6章:3つの再会(4)
「ほう、俺とやる気かいお嬢ちゃん?」
スノーダイは挑発するようにその巨体に似合わない滑稽な踊りを始めた。
もし、リッドに関する事がなければ、ヤイナ達には笑顔があっただろう。
しかし、現実は、その踊りが彼らの怒りの炎に油を注ぐ一方であった。
「『バルア・テルデナリメ。愚者に裁きを』!」
ヤイナが呪文を唱えると、スノーダイの真下の地面に、巨大な魔法陣が現れた。
魔法陣を描くその色は、燃えるような赤であった。
「何だこれは!?動けん!」
スノーダイの足は、地面に張り付いたかのように動かない。
そして、巨大な銀熊は、足元から熱気が立ち上るのを感じた。
魔法陣の光が徐々に強さを増すごとに、その熱気は激しくなり、あまりの熱さにスノーダイはうめいた。
「くそ!なんだこれは!?動け、動けぇ!」
スノーダイの叫びも虚しく、熱気がさらに強くなった時だった。
魔法陣が強烈な光を放射し、その光の柱がスノーダイを巻き込んで、天に伸びた。
柱の中から、言葉にならない叫び声が聞こえてきたが、それも、途切れるように止んだ。
光の柱が消えた時、スノーダイの姿はどこにもなかったが、彼のいた地面はドロドロに溶けていた。
「…消えた?」
「いや、蒸発したんだろう」
テノース、シャルテオが順に言った。
「ヤイナ、あんた…」
ミリテラが魔法陣のあった場所をずっと見ていたヤイナに声を掛けた。
「…何者なの?」
ヤイナは振り返って、呆然とする一同に向かって、微笑んだ。
「さあ、宿に戻りましょうか」
*
一同がヤイナの桁違いの力について尋ねたいと思った事は言うまでもないが、彼らは1人として、彼女に質問が出来なかった。
彼女はベッドの隅に腰掛けて、じっと天井を見ていた。
その眼に涙が溜っているのを知っているから、誰も彼女に話し掛けられないのだ。
「ねぇ!」
ミリテラが小声でシャルテオに言った。
「何とかして、元気付けなさいよ!」
「俺が!?無理だよ!」
「何よ、怖い顔して、使えないわね!」
「それとこれとは別だろうが!」
そんな2人の漫才を聞いていた妖精リリアだったが、突然ピクッと体を震わせたかと思うと、窓の所へ飛んでいき、外の景色を見下ろした。
彼女の視線は、真っ先に、今、宿の前を通りかかった人物に向けられた。
「……リッド!!!」