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「キセは奇跡の村の出身なんだ。」
エイドリックは何度か私に言った
「彼女はそこで子を産み、産んだ途端に家を追い出されてその赤ん坊も夫家族に取り上げられて、すぐに死んだ事を知り失意に落ちこの国に来たんだ。偉業を果たしたというのに誰にも認められず、綺麗な心を汚されたのさ。だから俺は彼女を抱く度に『君って綺麗だ』と言うのさ。俺しか言わない愛の言葉なんだ。」
娼婦をしていたキセには良い印象を持ってはいなかったが『奇跡の村』については二人して調べたものだ
が後になり思い出そうとしても肝心な部分は抜け落ち、残った手掛かりは一時期出産率が高かった場所と生殖不能者の溜まり場の二つだった
国営図書館についても偽造した身分でも暮らし易い職場として派遣センターに提示され、そういえばと思い出した程度の事だ
だがエイドリックはより詳しく調べていただろう
キセの髪の束を覆うように入れられていた彼の遺書と別に、この村の様子と彼女の生家の位置を記す地図と、その赤ん坊の名前が書かれたメモも入っていた
初めて見るエイドリックの丁寧過ぎる文字でそれは簡潔に書かれていた
__よろしく頼む、と最後にあった一行は揺れるように乱れていて彼は本当に逝ってしまったと見る度に確信し、私は泣いた




