4章:雪山の魔獣(5)
「おい」
リッドは冷たい声で呼び掛けた。
「お前、今の状況を理解してるのか?」
「してるさ」
スノーダイは自分を囲む刃を見回していた。
「このままだと、俺は死ぬかもな」
「…まあ、死んでも良いって言うなら、今すぐに楽にしてやるよ」
リッドが刃をちらりと見ると、刃達はそれに反応して、じわじわとスノーダイとの距離を狭めていく。
「―――ははは、面白い!」
突然スノーダイの全身を銀色の光が覆った。
さらに次の瞬間には、刃の円陣が砕け散っていた。
「【大地の剣】が!?」
リッドは目を疑った。
そして、呆然として銀色の光を見た。
「これが、俺の真の姿さ……」
響くようなスノーダイの声が聞こえてきた。
銀色の光が消えると、そこにはリッドの3倍くらいの体長の熊がどっしりと構えていた。
体毛は光と同じ銀色で、普通の熊より少し長い。
「さぁ、どこからでもかかってきな」
スノーダイはゆっくりと、リッドに迫ってきた。
その威圧にリッドはたじろいだが、雪の大地に突き刺した剣を抜き取る。
「そんな遅い動きで…」
―――と、その時、スノーダイの姿は消えた。
「!?――どこへ…」
リッドに辺りを見回す暇は無かった。
鋭い痛みが背中に走ったかと思うと、彼は前方に勢いよく飛んでいき、岩に激突した。
「くそ…何だよ」
痛みを堪えてよろよろ立ち上がり、彼が見たのはスノーダイの姿。
背後に回り込まれていたのだ。
「遅い動きに見えたか?」
スノーダイが嫌味たらしく言った。
「油断したか」
リッドは剣を構え直した。
「次は斬るぜ」
そして彼はスノーダイ目がけて飛びかかった。
――ガシャア……ン
金属音が静かな雪原に響き渡る。
それはリッドの剣が砕けた音であり、彼の鎧が砕けた音でもあった。
スノーダイの鋭い爪が鎧を突き破り、リッドの胴を貫通していた。
「あ……が……」
リッドは何かを言おうとしたが、それは口から流れるおびただしい量の血に遮られた。
「あーあ、終わりかよ」
スノーダイは爪を引き抜き、リッドの体を放り捨てた。
「俺が少し本気出したら、この様か……」
スノーダイは人型に戻り、既に動かなくなったリッドをちらりと見ただけで、踵を返して雪原を去っていった。