第1話 不思議な少女
「トレーニング?」
姉貴に捕獲された後、コブラツイストを決められ身動きが取れなかった俺は、楓の必死の説得のおかげで解放された。
ほ、本気で体が分裂するかと思った……。
「そ、そうですよ!それに春人ですよ?」
「確かに、春人だもんな……ごめん、私の考えが浅はかだった」
そういうと姉貴は頭の上に合掌し、すみませんのポーズをしながら軽く腰を折って楓に謝罪。
それにしても、なんか言い方がいちいち引っかかるな。
「分かっていただけて何よりです……」
どうやら話はまとまったみたいだな。というか、姉貴は何を勘違いしたんだ?
「というか、姉貴は何を勘違いしたんだ?」
あ、心の声のつもりがつい。
「さぁな、自分の胸に聞いてみな」
そういうと姉貴は俺の部屋から出て行った。
分からないから聞いたんだが……。てかドア直せ。
――夕方、俺は帰り支度を済ませ帰ろうとしている楓の見送りをしていた。
「ほんとに晩飯食っていかなくてよかったのか?」
「いいっていいって、おばさんに迷惑かけるわけにはいかないし」
「そんなこと気にしなくていいのに」
「とにかく、今日はありがと! また学校でね!」
「わかった、気をつけてな」
楓が外に出て玄関のドアが閉まる。
「楓も変わらないな」
昔から気を使ってばかりで余計なところにまで気を回してしまう。
確かにあの性格には感謝することが多いが……。
「あの性格が悪い方向に向かなければいいけどな」
「お、楓ちゃん帰ったのか?」
リビングへ入ると姉貴がソファーにふんぞり返った状態で俺に楓のことを聞いてくる。
「ああ、たった今な」
そういって俺は冷蔵庫に手を掛け、お茶を取り出し飲む。
「んじゃ買い物行って来い」
「っはぁ!?」
危うく飲んでいたお茶を噴出すところだった。
いくらなんでも突然すぎるわ。
「なんで急に?」
聞かないと納得できない、とばかりに姉貴に質問する。
「いやね、お母さんったら今日の晩御飯肉じゃがだって言ったのにお醤油買ってなかったらしくってさ」
「はぁ……いつものやつでいいんだな?」
俺は溜息をひとつつき、やれやれといった風にリビングを出る。
「いってらっさぁ~い」
姉貴がひらひらと手を振っているのが見えた。
「はぁ……」
俺はもうひとつ溜息をつく。
どうせ俺には拒否権はないんだ、拒否したところでどうしようもない。やられるのが目に見えているから。
行き慣れたスーパーで目的のものを入手した俺はゆっくりと家路についていた。
この時間帯に見られる帰宅ラッシュの波の中、ふと目線をその奥の道路へと向けるとなにやら違和感を感じる。
「ん? なんだ?」
違和感の正体はすぐに分かった。
それは道路に横たわっている猫、それと一人の女の子……。
その女の子は見た感じ小学6年生くらいで、髪型は襟首の所で切りそろえられている。
いわゆるボブショートと呼ばれるものだろう。
怪我をしている猫を助けようとしているのだろうけど、なんかこう――
「あれって、やばくないか?」
そうこの道路、普段の交通量は尋常じゃないくらい多い。
今は全く車の通っている様子はないがこのままだといつ車が来てもおかしくないだろう。
「誰も気づいてないのか?」
通りを行く人たちは人の多さからか、その女の子の存在に気づいていないようだった。
嫌だな、厄介事は……。
そう思いながらも女の子に声を掛けようとした瞬間だった。
「っ……! あぶねぇ!」
女の子の背後から大型のトラックが猛スピードで迫ってきていたのである。
俺が走り出すのにそう時間はかからなかった。
荷物を投げ出し、人の波に揉みくちゃにされながら必死に手を伸ばす。
頼む、間に合ってくれ……!
「え……?」
女の子がようやく背後から迫るトラックに気づいた。
しかしトラックがスピードを緩めることはない。
くそっ! 居眠り運転か?
トラックと女の子の距離は後数十メートル。
俺は女の子まで後数歩、届けぇぇぇぇぇッ!
――ギュルギュゥゥゥゥガシャァァァンッ
トラックが電柱にぶつかる音が響き渡った。
その音に誘われてか野次馬が集まり始めている。
そんな中俺は――。
「ま、まにあったぁ……」
間一髪、女の子と猫を救うことに成功。
肩を撫で下ろしていた。
鍛えててよかった、まさか趣味の筋トレがこんなところで役に立つなんて……。
「大丈夫? 怪我はないかい?」
安否を確認するために女の子に声をかけてみた。
「は、はい……ありがとうござ――」
「おっと!?」
すると急に女の子が急に脱力し、腕への加重が増える。
「気絶した……だけか」
あれ……? なんだか俺も意識が……。
馴れないことしたせいかな。
そのまま俺も意識を失ってしまったのであった。
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