模擬戦
場所は訓練場。そこの一段高くなった場所にレイハルトとグランツが立っていた。
グランツは鎧を脱いでいる。周りには先ほど謁見の間にいた人が全員いる。それに加えて騎士団や近衛、魔術師のような人も見受けられる。
「模擬戦のルールは何ですか」
「魔法あり、特殊な何か能力を持っているのならそれもありだ。武器はお互いに同じものを使う。模倣剣だから死ぬことはまずない。勝敗についてはどちらかが降参するか、立ち合い人が戦闘続行不可能と判断したときだ。」
「立ち合い人は私が務めます」
グランツの部下であろう男が彼らの間に立っている。彼が二人に模倣剣を渡す。鞘はない。
(これは片手剣扱いか)
渡された剣を軽く振って使い心地を確かめる。
2人が指定の位置につく。
「それではこれより、旅人レイハルトとグランツ将軍の模擬戦を始めます」
お互いに剣を構える。
「はじめ!」
合図とともにグランツが突っ込んでくる。上段からの攻撃をレイハルトはジャストガードする。グランツの剣をはじき、反撃を叩き込む。
「むっ!」
グランツはバックステップで反撃を回避する。この世界に来て初めて反撃をかわされた。
(将軍は肩書だけじゃないってことか)
お互いに構え直す。お互いに少しずつ距離を詰める。次に飛び出したのはレイハルト。
一気に距離を詰めて横なぎに切りかかる。グランツはそれを剣で受けとめる。レイハルトは連続で攻撃を繰り出すも全て捌かれる。グランツの反撃を回避して距離を取る。
ふと、リリアの安心した顔が目に入る。本気で殺さないか心配されていたようだ。
「戦いの最中によそ見とは余裕だな」
グランツが再び距離を詰める。レイハルトは攻撃を剣で受けとめ、二撃目をジャストガードからの反撃。
「お、おいあいつ」
「ああ。将軍と互角に渡り合っているぞ」
この国の兵士だろう。レイハルトの実力に驚いているようだ。
「君は魔法も使えるのではなかったか?どうして使わない」
「使わせてみたらどうですか?」
「ほう」
どうやら挑発には乗ってこないようだ。慎重に隙を伺っている。
(さすがに武技なしだと無理か)
このままだとなかなか終わらないと判断したレイハルトは武技を使うことにする。
レイハルトは「バーチカルシュニット」をレベル14で起動し突進からの上段切りを繰り出す、が普通に受け止められる。
ならばと一旦距離を取り「モーメンシュニット」をレベル16で起動する。
すると、レイハルトは一瞬にしてグランツの目の前まで起動し縦、左、右の3連撃を繰り出す。
2撃目までは防いだが3撃目をわき腹に叩き込まれる。そのままグランツは吹き飛ばされた。
「参った」
グランツは起き上がると降参の意を示した。ざわめきが走る周りとうれしそうな顔のリリア。
「あのグランツが負けた、だと」
「信じられん」
グランツはレイハルトの方に歩いてくると、手を差し出した。
「まさかこれほどとはな。しかもまだ本気ではないな」
握手をしながら言う。その言葉に周りの人たちがぎょっとした顔をする。
「あれでまだ本気でない?」「馬鹿な」
この人なかなか鋭いな。
「鋭いですね、だって殺し合うわけではないですから」
レイハルトは自分で言ってあの時の光景を思い出す、がすぐに頭から追い出す。
「なるほど、君を本気にさせるには本気での殺し合いにならなければならないということか」
「人間相手になりたくはないですけどね」
レイハルトは笑って見せる。
「将軍と戦って笑う余裕があるなんて」
「あいつ、とんでもない化け物だ」
化け物とは失敬な。
「とはいえこれで君がここの騎士の中で一番強いことが証明されたわけか」
やはり、この人が一番だったか。
「これでフィルリリア様の提案を否定する要素はなく」
「ちょっと待った!」




