sycamore
Ⅴ
それらのお宝を直接管理し保管保存するのが此処でその修繕、保全、区分け、選別、たまにあるのは何処に仕舞われたのか不明の本を探し見つける事
そうは起きないらしいのだが、その時には司書200人が総出となり探し捲る
私が就任してから2度も遇ったので、中には疫病神を運んで来た男と冗談混じりに呼ぶ者もいる
それにはもう一つ理由があるが、そんなことは知った事では無いので、そう呼び掛けて来た奴らは無視することにしている
私には一つの目的が有った
「Orkide=Whitecaps」と刻まれた墓をこの街で捜しその下に遺髪を埋める、こと
それは唯一知己と呼んだ男のたっての願いで、その遺髪は彼と心中した女の遺した物だ
その為に身分を偽り、証明書も偽造して不正入圏し、此処に紛れ込んだ
“自分が眠る為の場所を探している”と頻繁に墓地の場所ばかり尋ねてくる者を、周りが不気味がるのは至極当然のことであるのだろう
休みをとる度墓を捜し歩いたが未だ見付からない儘でだ
今度の休みにはその女の生家に再度訪れてみる
当初二ヶ月程あれば十分に目的を達成出来ると考えていたのだが、既に七ヶ月も経っている
毎週のノルマは上げているがこの地の輸送技術は最新では無いらしく、届いた物の保存状態が粗悪であるとオペレーターから再三一時帰所を要求されている
研究所内のクリーンルームで最新の検体を提出しろと言って来ている
之に対しに“体調を崩している”“臨時に仕事が入った”などと回避し続けていた
一度帰れば10日間は此処に戻れない
入圏には簡単な手続きで済んだが、出るのには再入圏の分も含め準備しなければ為らない書類が多くて兎に角面倒臭い
おまけに学者肌の上司に渡航先と理由、詳細なスケジュールを提出しなければならず、私は考えるだけで疲れる
あの面倒さを夏の長期休暇を故郷へ戻らずに済ませた同僚達はその理由として挙げていた
実際には手続き云々では無く、帰郷したく無いのであったろうが
子供の仮病の様な理由はそろそろごまかしも利かなく為って来ている、要求が強制に変わるのは時間の問題という所で、墓巡りは今年度はこれが最後に為るだろう