第6話
森林フィールドまでの間、点在する『ばぶるん』を狩りながら進んだ。
理由としては、翡吹のレベルを現状(草原フィールド)で最大だと思われる20にしておきたかったからだ。
実際に20に達していないと、森林でであった『コードラ』の翡吹はレベル18だったことから、厳しいと予想されるからだ。
ただまぁ、黒緋もいるし、あの翡吹をテイミングする時の戦い方を見る限り、そこまで心配する事は無いとは思うのだけど、それでも上げないよりは良いだろう。
狩り自体は、俺の持っている剣を『ばぶるん』に向かって投げるだけの、半ば作業的な狩り方だ。
正直に言うと、これでいいのか? という気もしないでもないが、狩りにそこまで時間を取られないので無理やり納得させる事にする。
実際にプレイヤーの大半は、もう似たような狩り方で20にまでは上げているだろう。
それに、開拓村や第2の街に進んでいる人も少なからずいるし、そういったプレイヤーはレベル20は超えているだろうと予想出来る。
俺もそれ目的もあって森林の方に行くんだしね。
初日だけど、廃狩りする人はどのネットゲームにもいるだろうし、このゲームの本来の楽しみはモンスターをテイミングする事にあるとはいえ、レベルを上げる事が大好きなプレイヤーさんもいるのは簡単に想像出来る。
そんな感じで『ばぶるん』を狩りながら、森林フィールドまで到達した。
草原から街道とも呼べないような道が森林の中を開拓村まで続いている。
この道を辿りながら歩く。街道と設定された場所は、モンスターの非ポップエリアに設定されているらしく、その付近ではあまりモンスターは見かけない。
ただ、流れてくるモンスターもいるので、これは絶対ではないのだけど。単純に街道で沸くことは無いってだけだ。
なので、エンカウント率は極端に下がると思って良い。
森林フィールドを開拓村までは、安全に行けるはずだと……思っていたのに、少し先にモンスターが見える。
時刻は夜。しかもVRMMO内で場所は森林。当然予想される事態は、お化けだ。
それを裏切らない形で、少し先に見えたモンスターは幽霊と言って良いのか、遠目に見える形は薄っすらと揺らぐ炎の様な形をしている。
「黒緋、翡吹、敵が居る。このまま接近して俺はモンスター鑑定を掛けたいから、戦闘は任せるけど平気?」
少し小声で2匹に聞くと、2匹ともいつもよりも小さい鳴き声で肯定の意思を示してくれた。
どうやら、モンスターはお化けには恐怖を感じないようである。頼もしい。
ちなみに俺は、若干ビビってる。 いや、仕方ないから! ヘタレとかじゃないから! 普通こんな夜に森林歩けばこうなるから!
2匹が俺よりも先行し、その後を追いかける形で続く。ある程度距離が縮まると、さすがに向こうにも気が付かれた様だ。
気が付かれる。これは、黒緋や翡吹の時には無かったな。
いや、気が付いては居たのだろうけど、今みたいに明らかにこちらに敵意を見せては来なかった。
つまり、あのお化けは、アクティブモンスターだという事だ。
「黒緋、翡吹! あいつアクティブっぽい。攻撃が来るかもしれないから気を付けて」
まだモンスター鑑定の有効射程に入っていないのか、スキルは発動出来ず。向こうの攻撃方法なども知識が無いので、臨戦態勢を取る様に2匹に指示を出す。
2匹も俺の言葉を理解してか、黒緋は初めて聞く威嚇する様な低い唸り声を上げる。
翡吹は……無言だ。 ドラゴンよろしく「ギャオー!」とか言うのかと思ったら……何も発しなかった。
臨戦態勢のまま、お化けとの距離を詰めていく。後少しでモンスター鑑定の出来る距離だ。
後もうちょい……
今だ!
モンスター鑑定使用
モンスター名:ウィスパー
Lv19:アストラル種:ランクG
鑑定は成功。
というか、今まで失敗したことはないから、レベル差でもない限り失敗はしないような気もする。
やっぱりお化けだったか。
名前はまんま『ウィスパー』だ。見た目からも人魂とか鬼火とかを連想させるモンスターだ。
アストラル種と書いてあったけど……普通に考えると、小説とかで出てくるソレ系のモンスターって確か物理攻撃無効とかじゃないっけ?
やばいかも!?
「黒緋、翡吹! アストラル種だ。もしかしたら物理攻撃無効とかあるかもしれない。攻撃が聞かなかった場合、開拓村の方に走るからね!」
はたしてアストラル種を理解しているのか居ないのか、2匹は俺の言葉を受けても何も返答の様なものをせずに『ウィスパー』に向かっていく。
先頭は黒緋。それに少し遅れて翡吹が敵に向かって走った。
そのまま炎の様な『ウィスパー』に対して飛びかかり噛みつこうとしている。いや、それ無理じゃ……?
案の定と言うか、すり抜ける様な事は無かったが、向こうはダメージらしいものを受けた様子は無い。
そのまま、噛みつくために近くまで接近した黒緋に向かって自分の身体である炎から小さい火を飛ばした。
対『コードラ』の時もそうだったが、動きの速い黒緋は、それを余裕を持って回避。と、そこでいきなり横に飛び退いた。
一瞬何で? と疑問に思った瞬間。
「キュイーーーー!」
翡吹の叫びが辺りを響かせる。ってドラゴンなのに、やっぱり「ギャオー」じゃないのか……
ただ、その翡吹の叫びには何か効果があるのか、一瞬で『ウィスパー』を掻き消す様に消してしまった。
このゲームでは、敵を倒したときに敵はポリゴン片をまき散らすのだ。
『ばぶるん』だと、爆発しながらポリゴン片をまき散らす。
今回の『ウィスパー』はというと、掻き消える様にして薄っすらとポリゴン片を撒き散らした。いや、撒き散らすというのも変か。
ポリゴン片を見せながら消えていったと表現する方がしっくりくるな。
つまりは、それが出た事で敵を倒せたと判断出来る。逆に、現状だとそれぐらいしか判断する材料が無い。もしかしたら、気が付いてないだけで他にあるのかもしれないが。
何はともあれ、無事に倒せたようだ。
それにしても、翡吹の一撃で倒せるとは……もしかしたら、翡吹には、というか『コードラ』にはアストラル種に対する何かしらの特殊能力があるのかもしれない。
この辺り、もう少し2匹と意思疎通を取らないとダメかもしれないな。
黒緋との初戦が思いのほか上手く行ってしまったからそのままにしてきたけど、今後戦っていくのならば、このままではまずいだろう。
俺も含めて、出来る事をしっかりと確認しておかないといけないと痛感した。
「翡吹凄いぞ! 黒緋も上手く翡吹のために上手く隙を作る様にしてくれたね」
2匹に駆け寄り声を掛けながら抱きしめる。
黒緋はモフモフ! 翡吹はすべすべ! なにこれ気持ちよすぎる……
黒緋もご満悦で「わふわふ♪」と反応してくれた。
翡吹は翡吹で「キュイキュイ!」とこちらもご満悦っぽい。っていうか、翡吹は「どうだ!」とばかりに胸を張っているのか?
鳴き声が可愛いから判断難しいな……
「あんまりここに長居するのは不味いかもしれないし、開拓村まで少し急ごうか」
まだ甘えたそうな2匹を抑え、開拓村へ促す。
不味いって言うか、正直今はこの場には居たくないです。2匹が強いのは分かったけど……やっぱり怖いぞここ。
2匹を伴ったまま、戦闘の余韻に浸る事もなく開拓村に急いで向かう事にしたのだった。
正直、夜の森林フィールドはダメかもしれない…………本当に怖すぎる……
【修正】翡吹の『コードラ』→『コードラ』の翡吹




