第17話
森林の中を彷徨い初めて分かった事だが、森林は見通しが悪い。
確かに普通に考えれば、そんな事誰でも分かると思うのだろうが、実際には頭で理解しているだけだった。
今までの普通のRPGなどでは、森林はフィールド効果などがあるものの森林地帯を歩く事自体には、さほど影響は無かった。
実際は木々があり、歩きにくいうえに見通しが悪いのも頭では分かっていた。
これが、VRMMOであるこのゲーム内では、予想以上に歩きにくいうえに、見通しの悪さもあっていつ敵モンスターに襲われるかの緊張感からも想像以上に神経をすり減らしていく。
ハッキリ言って全てが、甘かった。
ただ、これはリアルとは違い肉体的疲労感の方はそれほどでもないというのが、助かっている部分ではあると思う。
ちなみに、そんな精神的疲労感を感じている俺の横には、全く疲労感を感じさせず、むしろ俺と歩いているのが楽しくて仕方ないかの様に尻尾を振りながら歩いてる黒緋が居るのだが……
俺も黒緋と一緒に居る事自体は、癒しになっていて良いのだけどね。
森林を歩き始め数分と言ったところだろうか、さっきまで尻尾を振りながらご機嫌の様子で隣を歩いていた黒緋が、俺のズボンの裾を引っ張った。
その顔つきが、先ほどまでとは違う雰囲気を持っている事は容易に分かった。
「どうした?」
俺は小声で黒緋に声をかけた。
黒緋が裾を放し、先にある木々の間のある一点を見ている事に気が付く。その視線を追っていくと、そこには初めて見るモンスターの姿があった。
まだ向こうには、気が付かれていない様子。これは、少しづつ接近してモンスター鑑定を使うべきだろう。
「少しづつ近づくよ。静かにね」
黒緋に指示を出し、木々に隠れながら距離をつめる。
距離的には、残り敵まで約10メートルと言ったところか。木々の間から顔を覗かせ敵を確認する。
どうやらまだ気が付かれては居ないみたいだ。
そこで改めて敵モンスターを観察する。
見た目は、小型犬ぐらいの大きさで全身を淡い緑色の鱗に覆われている様に見える。背中には一対の小さな翼がある。
どうみても、あれはドラゴンだ。小さいけど……
顔はデフォルメさている感じの顔に見えるので恐怖心は無いが、ドラゴンってだけで強そうだと思うのは、俺の頭がゲーム脳だからか?
こんな序盤で遭遇するモンスターがそこまで強くは無いと分かってはいるものの、それが現在の俺たちよりも弱いか、というのはイコールにはならないだろう。
ドラゴン……クエストで苦手種族のテイミングをしなければいけない俺らだが、果たしてこの敵はどうなのか。
とりあえず、木々の間から気が付かれないようにモンスター鑑定を発動させる。
モンスター鑑定使用
モンスター名:コードラ
Lv18:竜種:ランクF
ランクが、黒緋よりも1つ上であろうFランクだ。
レベルも草原だとほとんどがレベル1だったのに、18もある。
そしてやっぱりドラゴンだった。種族に竜種としっかり書いてある。
ドラゴンを仲間にする。これは、凄く魅力的な事に思えるが……果たしてそれは可能なのかどうか。
実際問題、こちらの方がレベルが高いうえに、黒緋とペアなのだ。
戦ってみて、抑えられそうならば黒緋に任せ、俺はテイミングの連発をするという手もある。
気絶たとしても、黒緋が居ればそう大事にはならないだろう。他モンスターにそこを襲われたら終わりだけど、それを言ってたら行動できなくなる。
苦手モンスターを相手にテイミングを成功させようとすれば、ほぼ確実に気絶する事にはなるだろうから。
よし、決めた。
小声で俺の提案を黒緋に言い聞かせる。
「いいかい? 少し戦ってみて、大丈夫そうならばテイミングしたい。その間黒緋だけであいつを抑えてくれるか?」
俺の問いに小さい声で「ワン」と返事をくれた。これは肯定だと思っていいだろう。
「俺のテイミングでSPを使いすぎて気絶するだろうけど、上手く俺を護りながら敵を抑えて欲しい。ただ、自分の体力も考えて無理だと思ったら倒しても良いからね」
最悪、倒してしまってもいいだろう。出来ればテイミングしたいが、こいつじゃなきゃいけない理由も今のところは、ない。
黒緋に再確認し、合図を送り戦闘を開始する。
まず黒緋が木々から飛びだし敵の視界内に躍り出る。
続いて俺も片手剣を握りしめながら飛び出る。
当然、向こうはこちらに気が付いて身構える様にすると、一瞬こちらを睨み付けてきた。
逃走することはなさそうだ。しかも草原で出会ったモンスター達と違い、どうやらアクティブなモンスターの様だ。
こちらが手出しする前に、反応しているのがその証拠だろう。
木々の間を駆け、黒緋が『コードラ』に接敵する。
低いうなり声をあげる両者が、少し間をあけて睨み合う。先に動いたのは黒緋。
左右にステップを踏むように動きながら『コードラ』との間合いをつめる。って、黒緋、お前そんな動き出来たのか!?
初の黒緋の戦闘を見て、俺は少々驚きを隠せない。
黒緋からすれば、これまでのレベル上げで倒していた『ばぶるん』では全く何も出来なかったため、フラストレーションが溜まっていたのかもしれないが。
そのまま黒緋は『コードラ』に飛びかかる。『コードラ』自身も黒緋の動きは予想外だったのか、少し戸惑う様な動きをし黒緋の体当たりを真ともに食らい、2匹は縺れて数メートル転がっていく。
先に立ち上がったのは黒緋。しかし追撃は加えずに一旦距離を取った。
そこで黒緋は、こちらに何か訴えるよな眼差しを向けてきた。
その視線を受け、俺は黒緋が大丈夫だからテイミングしろと言っているのだと確信。
作戦通り、テイミングスキルを『コードラ』に向けて発動する。
黒緋の時と違って、今度は最初から連続でテイミングスキルを発動する。
すぐに視界が暗転し気絶すると覚悟していたが、黒緋の時よりも数回耐えられた。レベル上げたおかげかもしれない。
そんな事を思いながら、テイミングに成功することなく、俺の視界はやっぱり暗転していくのだった。
そら、そんな簡単に成功しないよな……
【修正】顔覗かせ→顔を覗かせ
【修正】なのかどか→なのかどうか
【修正】
リアルとは違い肉体的疲労感と言うのは、そうあるものではない
→リアルとは違い肉体的疲労感の方はそれほどでもない
【修正】
テイミングを成功させるという事は、確実に気絶する事になるだろうから
→テイミングを成功させようとすれば、ほぼ確実に気絶する事になるだろうから




