第19話
何と言うか、こういう事もあるんだな……
今の状況の説明をすると、スイーツさんと二人で会長がログインすると言うので街で来るのを待っていた。
スイーツさんと話していたら、スイーツさんの本名を呼びながらこっちに向かってくる、見た目まんまの会長。
今朝と立場が逆転して、スイーツさんに説教されている会長。
本当に、今朝とは説教する方と、受ける方が反対になっている。短い時間で逆転とか、本当にある事なんだと、ある意味で感心してしまうな。
話しを聞くと、会長はネットゲームはおろか、ネットでのチャット(不特定多数参加型)などもしたことが無いらしい。
それ故に、キャラクターネームやハンドルネーム、アバターネームなどの言葉も知らず、全員が全員本名参加だと思っていたらしい。
だから、見た目もまんま会長本人のアバターを作成したらしく、更に……キャラネームも『龍ヶ崎 雫』とまんま本名だ。
さすがにおかしいと感じ、話しを聞き始めた俺とスイーツさんに今の事を説明され、スイーツさんが怒ってしまった。
「普段しっかりしているのに、何で変なところで抜けてるのよ!?」と…… その怒り方もどうなのかと思うんだけど。
ともかく、このまま続行はさすがにまずい。
名字だけとか下の名前だけならば、まだ平気なのだが、フルネームは流石に危険だ。本当に色々な意味で……
そんな事を考えていると、会長がログアウト時に出る淡い発光を光らせて落ちて行った。
「はぁ…… 本当に雫お姉ちゃんは…… どっか抜けてるのよね」
少し離れた場所で話していたスイーツさんがこちらに向かってきた。
「お疲れ様、でいいのかな? さすがにアレはまずいね」
「うんうん。一応説明して納得してくれたから今度は大丈夫だと思うけど」
ん? 今度は…… もしかして、キャラ作成し直しさせたのか?
まぁでもそれも仕方なしか。
「作り直し? 始めてすぐだし、問題ないっちゃーないか」
俺の指摘に同意を示しながら、それでも心配が抜けきらないスイーツさんが、まだ不安を出しているな。
「でも、本当に大丈夫かな…… アバター作成とか名前とか、全部一人でやらないとダメだから不安だよ。こういうのはVRゲームの弊害なのかもしれないね。本人しか作成時に立ち会えないのは」
確かに。
普通のネットゲームなどであれば、キャラ作成に付き合ったりすることが出来る。
それこそ、ステータスやスキルの取得などのレクチャーをしながら作成するって事もあるし。
ところがこのゲームは、キャラクター作成時は、自分しかいない。
厳密には、NPCも居るのだけど、NPCに一般的な事を教えてもらいながら出来るかと言えば答えは否だろう。更に、知り合いとの兼ね合いなどを考えたスキル取得や、自身の立ち回りを考えたスキル構成など、それこそあてには出来ないだろうと思う。
「多分、すぐ来ると思うけど…… もう少し待っていようか」
「そうだね。まぁ、すぐに動かなきゃいけない用事もないし、ゆっくり待とうよ。折角の会長の初ネトゲなんだし」
スイーツさんと二人、苦笑し合いながら会長の復帰を更に待つことになった。
それから程なくして、1人の見知らぬプレイヤーがこちらに向かって歩いてきた。
種族はミノール君と同じ竜人。
すらっと背が高く、かなりのナイスバディをした女性だ。って、これ会長だよな…… 先ほどのまんま本人のアバターとは違うが、やはり何処となく本人っぽい雰囲気をしている。
ただ、リアルと違って髪が真っ赤だ。髪型は、普段の会長と同じくロングのストレートなのだが、本人の身長の高さもあってか、かなり威圧感がする。
しかも片手には先ほどは無かった槍を持っている。竜人で槍…… ミノール君と若干被るな。ミノール君は、槍ではなく戟だったけど。
「ごめんなさい。お待たせしました」
本当にすまなそうに頭を下げる会長。
「会長頭を上げてください。俺は全然平気ですから」
俺がそういうと、頭を上げて優しそうにほほ笑む。
うわ…… 何か凄い美人だ。リアルもそうだけど、アバターも美人って……
「ジンク君。会長はやめてください。名前は『ミカヅキ』ですのでよろしくお願いしますね」
苦笑しながらそう言ってきた会長。
そうだな。さっき言ってたリアル情報を俺が出す訳にはいかないな。俺も気を付けないと…… スイーツさんに怒られる。
「では、ミカヅキさん。こちらこそよろしくお願いしますね」
お互い頭を下げあった後、頭を上げ目線が合って思わず二人で苦笑してしまう。
「ねね、何でそこ、目と目で通じ合ってるのよ? 私放置……?」
っと、そこでスイーツさんから声が。
って通じ合ってるとかじゃないから!
「いやいや、違うから! はぁ、まぁ、改めてって事で。さて、これからどうする? とりあえずミカヅキさんに色々レクチャーしないとまずいよね?」
一応否定しておかないとな。
これからどうするかは、結構重要になるな。
初心者を一人で放り出すのもまずい気がするし、ってまだ2日目でうちらもそこまで理解している訳ではないが、ここのすぐ近くには、ヤツが居るからな。
俺の言葉を聞いて、自分の苦い思い出を思い出したのか嫌そうな顔でスイーツさんが頷いている。
「そうだね。ミノールみたいな馬鹿もそうそう居ないとは思うけど…… でもアレは危険だよね」
「うん。さすがに、ね」
スイーツさんとお互いに頷き合う。
「あのー…… ヤツとかアレとか…… 何なのでしょう? 危ないモンスターでも居るのですか?」
そんなうちらのやり取りを見て、ミカヅキさんが少し不安顔になって訪ねてきた。
「危ないって言うか、知っていないと危険かもって言うモンスターが居るんですよ。ちなみに、スイーツさんとミノール君は、何度もそいつ相手に死んでました」
「あれは、危ない敵だったわ」
スイーツさんがしみじみ言っている。って言うか、それは違うんじゃ……
「いや、危ない敵って……」
「本当に危ない敵よ。………………ミノールのやつは」
危ない敵ってそっちの事かっ!?
いや、確かにミノール君のせいだったけど! 俺もそのせいだとは思っていたけども!
でも敵扱いは流石に可愛そうだよ。
「まぁ冗談は置いておいて、ミカヅキお姉ちゃん。街から出てすぐに居る敵が実はこのゲームで結構曲者なのよ。だから、最初はうちらが付き合うね」
そんな冗談もあり、ミカヅキさんを連れて2人でレクチャーをする事になった。
何か、居ないのにミノール君散々だな。自業自得だけど……




