第4話
目算距離、約5メートル。
それが、俺の初めてのモンスターとの邂逅だった。
仰々しく言ってみたが、正直相手がノンアクティブモンスターの様なので、特にこれといったものはない。
目の前の『ばぶるん』なる薄水色の丸いモンスター。
普通のRPGなんかで言うところのスライム的立ち位置なのだろう。だからと言って某竜退治RPGの様にテイムして育てたら最強の魔法を覚えますという事はないだろうけど……いや、絶対ないとは言えないが。
そんな事を思いながら目の前のモンスターを対峙していた。
こちらの武器は初心者の片手剣と、攻撃力が設定されているか分からないゲーム内の初期装備である。
明らかに強いとは思えない。
それでも最初に遭遇したモンスターであるし、この装備で問題ないだろう。
リアルで剣を振ったりしたことは無いが、漫画とかアニメとかで動きは見たことがある。
その真似だが、近づいて行って右上段から袈裟斬りに片手剣を振ってみる。
剣先が『ばぶるん』の左肩(?)部分に接触。そのまま斬れるかと思った瞬間……
「ぱぁ~~~~ん!」
乾いた破裂音を響かせ、弾けた。まるでシャボン玉が割れるように……
その衝撃で俺は数メートル吹っ飛ぶのだった。
「そうか……『ばぶるん』ってシャボン玉をイメージしているのか……」
吹っ飛ばされて、草原に寝っ転がったままそんな呟きを思わずしてしまう。
というか、あんな反射攻撃みたいなのありなのか!?
これが初心者用の最初に遭遇するモンスターで良いのか?
確かに強さで言えば、初期装備の状態でも簡単に倒せたと言えば倒せたのだが、これはリスキー過ぎる。
なにせ、吹き飛ばされた衝撃で、俺の残りHPの残量がどう見て後少しで死ぬのだ。緑色だったHPバーが見た感じ残り1割を切っていて、赤色に色を変色させている。
明らかにデッドゾーン突入だ。
このゲームも、他のゲームの例に洩れずにキャラクターが座っていたり、何もしていないとHPが回復するらしい。
先ほど敵が爆発した地点から少し動いた場所で座っていたら、視界の端に映っている赤色を示していたHPバーが、今は緑色に戻っている。HPゲージ自体も半分ほど回復したらしい。
万が一があるし、デスペナが脅威である事だしこのまま座って全回復するまで待とう。
そんな感じで座って辺りを見渡すと、少し離れたところで他のプレイヤーが先ほど戦った『ばぶるん』と同種のモンスターと思われる敵と戦いを開始するところだった。
――― 丁度良いな。今後の参考の為にも、見学させてもらおう。
一撃で自身が瀕死になった敵。倒せはしたけど、レベル上げの為にも安定して狩らないといけない。その為に自分で実験実証していくには、デスペナの事もあり些か勇気のいることだった。
他人を見る事で今後の攻略の糸口になれば良いと。
見知らぬプレイヤーが敵に対して片手剣を掲げながら近づいていく。そのまま、踏み込んで袈裟斬りに切りかかった。自分の時と似たような感じだ。リアルで剣道でもしているのか、それとも彼の腕が良いのか、自分の時よりも速度の速い斬撃が『ばぶるん』を襲う。
『ばぶるん』に片手剣が接触した瞬間、やはり爆発が起こった。
しかも、自分が攻撃した時よりも斬撃が強かったせいか、爆発が収まった瞬間に攻撃したプレイヤーがポリゴン片を煌めかせながら、消えていった。
相打ち……
何とも言えない結果になってしまった。
でも今のやり取りは、もしかしてだが、この敵は、反射の様な状態になるのじゃないかと推測する。
ゲーム開始日であり、開始時間から考えても今のプレイヤーと自分との間に差はないと思われる。だとするならば、攻撃力などは元々の身体能力や経験などの差しかない。つまりは、自分はHPバーが赤色のデッドゾーンには入ったものの死ななかった。あのプレイヤーは、それ以上のダメージをもらって死んだ。
もちろんあのプレイヤーが、打たれ弱いという可能性もないとは言えないが、それよりも攻撃した力が自分よりも強かったから『ばぶるん』の爆発が自分の時よりも強かった。結果自分は生き残り彼は死んだ。この様に推測する。
あながち間違っていない気がする。そもそも『ばぶるん』という敵。名前からしてシャボン(バブル)からきているのではないかと思う。
シャボン玉の様に弾ける事からも、おそらくは間違っていないだろう。ここが初心者が最初に訪れるフィールドという事で、フィールドボスでもなければ倒すのに苦労するほどのモンスターが居るとは考えずらい。
きっと、何か倒し方があるはずだ。反射(?)なのかどうなのか分からないが、倒して、座って回復して、なんて非効率な方法ではないやり方があるのだろうと思う。
そして『ばぶるん』という見た目の特徴。先ほどのプレイヤーとの戦闘の事を考えてみると、一つの仮説が浮かぶ。もしかしたら、ダメージを与えて倒すってよりも、このモンスターはシャボンを割る様に衝撃を与えれば勝手に弾けて倒せるのじゃないかという事。
攻撃力に対して反射の大きさが出るならば、ちょこっと突っつくだけの衝撃で倒せば、反射のダメージも少なく済み、狩りとして成り立つのではないか? という事だった。
――― よし。そろそろHPも回復するし、早速実験するか。
フィールドを歩き、先ほどの『ばぶるん』と同種のモンスターに遭遇し実験をした。実験結果は、成功と言えるだろう。
やはり多少の反射的なダメージは、倒したときに弾けるのであったのだが、軽く突いただけで倒せる。更にその程度の衝撃だと、反射ダメージであるHPの減少も微弱なものだった。
――― これなら狩りになるな。一応残りHPに気を付けながら狩りを続行しよう。
そのまま気を良くしてフィールドを駆け回る。
フィールドに点在している『ばぶるん』を発見次第近づいて突いていく。そのまま数10体の『ばぶるん』を狩ったところで残りHPが半分ほど減少したため、また座って休憩することにした。
座って回復をしていると、また別のプレイヤーが『ばぶるん』と遭遇しようとしているのが見えた。今度のプレイヤーは自分や先ほどのプレイヤーとは違い、弓が初期装備の人みたいだった。
『ばぶるん』から少し離れた場所から弓に矢をつがえ構える。そのまま『ばぶるん』に射撃。その結果を見て、しばらくは唖然としてしまった。
どうやら、あの『ばぶるん』の反射だが、遠距離には適応されないらしい。それはそうか。シャボンが弾ける事で反射を作り出しているとするならば、その衝撃の届かない場所から攻撃すれば、安全という事だ。
――― な、何かずるいな……でもこんな初期の段階で、そこまで差を出しているとは考えにくいぞ。何かあるはずだ。
確かに自分も狩れるようにはなっている。だが、全くのノーダメージで倒せる人とは狩り効率には絶対的な差が出るはずだ。何せ回復をする時間が無くていいのだから。
何か、自分ででも出来る方法があるはずだ。敵との距離が問題になっている。という事は、つまり……片手剣を投げる?
突拍子もない事に思えるが、案外悪くないかもとも思える。ただ、これが正解なのだとしたら、このゲームの運営は意外と性格が悪いことになる。何せ投擲術などこのゲームには設定されていないのだから。
とりあえず、実験するために近くにいる『ばぶるん』を探すことにした。
数分後、目的の『ばぶるん』を発見した。今までとは違い少し距離を開け、右手に持つ片手剣に力を込めて、敵に向かって投げつけてみた。
結果は……大成功。
『ばぶるん』に剣が接触した瞬間に、軽い爆発が起こり撃破に成功。経験値バーを確認すると、確かに経験値も入手している。
新たに見つけた攻略方法(ばぶるん限定)に更に気を良くし『ばぶるん』を掃討する勢いでテンションを上げ、フィールドを駆け回り始めた。
それから約1時間後。ジンクのレベルは、何と10まで上がっていたのだった。
ただ、そこで一つ気が付くことがあった。
このゲームの名前は【モンスターテイミングオンライン】である。
テイミングがメインのゲームで、そのメインであるテイミングを全くせず、意識にも入れずに狩りまくっていた事実に、自分で絶句してしまった。
――― 俺は何をしているんだっ!? 調子に乗りすぎだろ! 俺の馬鹿!!
その事実に気が付き、しばらくの間、草原で膝を付き落ち込むのだった。
【修正】『バブルン』→『ばぶるん』数か所修正しました。
【修正】俺は何をいているんだ→俺は何をしているんだ。に修正しました。