第17話
『ジンクくん! どうしよう…… やっちゃいました……』
やっちゃったって…… 本当に何やったんだよ。
一瞬また厄介ごとかと思ったが、さすがにここまで続かないだろうと思い直す。
些か楽観視しすぎかとも思うが、スイーツさんは、あれで割りと頭が悪くない。変な欲望に囚われない限りは普通の思考を持っているはずだ。
どっかのお馬鹿1号とは違うはず。
『えっと、とりあえず説明してくれないと分からないよ。今俺は始まりの街に居るんだけど、スイーツさんは何処に居るの?』
『私は草原フィールドに居る。今からそっちに戻ろうと思ってたところだから、相談に乗ってもらえる?』
むぅ。相談……か…… 何となく嫌な予感がしないでもないけど。
でも仕方ないか。
『了解。このままここに居るけど、それでいい?』
………………?
あれ? チャットにすぐ返信が来ない。場所的な事を気にしているのかな?
『どうしたの? 場所違う方が良いかな?』
『あ、ごめん。んー…… 出来ればそうしてくれる?』
どうも街中は、嫌らしい。
嫌と言うか、もしかしたら何か他のプレイヤーに聞かれると困る話しがあるのかな?
という事は、クエスト関係の話しか。そういえば、クエストは無事に受けられたらしいし、それをクリアする為にテイミングしに草原フィールドに行ったはずだ。
そこで、何かあったのか。
まぁ、会ってみればわかるか。
『了解。じゃあこのまま街の入り口に向かうね。そこで待ち合わせしようか』
『はーい。よろしくお願いします』
スイーツさんの返事を見てチャットウィンドウを閉じて街の入り口に向かう事にする。
その前に、マッタリ戯れ時間を邪魔された2匹の機嫌を取るのに苦労したのは、まぁ内緒にしておこう。
時間にして約10分ほどだろうか。
約束した待ち合わせ場所でスイーツさんと顔を合わしていた、のだが…… どうも見たことの無いモンスターを連れている。
「えっと…… この子、新しくテイミング、した子?」
少し、引き攣っている顔を自覚しながら、声を出す俺。
「う、うん。草原フィールドで居るところを偶然出会って……」
そうだろうな。当初の目的では、きっと俺の想像通り『ベルドッグ』のテイミングに行ったはずだ。だけど、ここに居るのは『ベルドッグ』ではない。
「そ、それで、相談もあるから、少し街から離れていいかな?」
見知らぬモンスターを連れているという事は、きっとクエストの問題なのだろうことは容易に想像がつく。という事は、人が来るかもしれない可能性の高い場所で話しをするのは危険という判断なのだろう。
その判断は、確かにあっている。今のところ、情報サイトにも情報が出ていない事だし、もう少し情報を握っていても良いだろう。
別にそこまで秘密にしないとダメな問題でもないだろうが。
「了解。じゃあ、少し離れようか」
そのまま2人と2匹は、草原フィールドを街から少し離れる形で歩く。
「それで、何がどうなったの?」
改めて今の状況の説明をお願いした。
「うん。ジンク君から教えてもらったクエストは無事に受けられたんだ。そこで私は『ベルドッグ』をテイミングしに行こうってミノールに言ったんだけど、あいつ一緒に行くのは嫌だって言いだして……仕方ないから一人でテイミングに行くことになったんだよね」
そりゃミノール君からすれば、どんだけ時間を取られるか分からないし、2日続けてになるんだ。付き合いたくないのも分かる。
「それで、昨日行った方に居るかなって思ってそっちに向かって歩いていたんだけど、そこにこの子が出て来てさ……」
予定とは違うモンスターが出て来て、ついそれをテイミングしたのか……
「それが…… この子…… 可愛いでしょ!? すっごく可愛いでしょ!?」
うお!?
いきなりテンションが上がりだしたぞ!?
「う、うん。見たことないモンスターだけど…… 可愛い感じの子だよね」
確かに、見た目の可愛さは十分に有していると言わざるを得ない。
黒緋や翡吹みたいな生き物的な可愛さとは違うが、それでも十分に可愛いと思う見た目をしている。
「だよね! 私もこの子に会ったときにビビってきてさ! それでテイミングした訳よ!!! そしたら何と1回で成功しちゃったんだ!」
嬉しそうにテンション上げて話すスイーツさん。
なるほど……テンション上がって、そして最初の趣旨を忘れたパターンか。納得だ。
このテイミングしたモンスター。スイーツさんが1回のテイミングスキルで成功したって事は、確実に苦手種族ではないだろう。と言うか、これで苦手種族だったらどんだけの強運を持っているんだと言いたくなる。
スイーツさんが思わずテイミングをしてしまったのも分からなくはない。
見た目は、一言で表現するのならば妖精であろう。
薄緑色の服を纏い、背中から蝶の羽の様な羽を生やしている。
それも人型だ。髪は金髪ロングのストレートを無造作におろしている。身体は、例にもれず若干控えめな感じだ。何処がとは言わないが。それでも十分可愛い。美少女と呼べる部類だ。
そして最大のポイントは、サイズが小さいところだろう。
見た感じで言うと、15㎝ほどだろうか。手乗りサイズと評して良いだろうサイズ。
確かに可愛い物好きのスイーツさんが、この子を見たらテイミングしたくなる気持ちも分からなくはない。
「でもさ、テイミングした後に我に返って、改めてこの子をモンスター鑑定したら…… 苦手種族じゃなくて。それでどうしようかと思ってさ……」
さっきまでのテンションが嘘の様に落ち込んでいる。
それでもそんなに問題があるとは思えない。実際にクエストをクリアして報酬であるスキルを入手するのは重要と言えば重要なのだろうが、そこまで重視するほどでもないと思う。
もちろん所持出来るにこしたことはないが、それでも必須ではないのだ。
ミノール君は所持していないが、別に問題があるようには見えない。
俺もスイーツさんも所持していない段階でも、特にテイミングしたモンスターに嫌われている様なところは見れなかった。
スキルの恩恵としては、死んだ後などの好感度が下がる状況が来ない限りは、スキルの効果は出ないだろうし。
「そんなに落ち込まなくても良いと思うよ。好感度が下がる状況にならなければ、とりあえずの問題は出ないだろうし」
それに、まだテイミングは出来るのだ。別にここでクエストが失敗で二度と入手出来ない訳ではないと思う。
「まだテイミング出来るんだし、改めてもう1匹苦手種族のテイミングをすればスキルは入手出来ると思うよ」
俺の言葉に、先ほどまで落ち込んでいたスイーツさんのテンションは、若干戻った様に見える。
それでも、やっぱり気にはなるのか普段の調子に戻ったとは言えない。
朝の件があるからか、何となく違和感と言うか、変な感じがするな。
「そう言ってくれると嬉しい。折角教えてもらえたのに、こんなに事になっちゃってごめんね」
再度謝ってくるスイーツさんに「気にしないで」と声をかけた。
落ち着いて普段の調子に戻ってくれないと、何か変な感じがするからね。本当に……
「それでこれからどうする? すぐに苦手種族……『ベルドッグ』のテイミングに向かう?」
俺の質問に、少し思案顔をする。
やっぱり少し気にしているんだろうな。
「ううん。この子、あ、まだ名前言ってなかったね。この子は『エネオン』って名前のモンスターで種族は精霊種みたいなんだ。名前は『マスカット』って言うんだ」
スイーツさんから紹介されると、その子、マスカットはきちんとお辞儀をして挨拶っぽい恰好をしてくれた。
「初めまして、俺はジンク、こっちの『ベルドッグ』が黒緋で『コードラ』が翡吹って言うんだ。よろしくね」
俺もしっかり自己紹介をする。黒緋も翡吹もマスカットに「わん」「きゅい」と挨拶した。やっぱりうちの子は出来る子だ。
「やっぱりテイミングしたモンスターはある程度こっちの言葉が通じるみたいだね」
黒緋や翡吹を見ていても思うが、言葉が通じている節を凄い感じる。
それに自分のモンスターだけかもと思っていたが、こうやって別のプレイヤーのモンスターとのやり取りを見ると、やはりテイミングされたモンスターはこっちの言葉をある程度理解していると思える。
「それじゃ、この後どうする?」
俺は先ほどの質問を再度してみた。
さすがに俺もスイーツさんのテイミングに付き合う事はしたくはないし。
「んー…… 少し気分を落ち着けたいし、私は1回落ちて気分をリフレッシュしてくるよ」
少し考えた後に、1度落ちる事にしたと告げてきた。
確かにテンション的に少しおかしい状態だし、一度落ちて少し落ち着かせるのもありだろう。
「分かったよ。そしたら俺も少し落ちるかな。あんまり続けてやっていると母親が怖いし、タイミング的には丁度良いしね」
いくら許されたからといっても、あの母親の事だ。いつ気分が変わるか分からない。
1度フィールドに出てしまうと中々落ちれなくなるし、この辺で1度ログアウトしておくのはありだろう。
スイーツさんと2人で街に戻るまでの間にこの後の事を話した。
とりあえずは、テイミングは少ししないでおこうとは考えているみたいだ。特にマスカットをテイミングした後すぐだし、草原フィールドでテイミングしたからかレベルはまだ1らしく、少しそちらのレベルも上げたいとの事。
俺は、クエストも少しこなしたし、情報サイトとか見てから決めるかな。
街に戻り、広場で次にログインする前にメールで連絡し合う事を約束して、2人で1度ログアウトした。
もちろん、ログアウト前に黒緋と翡吹から悲しい視線を受け、戻ったらいっぱい遊ぶ約束をする事になったのだが…… 別に可愛いから良いのだけど。
体調がまだ思わしくありません。
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