第10話 弱音
俺は麗華と組手をすることになった。クラスの奴に
「そういや、麗華さんっていつも悠真くんの近くにいるけど剣道とかってしたことあるのかな?」
と聞かれた事が始まりだった。これは俺と麗華の両親と麗華の友達しか知らない事なのに
「あ〜。麗華は剣道やってたらしいけどな。昨日組手をしてみたんだけど、強かった。俺は確か2段ぐらいだったのに対して、麗華は師範代クラスだったからな…。俺が本気でやっても麗華の本気が分からないと俺も手の打ちようがないんだ」
と言ったせいでこうなっている。勿論、皆の目がキラキラしている。
「望田さん。開始の合図してもらっても良いですか?」
「いや、でも私分からないし…」
「いや、剣道のルールでやらないから、普通に開始って言ってくれれば良いよ」
「そういうことなら…」
「麗華、準備はできてる?」
「悠真くんの方こそ」
「では、開始!」
俺は麗華の出を待ってから攻めることにした。だが、その作戦は同じだったようで、麗華もこちらの出を待っているようだった。俺は1つ賭けに出た。俺は中途半端な攻めをすることにした。それに麗華がのってくれなければ、俺の作戦は全てが台無しになってしまうのだが、麗華はそれにのってくれた。そこからは昨日の夜にやった組手のパターンを思い出してまた試してみた。言い忘れていたが、俺と麗華は二刀流でやっているため、片方の竹刀を弾き飛ばせばそこからは俺の独壇場だ。そう思っていたのがフラグだった。麗華が左手の竹刀を振り下ろしてきたと同時に右手の竹刀で麗華の竹刀を振り払った。これで麗華の面ががら空きになり、その時はチャンスだと思った。だが相打ちだった。
「す、すげぇ…」
「何が起きたんだ…?」
と言う声が聞こえた。その後は普通に練習していたが、麗華は終始不貞腐れていた。多分…というよりも、俺がこの事を言ったのがダメだったのだろうか…?
俺は放課後、麗華を2回目に告白した場所に連れて行った。
「なんか、今日は悪かった。あんまり言ってほしくなかったんだよな…?」
「それとはまた違うの」
「違うってどういう事だよ」
「もうちょっと手加減してほしかった」
「いや、俺が手加減したらせっかくの見本が台無しになるだろ」
「私は本気でやるなんて思ってなかった」
「それならお前も…!」
俺はここまで言って、何を言えばいいのか分からなくなった。とりあえず今は謝る事にした。
「悪かった。劇のことで頭がいっぱいだったんだ」
「ううん。私の方こそごめんね。実を言うと、私も最初は何も考えてなかったの。でも、組手の最中で、悠真くんと付き合ってる事が夢で、実はもう私は死んでるんじゃないのかなって思えてきて、泣きたくても泣けなかったんだよ。」
謝ったあとに麗華の口から出たのは俺が聞いた中では初めての弱音だった。
「私、まだ死にたくない…。まだまだ悠真くんと色んな事をしたり、色んなところに行ってみたい…。」
そう言ってる麗華の頬を涙が伝った。俺は泣いている麗華と一緒に帰った。
帰ってからも麗華は泣いていた。俺はそんな麗華を見るのは初めてだった。俺に無理をさせないように、心配させないようにずっと我慢していたんだと思う。
「麗華…お前って相当無理して笑顔を作ってたんだな」
「だって、私、今まで彼氏とかできたことなかったし…。彼氏の前でこんな弱音吐いたら、ウザがられると思ってた」
「それは間違いだと思うぞ」
「え?」
「俺は1人で抱え込まれるよりも、はっきり言ってくれた方が良いし、甘えてくれた方が助かるんだ。1人で抱え込んでも辛いままなのは俺もよく分かってるから」
俺がそう言うと、また麗華は泣き出した。そんな麗華を見ながら台所へ向かい、夕食の準備を始めた。また休みの日に2人でどこかへ行ってみることにするか。
「麗華〜?」
「うぅ…なに…?」
「明日さ、ちょうど劇の練習ないから、夜に一緒にどこか行ってみないか?」
「え?どこに行くの?」
「それは明日決めるから、とりあえず今日はこれ食べて寝よっか」
そうして俺と麗華は炒飯を食べ、俺は風呂に入って寝た。親父にもらった車で出かけるのは明日が初めてになるのかもしれない。