宴
レイハルトはこれから住むことになる部屋へ案内された。結局、レイハルトに専属騎士なるかならないかを聞かれることはなかった。まるで図られたかのようだ。
「こちらになります」
案内された部屋は15畳くらいはありそうな広めの部屋だった。広さ的にはここだけで生活できそうだ。日本のマンションだと広いほうではなかろうか。
(一戸建てに住んでた俺にはよくわからんが)
部屋には大き目のベッドと机、クローゼットのようなものがあった。もちろん台所なんかはない。
「今日は姫様がお帰りになられたので宴を催します。時間になりましたらお呼びしますのでそれまでお寛ぎください」
そういって案内してくれたメイドさんが出ていった。
(さて、何をしよう)
くつろいでくれと言われたが、いかんせんすることがない。今まで考えてこなかった、否、考える余裕がなかったが、ここにはスマホがない、もちろん電波もない。
クラフトをしようかと思ったが、魔道具(本当は違うが)を作れるところを誰かに見られるのはまずい。リリアにも魔道具は売るなと言われていた。
ここで住むと言っても服はコスチューム変更でどうにでもなるしわざわざクローゼットに入れておく必要はない。
リリアに少し話を聞きに行きたいがここで待っていろと言われているから今は動かないほうがいいだろう。
完全に暇を持て余したレイハルトは武器の手入れ(ごみをとる程度)をし、それも終わったので、昔話の本を読むことにした。
一通り目は通してあるがこの前は流し読み程度だったので今回は少しじっくり読むことにした。とはいえ何か新しく分かったものがあったかというとなにもなかった。
半分くらい読んだところでドアがノックされた。
「宴の準備が出来ました」
メイドさんに連れられて行くと、先ほどの謁見の間を少し小さくしたくらいの部屋に、たくさんのテーブルとその上に料理が並べられてた。
もうすでに結構な数の人が来ていた。レイハルトが部屋に入ると部屋のあちこちから睨まれた。
(うわー)
レイハルトが少し引いていると横から声をかけられた。
「よう、レイハルト殿」
「あ、どうも、グランツさん」
将軍であるグランツだ。グランツは笑って背中を叩いてくる。
「いきなり大人気だな」
「こんな人気は嫌です」
人気というかただただ嫌われているだけだと思うが。
少しグランツと話をしていると周りからおお―、という声が上がった。
何事かとみんなが見ている方に目を向けてみるとどうやらリリアが入ってきたようだ。そしてその姿に思わず見惚れてしまった。
リリアは先ほどまでの薄青色のドレスではなく、黒に銀の刺繍の入ったドレスを着てる。
リリアの銀髪が、白い肌が黒いドレスを映えさせ、色っぽさも先ほどよりも上がっている。
(銀髪にそれは卑怯だー!)
そう叫びたくなるぐらいに今のリリアは美しかった。そんな彼女が優しそうな笑みを浮かべれば男どもの頬が緩むのも仕方がない。
「このたびはわたくしがご迷惑をおかけし申し訳ございません」
リリアが少し声を張り上げて話す。この世界にはマイクなんてものはないから仕方がない。
「お詫びとしてささやかながら宴の場を設けました。どうぞごゆっくりして言ってください。それでは」
そういうと、メイドたちが一人一人にグラスを配り、おそらくワインを注いでいく。全員にいきわたったことを確認すると乾杯の合図とともにグラスの中の物を飲む。
「なんだ?レイハルト殿。飲まないのか?」
「飲んだことがないので」
まだ口をつけていないレイハルトにグランツが聞く。
「飲めないかもって思っているのか?大丈夫だ。飲んでれば慣れる」
それ現代医学で否定されてるから!
そんなことを考えるも口には出せない。じーっとワイングラスを眺めているレイハルトを見て、グランツがグラスを取り上げ、一気に飲み干す。
「少しは飲めるようにしておいた方がいいぞ、今後のために」
「ありがとうございます」
レイハルトは礼を言ってからになったグラスを受け取る。
「それよりもお前はさっさと姫様のところに行って来い。専属騎士だろ」
そういわれリリアの方に顔を向けるとこちらを向いているリリアと目があった。レイハルトはリリアの隣まで歩いていく。
リリアは貴族たちから挨拶されて大変そうだ。その大半が無事の帰還を祝う言葉ばかりだったが、時折政治的な会話が入っていたような気がする。気のせいかもしれないが。
ただ、貴族のほとんどがリリアに挨拶した後、レイハルトを睨んでから去っていく。
「リリア、無事に帰ってきたんだね」
優しそうな声がして、そちらに顔を向けてみると一人の青年が立っていた。
「レファンス兄様。ご心配をおかけしました」
兄様ということはこの国の王子か。レイハルトは頭を下げる。
「レイハルト、紹介します。この人はレファンス。この国の第一王子よ」
「レファンスだ。よろしくね、レイハルト殿」
「よろしくお願いします。殿下」
レファンスは研究者気質なようで話しているとなかなか興味深い話が聞けた。特に魔法については知らないことばかりなのでかなり情報を得られた。
「なるほど。レファンス様が王になったらこの国は魔法大国になりそうですね」
その言葉にレファンスとリリアの顔が少し曇った。もしかしてもうすでに魔法大国だったか?
「実は僕は王位継承権がないんだ」
「え?第一王子なんですよね」
「レファンス兄様は昔から身体が弱くて、王位を託すのはどうかという話があったの」
「じゃあ、今の王位継承権は」
「俺だ」
リリアの方を向こうとして後ろから声が聞こえてそちらを向く。そこにはレファンスより少し年下だと思われる青年がいた。
「この俺、レイザスが王位継承権を持っている」
レイザスは胸を張り、まるで虫でも見るかのような目でレイハルトを見ていた。
(こいつもか)
レイハルトはうんざりした。最近こんな奴らばっかりとあっている。
「お前がリリアの専属騎士か。愚妹が、変なものを拾ってきやがって。のたれ死んでしまえばよかったものを」
「あら、レイザス兄様。あなたにとっては戻ってきてくれてよかったのでは」
「何を訳の分からないことを。お前、あまり変なことはするなよ」
そういうとレイザスは去っていった。
「すまないね弟が。あれでも第二王子なんだ。昔はあんなんじゃなかったんだが」
「王位継承が決まってからでしたっけ」
なんでも、王位継承権がレファンスからレイザスに移った途端、まるで国はもう自分の物のようにふるまっているのだとか。
「それより言い忘れていた。妹を救ってくれて、ありがとう」
「いえ成行きでしたので」
そしてまた会話に戻る。
リリアが外の空気を吸いたいと言うので一緒にベランダに出る。冷たい夜風が吹く。
今ここには二人だけ。聞くなら今だと思い聞いてみる。
「なあ、教えてもらってもいいか?」
「何を?」
「リリアが城を出た理由」




