4章:雪山の魔獣(2)
「キリヨ島…」
ヤイナが静かに口を開いた。
「確か、凄く自然の綺麗な所ですよ」
「そうそう。よく知ってるね!」
「小さい頃、聞いた覚えがあります。全てが謎に包まれた島……」
「興味深いな」
リッドが彼女の方に身を乗り出した。
「そんな島があるのか」
「ええ。足を踏み入れた者すら少ないと言われています」
「俺も知ってるぜ」
と、シャルテオ。
「なんでも、その島に行こうとしたら、変な霧が出てきて、気が付いたら逆戻りしてる…ってやつか」
「そうです」
「それは『あやかしの濃霧』って言うんだ」
とピシェラ。
「その霧に包まれたら、あらゆる感覚が麻痺して、真っ直ぐ進んでるつもりでも、海流に流されてるんだ」
「とにかく…」
テノースが軽く背伸びをしながら言った。
「まずは、この山脈を越えないと、湖どころか島にも着かないぜ」
「その通りだ」
と、リッドは頷く。
「さて、休憩もした事だし、そろそろ行くか」
山をさらに登る事2時間。
なかなか頂は見えてこなかった。
辺りには溶けぬままの雪が積もっていた。
「疲れたよーぉ!」
弱音を吐いたのは妖精リリア。
だが、他の2人の妖精イオとピシェラは、別に疲れたようには見えなかった。
「リッド乗せて。いいでしょ……?」
と訊く間に彼女はリッドの緑髪の上に座っていた。
こうなると、意地でも降りようとはしないだろう。
リッドは『やれやれ』とでも言いたげに目を閉じて、
「好きにしろ」と言った。
「ったく、体力ねぇよなあ、お前は」
ピシェラがリリアの周りを飛び回る。
「スタイル良い体してるくせに…」
「スタイルと体力は別物よ!バカ!」
「何だと!?バカは余計だろ!」
「け、喧嘩はやめて下さい……」
と、弱々しく言うイオの声は届かず。
リリアはリッドの頭から飛び、ピシェラに突進を喰らわした。
「ぐおっ!?やんのかテメェ!」
これには遂にキレたピシェラ。
だが、リリアはピシェラの言葉を完全に無視して殴りかかった。
そんな彼女の気迫に負けたピシェラは逃げ惑い、2人はその辺をグルグルと回転していた。
「リリア…元気じゃないか……」
リッドが呆れかえって言った。
「彼女はそういう子なんですよ」
と言って、ヤイナが微笑んだ。