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傀儡の箱庭  作者: 古井雅
8/12

Parent-1

今回見てみると結構主人公が喋ってます。主人公は両親がクズだったから、親戚のおじさんに甘えているようにも見えますねこれ。

今回自分でも意味不明になりましたが、頭の中で作ったキャラが運んできたのをぶち込んでいるだけなので、自分でもどうなるかは運任せです。ついでにこの物語が早期に終わるかということも運任せです。

この部分が比較的前書きっぽいものでしたね。


-1


その後、担任の高橋の死体は警察により回収され、生徒を含む学校関係者が警察から数個の質疑応答を受けた。

勿論、直後まで担任と話していた日比谷もその対象で、当然のように警察関係者から話を聞かれた。幸い下沢とは担当が違うのか、特に言及されることなく質疑応答は終わり、日比谷はそのまま帰路についた。


「……楽しい」


無意識に吐き出された一言、それに起因しているのかは分からないが、一羽のカラスがけたたましい鳴き声を上げながら虚空へと散っていった。日比谷にはカラスが、臓物の塊のようにしか見えなかったが、それでも飛び立つ鳥の形相を少しだけ想像しながら物思いに耽た。

日比谷が漏らした「楽しい」という一言が、何処に向かっているのかは分からないが、当の本人は少しだけ嬉しそうに手のひらを落ちていく日差しに翳しながら満面の笑みを浮かべた。

見ている景観は、やはり異形の姿でしかないはずなのに、今の日比谷にはとても鮮やかな色彩が飛び交っているように見えた。それは、日比谷自身がいきいきとしているからなのだろうか。それとも彼自身の欲求(なにか)が満たされているからなのか。それは本人ですら曖昧に混ざり合うことだった。


少しだけ硬いアスファルトの感触が、何かぶよぶよした肉塊のように感じられる。その気持ち悪ささえも無意味に広がっていく程、今の日比谷は清々しい気持ちだった。

軽快な足取りで帰路を歩いていると、ふと後方から聞き覚えのある声が日比谷の歩みを引き止めた。その声は、磯崎ではなく、もっと年老いたものだった。


「随分、機嫌が良さそうだねぇ。日比谷くん」

「……晴人の、お父さん?」


少し間を開けて、自らの背を翻しながら後方に立っていた男性に目線を合わせた。

その人物は紛れも無く、自分の親友の父親だった。浅井晴人の父親は警察の捜査一課で警部を努めており、数回程度彼とともに会ったことがある。とても気さくで優しい人物で、晴人そっくりの人物だった。

そのようなこともあり、当然日比谷も浅井のことを慕っており、浅井晴人が亡くなってからも何度か交流があった。だが、最近になってめっきり会う機会がなくなり、ここ半年の間一切の連絡が通じなかった。

そんな状態だったからこそ、唐突に日比谷に会いに来た浅井に強い安心感と嬉しさが湧き上がり、自然と顔が綻んだ。


「久しぶりだね、日比谷くん」

「こちらこそお久しぶりです! ここ最近連絡がなかったけど、何かあったんですか? 心配だったんですよ」

「あはは、それは嬉しいねぇ。僕も連絡とりたかったんだけど、ちょっとワケありでね、少しの間療養っていう名目で休職していたんだ」

「休職ですか? それなら一言連絡が欲しかったです。やっぱり、晴人に続いておじさんまで亡くなってしまうこと、想像しちゃって」


自らの両親とはあまりにかけ離れた存在である浅井を慕っていた日比谷は、浅井と連絡がつかなくなった時期から精神的に体調を崩し始め、遂にはこの幻覚に囚われてしまった。

それはつまり、ひっそりと日比谷が浅井の存在を心の拠り所にしていたことの証明であり、何より悲しかった。

自分の両親と、晴人の父親を比較して、また落ち込んでしまう。その繰り返し。それが何より辛く感じ、強い寂寥感を感じずにはいられなかった。精神的に体調を崩した要因になっていたのかもしれない。


「ごめんね、仕事もあったし、何より心配をかけたくなかったんだ。晴人のこともあるしね」

「晴人のことは、いつまでも忘れませんし消えません。だから今度は、しっかりと連絡をください」

「……分かった。今度はしっかりと連絡するよ」


優しい笑みを浮かべながら日比谷の頭を撫でた浅井に対して、日比谷も安心しきった表情で微笑み返した。

自分の理想の父親、いつの間にかそのような印象を浅井に抱いていた日比谷は、彼と話している時間がとても新鮮で嬉しかった。まるで、本当の父親のように接してくれているかのような優しい微笑み、寛大な心、すべてにおいて浅井は日比谷の理想の対象だった。

浅井晴人が生きていた時、無意識に日比谷は浅井晴人に強い嫉妬があった。嫉妬というよりも疑問に近いもので、何故自分はあんな両親しか持っていないのに、浅井晴人はこんなにも整った親を持つことができるのだろうか。運命と言ってしまえばそれまでだが、日比谷は今でも時折疑問に感じていた。

何故、この人が自分の父親ではないのか、そんな浅はかな疑問が常に漂っている状態だった。


「もうすぐあの子の命日だからね、お墓参りも兼ねて帰ってきた感じさ」

「僕も行こうと思っています。今年は磯崎も連れて」

「……磯崎くん、ね」


そう磯崎の名前を反芻した浅井は、一瞬だけ浮かない表情をした。何か迷っているような、顎に手をおいて何かを考えているような風に少しの間沈黙した。

そのすべてを引きこむほど不気味な浅井の表情に、日比谷は無意識に不安を感じた。その時の表情を、自分はどこかで知っているような気がしたからだ。勿論、ここ最近のものではない。数年程度前に味わった狂気さ、そんな雰囲気が漂ってくる。

僅かな時間の沈黙すら耐えられないほど強い違和感、それを打ち壊したくて日比谷は浅井に声をかけけた。


「あ、あの……」

「ん? あぁ、ごめんね。ちょっとした考え事をしてただけさ。急に黙っちゃってごめんね、こういう癖なんだ」


浅井は日比谷の声がけにすぐにそう返し、笑みを浮かべた。一瞬にして変わった雰囲気の変化が何かおかしく感じた理由は、日比谷には分からなかった。

確かに浅井は、警察の人間というよりも学者よりの人間で、思慮深くものを考えるタイプだ。考える時は一切の行動をやめて顎に手を当てるクセがあった。だが、あんな異常な雰囲気を発することはなく、いつもどおり優しそうな雰囲気だった。

だが今は、片鱗すら残らないほど不気味に変形した彼の嫌な雰囲気を今でも感じる。本当に浅井であるかを疑うほどの変化だった。


「……そう、ですか。磯崎君となにかあったんですか?」

「いやいや、この前磯崎くんと話した時があってね、その時にすっかり警戒されちゃったみたいだから、ちょっとね」

「そうなんですか? そんなこと磯崎君は何も言ってなかったけど……」

「うーんー……年頃の男の子っていうのはそういうものなのかねぇ。晴人が生きていたら、あの子もそうなっていたのかね」

「晴人ならもっとおじさんに似たと思いますよ。今でもそっくりですし」

「よく言われるよ、そっくりだってね」

「だってそっくりですよ、おじさんあってこその晴人だと思います」


少しだけ違和感は残っているが、それでもいつもと変わらずに優しく微笑みながら言葉を交わす浅井に、日比谷の不安も薄れていった。

やっぱり、いつも通りのおじさんだ、改めて感じた郷愁(なつかしさ)を噛み締めつつも、日比谷にはもうひとつの疑問が残っていた。彼は先ほど、療養という名目で休んでいたと言っていた。そうなると少なくとも数ヶ月の間療養していたことになる。

そうしたら今度、それほど大きな病気を抱えているのだろうか、という新たな不安が湧き上がってくる。その不安を払しょくすることが出来ず、思わず日比谷は浅井に対して病気について問いかけた。


「……おじさんは何か、大きな病気を抱えているんですか?」

「ん? いや、大きなっていうものじゃないよ」

「だけど……さっき半年近く休職したって...」

「体の病気じゃないさ、ちょっとした精神疾患さ」

「精神疾患? うつ病とか統合失調症とかですか? でもそんな風には見えませんが……」


日比谷が考えつく代表的な精神疾患を上げたが、その言葉を浅井は無言で首を横に振りながら否定した。

そして、少し重い声で自分の症状について言及した。


「幻覚が見えるんだ」

「……幻覚、ですか?」

「そう、ここ半年の間にね、言葉じゃうまく説明できないけどね、特に人をうまく認識出来ないんだ」

「...え?」


その言葉に、日比谷は心をえぐられた様な痛みが全身に走った。

その症状、自分が数ヶ月前から悩まされている幻覚とそっくりなのだ。人を人として認識出来ない、形容できない幻覚が徐々に侵食されていく感覚が実に奇妙なもの幻覚たち、すべてが浅井と同じ症状だったのだ。

奇妙な症状の一致に日比谷は酷く動揺した。もしかして本当に、浅井は自分と同じ幻覚を見ているのだろうか。今度は不安ではなく、小さな安心感が芽生えた。

一方、幻覚の症状を聞いて動揺している日比谷の変化を悟った浅井は微笑みながら日比谷の頭を撫でた。


「……日比谷くん、君には私がどのように見えているんだ?」

「え? 」

「どう見えているんだ?」

「どうって……おじさんはおじさんに見えて...」

「……その様子は、気づいたんだね。僕には君が、日比谷くんに見えているんだよ」


浅井は、少しだけ間を置いてそう告げた。その言葉の意味を、日比谷が理解するのは容易かった。

日比谷が見えている光景は、紛れも無く浅井警部だったから。




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