第13話 過去2
俺は実家に帰ってきたら必ず行く所がある。それは家の近くに昔からあるという遺跡のような所だ。そこには霊がたくさん集まるという噂もあり、中学のあの件があってからか、親に
「1度でも良いからあの場所に行ってきなさい」
と言われ、それからここが気に入っている。最初は霊と言われても不安しかなかった。朝起きたらすぐ横に見覚えのないおっさんが寝ていたり、白装束を来た女性が天井に張り付いていたりなど、恐怖感しかなかった。俺がそこに行って感じたのは、恐怖ではなく何かを見抜かれそうだという事だった。そこにいる霊の中で一際規模が大きい霊がいる。老人ではあるが左目がない。しかし、その左目を見ていると、何か覗かれる感覚がした。
「お前さんは誰だ?」
と、不意にそんな事を聞かれた。
「別に誰だって良いだろ。そんなの知っても意味無いだろ」
「いや、そういうことを聞いとるんとちゃう。お前さん、そんなに剣道の腕がありながら何故剣道
を辞めた?その腕ならそう長くもないうちに師範ぐらいにまでいけるはずなんじゃが…。…あ、問題を起こした小僧とはお前さんの事か」
「それをどこで知った?」
「いや〜、ここに集まってきよる霊達と話をしとるうちに、お前さんの話を聞いたんじゃ」
「なんだ、そういう事か…」
「で、その問題とは何だったんじゃ?」
俺はそのお爺さんに、中学で何があったのかを洗いざらい話した。
「なんじゃ、そんな事か」
「なんだよその反応は!俺は必死に考えてたってのに」
「いやいや、お前さんにはそこまでして好きになった奴がおるんじゃなと思ってな。儂の頃はそんな事無かったわい」
「でも、爺さんは結婚してから死んでるんだよな?」
「いーや、その当時は戦争真っ只中でな。許嫁とは結婚出来んまま死んだ」
「そうなのか…」
「まぁ、その許嫁とは死んでから仲良くしとるわい。今もほら、そこにおるわ」
と、指の指してある方向を見た。すると、老婆がそこに立っていた。目が逢うと、ニッコリ微笑みかけてくる綺麗なお婆さんだった。
それからはお爺さんとお婆さんと俺の3人で色々と話したことを今も覚えている。その中で楽しかった事と言えば、そのお爺さんも生きている間に剣道をやっていて、かなりの腕があったという事だった。俺はそのお爺さんに稽古をつけてもらう様にした。学校が終わってから、2時間。休みの日は5時間という感じだったが、そんなある日、お爺さんに手合わせを頼まれた。本来なら俺がする立場だと思う。でも、お爺さんが何故手合わせを頼んだか分かった気がした。俺がどれほど上達したかを試すためだと。
お爺さんが構えの姿勢をとり、すぐに俺もその姿勢に入った。お爺さんはとても強い、ただそれだけしか分からなかった。1つ1つの技に磨きがかかっており、防ぐ方法が無かった。俺はそのお爺さんに惨敗した。
「なんで爺さんはそんなに強いんだよ…」
「鍛え方が違うからじゃと思うがな」
「鍛え方?」
「そう、鍛え方じゃい」
「俺は毎日素振りの時に重りを付けてやってるのに、それじゃ駄目なのか?」
「駄目というわけじゃない。ただ、それだと力任せに振るようになるじゃろ?そうはなってはいけん」
「どういう事なんだ?」
「いつかお前さんにも分かる日が来るわい。好きな人が出来て、もう失いたくないと分かればな」
俺はその時はどういう事か分からなかった。…でも、今なら分かる気がする。力任せに振る時もまだあるが、最近は力なんて入れなくなった。剣道を辞めた身が何をしているかと言われる可能性もある。でも、俺は今は絶対に助けたい人が出来た。どんな暴力沙汰になろうと守ってみせる。俺はそう心に誓った。