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怪しいサークル

作者: 矢光翼

一日一筆複数連題です!

お題「忘却路線図」「56人の秘密」「ゼラチンペーパー」

 箭田やた率いる56人のサークルはそこそこの知名度を誇っていた。

 56人という大勢が一挙に集まるそのサークル内容は、外部には謎としか言いようのないものだった。情報漏洩を完全に防ぐ情報管理力を持つ箭田はここぞとばかりにその能力を発揮した。

 外部がそのサークルについて知っていることと言えば、「現段階で56名の人員が居る」と「箭田がサークルを発足した」ということのみ。活動内容については場所場所によって違う噂が成り立ち、広い知名度に反して人気のそれではなかった。

 そんな箭田のサークル(正式なサークル名はあるらしいがそれすら判明していないので便宜上トップである箭田の名前を引用している)からある日、一人の欠番が現れる。

 そしてその欠番を埋めるように一人の大学生、舎人とねりがサークルに入る。


 舎人が箭田のサークルに入った理由は大きく二つ。

 単純な興味心と、欠番になった舎人の先輩、岡見おかみに誘われてのことだった。

 岡見の誘いに乗った舎人に一通のメールが届いた。

『明日午後十時、山茶花さざんかにて活動を行います。舎人さんは初の活動参加なので最初に紹介の時間を設けます。 箭田』

 それは噂の箭田からのメール。山茶花とは大学近辺にある喫茶店で、舎人は思った。

(山茶花で、56人?大丈夫か)

 とてもそんな大人数が入るとは思えない。しかし興味心は後先考えず、次の日舎人は山茶花へ向かった。

 この時。舎人は教えてもいない自分のアドレスに箭田からメールが来たことに何の違和感も抱くことはなかった。


「ようこそ、私が箭田です」

 山茶花の前で舎人を待っていた高身長の男は箭田と名乗り、一枚の紙を舎人に渡して会釈した。

(すんごい普通の人だな...陰気でもないしイケメンでもないし。普通の人だ)

「このチケットを店主にお渡しください。人員はもう少しで揃いますので、案内されたお席でお待ちください」

「は、はぁ」

 山茶花に入ると老人がグラスを拭きながらこれまた会釈をした。

 舎人は結構山茶花に来る関係でこの老人とも顔見知りだった。

「いらっしゃい、久々だね」

「最近忙しくて...あっと、これ...」

 老人に店先で箭田に手渡された紙を渡す。舎人は渡された時によく見ておらず、老人に渡すと同時に見ようと思ったが、見るより先に老人がその紙を奪い取った。

「...お客でしたか」

 ぼそり、とそうつぶやく老人に舎人は一笑を足す。

「ははっ、いつも僕はお客ですよ?」

「いえ、君は今までお客様だった...こちらへ」

 意味深長な物言いに首を傾げながら老人はカウンターへ舎人を引き入れた。

「あれ、入っていいんですか?」

「ええ、お客ですので」

 普段は物腰柔らかな笑みを浮かべている老人が今ばかりはなぜか険しい表情をして舎人を案内している。

 それよりも舎人は奪い取られた紙に書いてあることが気になり老人の手を覗く。紙の隅が見え、そこには「忘却路」と書かれていた。まだ文字が見えたがそこまで読むことはできなかった。


 老人に引き連れられカウンターの奥へ行き、地下へ続く階段が見えたあたりで舎人は不安になった。

(どういうことだ、ここ山茶花だろ?)

 今まで通ってきた山茶花とは思えない通路。それに加えいつもと違う老人の対応。舎人は引き返そうとした。

「いかがなされましたか」

 物腰柔らかなだけでなく親しい親戚のように話しかけてくれた老人の姿も今はなく、ただの接客(しかも劣悪な小店のもの)と同等の接し方になっていた。

「いや、用事を思い出しまして...」

 ベタな回避の仕方だったがまさか現実でこんなピッタリな使用方法があるとは舎人自身思っていなかった。そしてそんな舎人の回避を老人は無情にも「着きました、ご用件はこちらより先でお話しください」と一蹴した。

 いつの間にか出現していた荘厳な扉に舎人は目を白黒させるも、常々尾を引く興味心でその扉を押し開けた。思い出した用事などこの時点でどうでもよくなっており...

「.......................................」

 目の前の雰囲気に目を奪われるのみであった。

 そこは喫茶店の地下とは思えぬほどの大広間で、窓がない分白熱灯をいくつも設置し光を得ている。お陰で数十m先の壁まで見渡せ、この空間に存在する多数の人間の存在も視認した。

「集まりました」

「うおあっ」

 背後から現れたのは、箭田。そしてもう一人の女性。

 箭田の一声は舎人を越えて部屋全員の耳に届いたらしく、即座にまばらな人々は収束し集団となった。

「今日の忘却路線図、まずは新人員の紹介からです」

 忘却路線図。あの時見えた「忘却路」とはこの言葉の一部であった。

 それにしても何をするのか理解できていない舎人は、理解できないままに自己紹介をした。

「は、はじめまして、今日から忘却路、線図?に加入します舎人です。岡見先輩からの紹介で来ました」

 ところどころから拍手が上がる。明るい雰囲気ではないのは目視した時からわかっていたがここまでか、と舎人は辟易した。

「舎人さんにはまず忘却路線図の活動内容についての説明があります」

「お疲れ様でした。次の活動はまたメールで発信します」

 !?。

「えっ」

 気づけばそこは山茶花の前。

(え、おい、ちょっと待てよ。たった今まで俺、地下に居たよな?)

 周囲を見回すと隣には箭田が。舎人は急いで箭田に話しかけようとした。

「ただいま~」

 !!?。

(い、今、「ただいま」って言ったか俺!?どういうことだ!?)

 舎人は必死に状況を整理した。

 今現在舎人が居るのは舎人が入居しているアパート。しかし一瞬前までは山茶花の前で、その一瞬前までは山茶花の地下に舎人は居た。

 まるで瞬間移動でもしているかのごとく舎人はいつの間にか場所を移動していた。それに加え記憶すらも飛んでいるかのようだ。箭田に話しかけようとして「ただいま」などあり得ない。

「...メール」

 舎人は携帯を開いた。

「今回から舎人さんには忘却路線図の作成にかかっていただきます。いくらかの路線図は作成されていると思うのでそれをこのゼラチンペーパーにマジックで書き入れてください」

 !!??。

 なんで今自分はここに居るんだ...?と舎人は周囲を見回した。

 先ほどまで居た山茶花の地下。そこに再び戻ってきた。さっき携帯を開いたはずなのに。

 見回す中で地面を見たついでに舎人は気づく。

 靴が違う。

 それに加え、服装も違う。混乱に重なる混乱。どうにか冷静の欠片を用いて携帯を開く。見るのは日時。

(今日は、八月三日...)

 その携帯に記されていた日時は。

 『2015/08/17』。

 舎人が「今日」だと思っていた日数から、十四日も経っていた。


「ゼラチンペーパー通称「ゼラ」は多くの場合、照明の色つけに使われる。有色透明なその性質は光によく適応する。その他として装飾に使われることもあり、忘却路線図にとっては後者の方が重きを占める。『飛んだ記憶の着地点を記し、整理し並べる』のがこの空間の存在理由。忘却路線図とは、不確定に自我を取り戻した地点を駅として、駅と駅の間の時間を路線で表す。そうすることで全く違う人間の記憶を癒着リンクさせる。大まかな駅の内容をゼラの色、路線の長さをゼラの大きさ、そしてその二つが一致する人間の記憶を混濁させれば、容易なことだ」

 白熱灯の吊り並ぶ空間で一人、箭田がほくそ笑む。

 そして次の瞬間。

 壁に埋め込まれた照明が、張り巡らされたゼラを照らし、目に痛いほどの色彩が、空間を包んだ。

「はっはっは...あはっ...ふはっはははははっ!!!!!!!!!」

 箭田の携帯に一通のメール。

「私の忘却路線図は飽和しました。忘却路線図を、後輩の玉伊たまい(~~~~~@~~~)に譲渡します。 信楽しがらき 」


 これは、56人の秘密。その内の55人にすら実情を悟られない、たった一人から伝播した56人の秘密。

如何でしたか?

 

 とりあえず、頭の中は昨日までよりすっきりしながら書けました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い、という感情よりも、理解するまで何度か読み返し、そうしている事が新鮮でした。結局主人公はどうしてあんな目にあったのか謎ですし、そうした事を含め、面白かったです。 結局、何だったのか…
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