4章:雪山の魔獣(3)
次第に雪の量は多くなり、いつの間にか辺り一面が銀世界と化していた。
吹き付ける風も冷たく、薄着のヤイナとシャルテオ、テノース兄弟はくしゃみを連発する有り様だ。
「うへぇ、何だよこの寒さは……」
テノースが弱々しい口調で言う。
「情けないぞテノース」
と、シャルテオがそれを咎める。
「そんな屈強な体を持ちながら、これしきの寒さに屈したら、底が知れてしまうぞ………寒ぅっ!!!」
「お前も寒いんじゃねぇかよ」
と、リッドの突っ込みが入った。
「仕方ないだろう!本当に寒いんだ!」
シャルテオがわめく。
「大体、お前はそんな鎧を着て、1人だけズルイぞ!」
「……くしゅん!」
と、ヤイナのくしゃみが聞こえた。
リッドはヤイナの方を見て尋ねた。
「ヤイナ…、この鎧、着るか?」
「遠慮しときます…」
ヤイナは即座に首を横に振った。
ドドドドド……。
「何の音だ?」
リッドが山の上の方を見た。
「なんか、嫌な予感が………」
次第に音は大きくなり、地面が震え始める。
「あの…」
ヤイナが細い声で言う。
「これって、まさか…」
「え?何よ?」
リリアはキョロキョロと周りの者の様子を見る。
そして奴は姿を見せた。
白い煙のように見えた『奴』は、物凄い速さでリッド達に迫ってきた。
「雪崩だ!!!」
リッド達は雪崩の進行方向とは直角の方向に走った。
だが、雪崩を避けられるような大岩などはどこにも見当たらなかった。
「無理だ!逃げ切れない!」
誰かが叫んだ。
次の瞬間、7人は白い流れに飲まれてしまった。
*
「くそ、ここはどこだ……」
リッドは体の上に積もった雪を払い除け、ヨロヨロと立ち上がった。
彼は奇跡的に生きていたのだ。
どうやら山のだいぶ下に流されたらしい。
周りを見ても、ヤイナ達の姿は無い。
はぐれてしまったようだ。
(まぁ、あいつらなら大丈夫だろう)
と思い、彼は歩き出そうとした。
その時、何かを感じた。
自分の首元を蛇が這うような。
とっさに振り返ったリッドの視線の先には、1人の男の姿が見えた。
逆立っている水色の髪と深緑の瞳を持ち、顔はそこそこ男前。
白いコートは膝まであり、白い長ズボンを履いている。
「誰だ?」
リッドは尋ねた。
「俺か?」
男は自分を指差した。
「俺はスノーダイ」
「俺に何か用か?」
「敵討ちさ」
「何?」
「我が同胞、クラジュールドのな」
「クラジュールド……」
――そうだ。
この前森で会った魔物、確かクラジュールドと名乗った……。