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ⅩⅣ
然るに逃れられない変え難いのがこの実情である
処で、有り得ないことであるがあの銀ボタンが最悪、無能で下っ端で何も悟らずに私を見咎め、上に照会したとして何等苦にならないのだが(この地は私の該当エリアに属している)、それを知ってか知らずか店長は気を回し、早々に私を退座させた
(銀ボタンに接触される私を周りにいる者達がどう見るか、私にプラスには働かない、そして自分も何気に困る、と云うことだな)
何にせよあの人物はあれ等に関係していると云うこと
その位置が呼応するものか背反なのか定かで無いが私には他事である
今持つ身分証に合わせ顔はそれなりに(10歳ほど老けて)造ってはいても手や首元、指して言えば声が年齢に合わないのだと、あの店長は言った
何故年齢を偽るか、実年齢を公に出来ないからだ
逆算すれば |Doomsday Seeds《終末の種実》の一人と知られ身に危険が及びかねない、だから当然のこと極秘事項である
事情を明かす気は更々無いが、まあそこは魚心あれば何とやらで表に書かない素性を抱える者同士と知れれば、ニーズに合うインフォメーションを取り交す他は探らないのが暗黙の了解と云うもの
見知ったという表立った関係の外、懇意も軋轢も無く互いに互いは他事であるべきだ
パブを出て裏手にある焼却炉付き処理機に鞄から抜き出したコピー数枚を投げ入れる
燃える様が見える側面の小窓の灯りが記憶の中のネガを透し、かの時のエイドリックが照らし映された
そして死を全うする直中の彼の痛みが想起され、のたうつ胸は、何故、と彼に問う
(数日前まで幸せだと祝ってくれと言葉を弾ませていた君が何故)
何度となく問い続ける疑問
燃えきる火と共に、彼が命の芽に歓喜した表情が黙したまま消失し、空いたスペースを闇が競って埋める
最早、一刻の猶予なく些かの迷うも生じる事許さずこの粘つく何かを洗い流さんと私は、デザイナーズホテルのあるCENTRUM行きの列車に乗るべくステーションへと歩を運ぶ
派遣センターが職場と共に指定した居所がそこだが行き来が煩わしく、日頃は此処ダージリングサンセットの簡易宿泊所で寝起きしている
だが今夜は現住所としてある部屋に帰る必要がある
一つ、私宛の書簡を受取り確認する為
真の身分に宛てた物は現住所留まりで転送も持出しも不可
あの正式証書、且つ偽造品の類類
偽と露見した場合、私自身も同様だが用意した各所各機関が不味い事になる、そうだ
一つ、各手続きをする為
無花果を通して支給される国連機構?否ドナーエリア積金からの慰労金受領の手続き
キセの生家近くに宿泊予約、と往復の移動方法の手配と移動許可申請、取り敢えず来々週の週末と週明けの計三日間程としよう
職場への休暇届けは戻ってからで良い
更に一つ、さてコレだ、衛生的検体採取と送付迄の保存
一時帰所を今少し待たせるにはご機嫌伺いが必須
該当検体を経緯含め少しでもクリーンな状態を保たせねば為らない
(洗浄も簡易宿泊所の大衆浴場では駄目、と云うことだからな……まあホスピタリティが双方で天地だし、冷凍保存施設があるのは同レベルでもあのホテル位だろうか、かったるいが仕方あるまい……)




