくお願いします。殿下」 


 レファンスは研究者気質なようで話しているとなかなか興味深い話が聞けた。特に魔法については知らないことばかりなのでかなり情報を得られた。


「なるほど。レファンス様が王になったらこの国は魔法大国になりそうですね」


 その言葉にレファンスとリリアの顔が少し曇った。もしかしてもうすでに魔法大国だったか?


「実は僕は王位継承権がないんだ」


「え?第一王子なんですよね」


「レファンス兄様は昔から身体が弱くて、王位を託すのはどうかという話があったの」


「じゃあ、今の王位継承権は」


「俺だ」


 リリアの方を向こうとして後ろから声が聞こえてそちらを向く。そこにはレファンスより少し年下だと思われる青年がいた。


「この俺、レイザスが王位継承権を持っている」


 レイザスは胸を張り、まるで虫でも見るかのような目でレイハルトを見ていた。


(こいつもか)


 レイハルトはうんざりした。最近こんな奴らばっかりとあっている。


「お前がリリアの専属騎士か。愚妹が、変なものを拾ってきやがって。のたれ死んでしまえばよかったものを」


「あら、レイザス兄様。あなたにとっては戻ってきてくれてよかったのでは」


「何を訳の分からないことを。お前、あまり変なことはするなよ」


 そういうとレイザスは去っていった。


「すまないね弟が。あれでも第二王子なんだ。昔はあんなんじゃなかったんだが」


「王位継承が決まってからでしたっけ」


 なんでも、王位継承権がレファンスからレイザスに移った途端、まるで国はもう自分の物のようにふるまっているのだとか。


「それより言い忘れていた。妹を救ってくれて、ありがとう」


「いえ成行きでしたので」


 そしてまた会話に戻る。


 リリアが外の空気を吸いたいと言うので一緒にベランダに出る。冷たい夜風が吹く。


 今ここには二人だけ。聞くなら今だと思い聞いてみる。


「なあ、教えてもらってもいいか?」


「何を?」


「リリアが城を出た理由」


 リリアは少し俯く。


「前は話したくないなら話さなくても良いと言った。でもこれからは、話してくれないと守れないかもしれない」


 リリアはまだ顔を上げない。レイハルトは黙って待った。もし本当に婚約云々の話だったらよいのだが、そうではないと彼女の行動が示している。


 リリアが呟くように話し始めた。


「私、召喚術士なの」


「召喚術士?」


 ゲームではそんなジョブはなかったはずだ。ここにもゲームとの相違点が。


「そう、魔力を使って魔物とかを呼び出して使役できる人たちのこと。結構数が少なくてね」


 そうしてリリアは自分の過去を語り始める。


「私が召喚術士として目覚めたのは5歳の時。城が賊に襲われてね、私は連れ去られそうになったの。その時に力が目覚めて召喚した。その時に召喚したのがオルガよ」


 今この場にはいないフェンリルのことだ。彼はリリアのことを主と言っていた。あれはそういうことか。


「それで、私が召喚術士だということが分かっていろいろ勉強したわ。召喚のこと、魔物のこと。召喚術に関しても。前はいろんな魔物を呼び出していたわ」


 レイハルトはリリアが魔物を呼び出したところを見たことがない。だから少し意外だった。


「そうしていたある日、スレンディット公爵が実験に力を貸して欲しいって言われたわ」


「実験?」


 この科学が発達していない世界で実験だと?


 レイハルトは少し嫌な予感がした。


「そう、魔法のね。魔物を使った実験。今までは魔物を捕まえてきて行ってたみたいなんだけど、私の力があればそんなことしなくて済むからって」


 確かに、魔物を生け捕るのは大変だろう。殺してしまう方がずっと楽だ。それに実験の内容にもよるが大量の魔物が必要となるかもしれない。


「私は国の為にと言われて協力したわ。でも、協力するべきじゃなかった」


 リリアの身体が震える。それは怒りか、別の何かか。


「いったい、どんな実験だったんだ?」


 正直聞くのが怖かった。おそらくは人体実験の類だ。元の世界ではすでに禁止されている。


耐性がない自分が聞いても大丈夫だろうか。しかし、聞かないわけにもいかない。


ここまで聞いたのだ、腹をくくる。


「魔物と人間を魔術で合体させるの。そうすることで人間でも魔物の力を得られる」


 魔物と人間の混合。獣人みたいなものか。しかし、そういったものが作られるのだから獣人は存在しないのだろう。


「そんなことをして、平気なのか?」


「平気なわけないわ。ほとんど皆、合体した後に苦しみながら死ぬか、暴走して殺されるかのどちらかだったわ」


 拒絶反応か。そりゃそうだろう。


いくら魔法で混ぜ合わせたと言っても異物が身体の中に入ることに変わりはない。移植手術と同じだ。


「成功例はあったのか?」


「私が知る限りいないわね」


 つまり、全員が死んだということ。そのことに徐々に怒りを覚えるレイハルト。


「そして私は城から抜け出した。私が魔物を呼び出さなければ魔物を手に入れるのに時間がかかる。それに私を探そうと人手を割く。これでかなり時間稼ぎが出来ると思って」


 そりゃそうだ。お姫様がいなくなったと分かれば兵士を使って探すだろう。


「そして、スレンディット公爵を止められる人を探そうと思ったの。まあ、こちらは出来れば、程度だったけど。それが2年前」


 そしてリリアは言葉を切る。人体実験。それに自分の力が利用されていた。


いったい当時のリリアはどれだけショックを受けたのだろうか。


レイハルトはかたく拳を握る。その左の拳をリリアが優しく包み込む。


「でも、私はあなたを見つけられた。あなたなら公爵の実験を止められる。そんな気がするの」


 実験を止める。言うのは簡単だが大変だ。


ゲームでも人体実験を行っているやつを止めるストーリーがあった。その時は親玉を殺すことで解決した。だが、今の俺は。


(また、人を殺すのか)


 自分の右手を見ながら思案する。リリアの頼みを受けるのならその可能性が十分に出て来る。その時になって剣を振り下ろせるだろうか。


「別に、公爵を殺してほしいってわけじゃないの。実験さえ止めてもらえば」


 顔に出ていたのだろう、リリアからフォローが入る。


「だが、実際無血で止めるのは難しいと思うぞ。それに、向こうは国の為と言ってやっているんだ。止めるにもそれ相応の理由がいる」


「人が死んでるのよ!」


 リリアが少し声を荒げる。しかし、レイハルトはここ数日で見た貴族の反応からの予測を言う。


「あの貴族連中だ。平民が少し犠牲になっても研究が進むならと問題にはされないだろう。あいつらは民のことを虫や動物とでも思っているかのような目で見てくるからな」


 あの目は人を人と認めていない目だった。そんな奴らが実験で平民が死んだくらいで動くだろうか。


 リリアはレイハルトの強く握りしめられた手をほぐすように開いていく。そしてまた、両手で手を包み込む。


「今すぐは無理なのは分かってる。でも、いつか、できれば近いうちに、スレンディット公爵の実験を止めてほしいの」


「分かった。それがリリアが城を抜け出して、そして、俺をここに留まらせた理由なんだな」


 リリアは頷く。そして左手を包んでいる手に力がこもる。こうもまっすぐな瞳で頼まれたら断ることは出来ない。


「俺にどこまでできるか分からないが、リリアの期待に応えられるよう頑張るよ」


 リリアは輝くような笑顔とともに詰め寄ってくる。服装と相まって理性が崩壊寸前だった。


完全に二人きりだったら押し倒していただろう。それぐらい今のリリアは魅力的だった。


 その後、そんなレイハルトを連れて宴の会場に戻った。レイハルトはなかなかドキドキが収まらなかった。


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