фига
ⅩⅢ
「エドはいいなぁ。俺もMed辺りのエリアがパトロンにならないかな〜。」
「お前はASEANが多かったな、何でだ?」
エイドリックがゴクウーに聞き返した
ゴクウーはエイドリックより幾分歳上だが訳あってクラスは同級であった
幼児期に招集された入所者にあって、先天性の難病を数年掛かって完治させた
その間、医療ルームに他の者と隔離されていたと聞く
言うことは幼っぽいが実年齢はいい大人だ
「長期休暇にバカンスしに行きたいんだけどよ。候補地ってアジアばっかりじゃん!もういいてぇーの。」
「南国の島で遊び呆けてるんだろ?いいじゃないか。」
「いやいや、だからさっ、今回は別のエリアに希望出したのさ!色んな意味で見識っての?広げる目的で、って。」
「広げるさせる、だろ。どれも同じだよ。しかしお前はそれしか浮かばないのね。」
「パトロン喜ばす為じゃん!俺ココにいるヤツらでは一番長いんだぜ?一番長く生き残ってる。って言うことは一番金出して貰ってるって事だろ?得意なこと無いしさ……所詮俺ら“ 駙馬駙馬”じゃん?」
「“ プバ”?」
聞き慣れぬ単語に私が言い重ねた
「プバ、フバともフマとも言ってるな。」
「ああフね、フ、フフフだ。俺達だけの隠語だよ。“ 種馬兼あて馬”のこと」
二人に教わり何となく理解する
エイドリックも検体採取を“ 種馬稼業”と嘲嘲ていた
「そうだ!キヨウのパトロン……ドナーエリアにMed無い?」
「ドナーエリア?」
「キォウは無花果に来たばかりでまだ付いてないよ。だからドナーのことも聞かされてない。」
「ああ……for saleってことか。キヨウ、ドナーはな、イイぜ、俺を治してくれたのもドナーの一つだし。眼だって足だって臓器だって悪くなったら新鮮なのを速攻で送ってくるんだ!ココに来る前にいっぱい検査したろ?」
「入所前検査?」
「そうそうソレ。身体中の状態を調べあげるんだ。異常なとこ無いか?とかも。振るいに掛けられるヤツもいるらしいぜ。」
「振るいかい?どいしてさ。」
「それはな。死にそうなヤツにはドナーが付かない。だからココに入れないのさ。安心しろ、キヨウは元気だからすぐ付くよ。」
「で?それが何?お前はどうしたいの。それにコイツは“ キォウ”だ」
何故かエイドリックが怒っている様に見えた
「え、え?だから……俺がやれることって……例えば俺が誰でも女に子を産ませたら!ドナーエリアに配当金が渡るじゃん。コレって最高に恩返しになるだろ?」
「……」
「今までは相手が悪かったんだよ。女の種類が変われば違ってくるって思わないか?」
「恩を返す必要はあるのか!」
「必要と言うか、面子だよ。エドには分からないだろ。出自が金持ちだからな!」
「ああ、分からないね。」
「どうしたんだよ、二人とも変だよ。いつも仲良いじゃないか。」
不穏な空気に我慢できず割って入った
「ゴクウー……お前な。実際子供が出来たらどうするつもりなのよ。まあいい、もうちょっと、自分自身のことを大切にして欲しい。どうしてもって事なら都合つけてやるよ、言えばいい。俺が今言えるのはそれだけだ。」
ゴクウーを残し、私を連れて部屋に戻ってから「そのうちに正式な説明が有るだろうけど 序だから」とドナーエリアや入所前検査の表裏をエイドリックが説明してくれた
ドナーとは良く言えば“ あしながおじさん”その実は競走馬の共同馬主みたいな物、検査は免疫系の調査云々これは繁殖馬を値踏みさせる為のセールスとなる、胴元は無花果、仲介は教団と国連、賭けのルールは子孫を残せた対象者のドナーがその時点の積立て配当を総取る、他の者に賭けるエリアには行かぬ方が良い無事に戻れる保証はないから、と
そしてゴクウーのことも心配げに話した
年齢的に退所が迫る今、進学が絶望視され、このところ平静を欠いている
なのに危険なエリアに旅行したがるのは奇妙で胸騒ぎがする、と
「猫が死期が近づくと居なくなるのと同じ?」
何気なく言ったことが本当のこととなり、弱冠12歳の私をゾッとさせた
数ヵ月後、バカンスで行った渡航先で風邪を拗らせこれが完治した筈の病いを再発させた、とゴクウーは魂はそのまま去りただ骸だけが此処に戻された
「俺なら何も遺さない」
ゴクウーの何を指して呟いたのか、この時まだ彼には訊かなかった




