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傀儡の箱庭  作者: 古井雅
6/12

Preceptor-4

あけましたおめでとうございますな生活をしています。漢字検定の勉強がムダに忙しくてこちらにとりかかる時間が少なくなるのが最近の悩みです。

しかも一回で書かないと段々雑になっていくんですよね。元々雑な仕上がりが更に雑になる悲劇です。きっとこの前書き部分がどんどん雑になっていくのもそのせいです(ヽ´ω`)


-4


「……その、話ですか」


一応警部である浅井の口から出てきた話題については磯崎も薄っすら予見していたのだが、実際に彼女の話が出てくるとやはり動揺してしまう。

元々あの女の死については嫌な予感がしていた。思えばあの時期から日比谷が変わりだしたこともあり、予想できるものは悪いことばかりだった。


「随分不安そうな表情だね。何か心当たりでもあるのかい?」

「えぇ、まぁ。ここでは言えませんが」

「何故?」

「黙秘権は俺にも一様にあると信じたいですね」

「……今は聞かないでおこうか。いずれ、事件に関係のない時に笑い話として聞きたいものだよ」

「そうですね。で、浅井さんがお聞きになりたいこととは何ですか?」


浅井の妙な感の良さが、無意識に磯崎の心にプレッシャーを与えている、そのことは自分でも十分に理解できていたが、それを繕おうとしてまた言葉が変になる。

彼には隠し事をしても見ぬかれてしまう。先程も一瞬にしてこちらの考えていることを見抜き、そのことを正確に聞いてくる技術はやはり警察だ。どうせこれから先も隠し事をしたところで見ぬかれてしまう。それどころか更に面倒なことにもなりかねない。

要するにそれは、真実のみを浅井に開示しなければならないということだった。


「そうだね。先に言っておこう。下沢絵美菜は自殺ということで警察内では処理されたが、僕は他殺の線が強いと思うんだ」

「……どうしてですか?」

「死斑や溢血点、それが微妙に普通の自殺体にしては奇妙なものだったのでね」

「首吊りだったのでしょう? 吉川線はあったのですか?」

「そんな言葉よく知っているね……やはり君にこの話をしてよかった」

「まぁ、こういう時代ですからね。で、あったんですか?」

「なかったよ。でも縊溝の痕跡が違う。あの縊溝は、縄での絞殺の可能性が高い、僕はそう見ているよ」

「それなら何故警察は自殺として処理されたんですか?」


死斑や溢血点、首の縊溝などの違いは自殺体とは全く異なるものだ。状況にもよるが吉川線をつけずに人間を殺すことはかなり難しく、それこそ強い力での拘束が必要だ。妙な矛盾点を抱えた下沢の死体は、結局そのまま自殺で片付いたというところだろう。

薄っすらと察せる警察内部の事情が困ったように苦笑を浮かべる浅井の表情から、おおよその事情は伺えたが、彼は詳しい事情を話すことはなかった。


「あはは……まぁ、ねー」

「その態度で何があったのか察せますよ。警察っていう組織を題材にしたドラマなんて腐るほどありますし」

「反論できません……。まぁ組織なんてそんなものですよ。磯崎君もきっと大人になったら分かることだよ」

「案外学校でもそういうものですよ。裏サイトとかあるでしょうしね。で、一番聞きたいことは日比谷についてでしょう?」


磯崎が下沢絵美菜の件について真っ先に思いついた人物は、下沢が最期にあっていた人物である日比谷だった。日比谷の携帯には下沢からの罵詈雑言を並べた憎しみの塊が綴られたメールがデータとして残されていた。つまり下沢の携帯にもそのメールが残っていることになる。

彼女がそのまま自殺したのならばデータは残っていなくてはおかしいし、他殺でもそのデータを消去することにメリットが存在しないことから、下沢の携帯電話にはほぼ確実に例のメールが残っていることになる。

となれば警察(あさい)が真っ先に疑いの目を向けるのは日比谷である、そう感じて磯崎はあくまでも冷静に日比谷の名前を出したのだ。

勿論、日比谷の変化や日常での状態などに関して浅井に開示するつもりは一切なかったため、黙秘する箇所も数カ所出てくることを予見しての行動だった。


「……まぁ、分かるよね。彼に用事があるってことくらい」

「一応、日比谷から例のメールを見せてもらっているので」

「あのメールね、下沢絵美菜の携帯電話にもあのメールは残っていたよ。なんというか、憎しみの塊のようなメールだったね」

「あんなメール見せられた後に日比谷の事責める気になんてなれませんよ。大体、死者へ冒涜的ですけど害みたいな人間でしたしね」

「……クラスメイトなのに随分辛辣なんだねぇ」

「えぇ、まぁ。過激なアダ名もつけられる位の人間でしたしね、彼女。死んで喜んでた人もいるくらいですし」

「どんなことしてたの? その人」

「詳しくは知りませんけど、彼氏じゃないのに彼氏だって吹聴したり、ショッピングモールで刃物振り回して心中しようって持ちかけたりしてましたよ。本当に散々な女でしょう?」

「それは日比谷くんとは相性悪いねぇ。ということは日比谷くんもその犠牲者だったのかい? あのメールの文面を見る限り」

「そうですよ。かなりしつこく言い寄られていたみたいですから。詳しくは知りませんけどね。ていうか本当に、貴方は何を知りたいんですか?」

「君との対話すべて、日比谷くんと下沢絵美菜についての記述だからねぇ。そのほとんどは手がかりみたいなものですから」


そう言いながら笑みを浮かべる浅井の様子は、一番最初に決めた何かに対してまっすぐ整ったような思考回路を匂わせた。

翕如な彼の声は、何か裏があるというよりもただ聞いているような感じで、気味の悪さすらも覚えるほど無邪気だ。最初から感じていたことなのだが、久々にあった浅井は何処と無く嫌な雰囲気が漂っていた。

確かに彼はこの事件を解き明かそうとしている。だけどそれは、単に犯人を検挙するためではないように感じるのだ。その薄気味悪さは日比谷にも同じものを感じる。

そのことに気がついて頭の間沈黙した磯崎の微妙な心の変化を悟ったように、浅井はすぐに顕著になった嫌な雰囲気を抑えこんで再び微笑みながら再び日比谷のことを尋ねてきた。


「まぁそんなに警戒しないでよ。そうだね、聞きたかったことは日比谷くんの当日のアリバイかな?」

「……まさか日比谷を疑ってるんですか?」

「警察の代名詞みたいなものでしょう? 事件関係者すべてに尋ねられることなんだ」

「それが疑っていないという証拠にはなりませんよ」

「正直に言うと、僕にはまだ判断できない。だけどこれから疑うであろう人間には入っているかもしれない」

「……何故俺にそれを聞くんですか?」

「彼に聞くのはちょっと……忍びないっていうかねぇ」


そのように言葉を濁した彼の心のなかに辿り着くことは出来なかった。正直、意味がわからないに近い彼の言葉を問いただすことは出来なくて、定まっていない彼の目をじっと見つめた。

その時に気がついた。浅井の瞳は、日比谷の視線のように定まっていない。まるで彼と同じように、タガが外れたような、歯車が数個外れたような、異常なほど狂い切り乱反射しているであろう彼の猟奇的に広がる彼の眼光に強い恐怖を感じた。

理解できたのは、たったひとつの恐怖感。日比谷からも感じる強い恐怖と類似した気味の悪さと恐怖。それに気がついてしまった磯崎は、全身に悪寒が這う感覚に襲われた。

その悪寒が徐々に強くなっていき、どろどろとした液体がまとわりつくような感覚も覚えた。それに耐え切ることが出来なくて、その場にいてはいけないような気持ちを抱えた。


「……すいません。今日はもう、帰らなければいけないので後日でいいですか?」

「あぁ、ごめんね。引き止めすぎたよ。後日また会ってくれるかい?」


少し具合の悪そうな磯崎を気取ったのか、先ほどの感覚が気のせいだったのかは磯崎には分からなかったが、再会を希望する浅井の目にその狂った瞳は存在しなかった。恐怖心も既にない。いつもどおり、昔通りの浅井の姿だった。

だが、磯崎の感じた尋常ではない恐怖感は本物で、それが常につきまとっていたため簡単に首を縦に振ることは出来なかった。だから、磯崎は浅井に「時間が合えば考えたい」と答えを濁すことしか出来ず、そのまま舂く公園を去った。


その時から磯崎は、日比谷や浅井に対する奇妙な恐怖感(いわかん)を感じ始めていた。

狂気的な何か、少し他と違う何かを。



***



その翌日、小さくも大きなざわめきが校内に響き渡った。

飛び散った血肉が鮮やかなコントラストを生み出しながら、祝杯のように飛び散っていく異次元のような光景は圧巻だった。

3階の生徒指導室から、硬いアスファルトの上に強くたたきつけられた死体が撒き散らす血液の束が畝るように地面を這いながら、傍観者たちへ悲痛な声をかけてくる。

その不気味な光景を、傍観者(おのおの)の担任である死体(きょうし)を眺めながら強い恐怖感や不安を抱いていた。


たった一人、日比谷を除いては。



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