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無花果  作者: ももいろ珊瑚
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 Ⅸ


『全人類新命完全保護法』の地球全土施行を祝して製本されたであろうこれらの本は一世紀経つ今、地下の禁書書庫に眠っていた

 持ち出すことは疎か手に取る事、目を通す事、タイトルの公開さえされない書物達が某かの理由で、広くはない場所に足元から天井迄と犇めき合い身じろぎも出来ず只並べられている


『終身刑を受けた本達の牢獄』と司書達は呼び、その扉は誰しもが存在しないかの様に素通りする

 年に一度の確認作業で、傷みのみられた本達だけが一時外へと出される訳だが、その作業でさえ進んで遣る司書はいない

 オカルト的な思考が強い人間が多いのだ

 制服の色を黒に変えてやれば皆、牧師に見える人間ばかり

 仕事中もそれ以外も殆ど無表情に近い

 そこだけは私も気に入っている

 話し掛けて来なければ無害な人間の集まりは、いても疲れないで済む


 さて運ばれ出した書籍は他の貴賓扱いの物と敢えて、混ぜられた後に修理箇所発見日時の記されたワゴンに乗り、同階の修繕部署に移動するのだが、背面の整理番号を見れば注意を払わなくともそれだと判るのである

 それらの担当者と成った司書はそれと判れば番号だけを作業報告書の欄に打ち、タイトルや内容を出来るだけ意識の外へと追いやり責任の範囲内の作業を逐えると手早く作業済みワゴンへと突っ込む

『周りに覚られる事なく作業をする事』というのは禁書書庫の確認作業日2週間前から納品日迄、注意事項の一つとして連絡掲示に表れるので周りからはそうなのだと分かるのだ


 私もタイトルさえ目に入ら無ければそうしただろう

 元々が必要を感じない文章を読む事には興味の湧かない方なのだから、厄介な本等係わり合う謂れも無い

『 Man Kloftede 建国に際して 〜奇跡の村と呼ばれる由縁』の十文字程を見なければ、いつもの通りに就業時間まで淡々と手を動かしたに違いない




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