5章:護花烈騎バンシェルラック(5)
「何か問題あるか?」
バンじぃは何くわぬ顔で尋ねてくる。
完全にリッドをおちょくっているのだろう。
「あんたは俺に花を探させたいんじゃなかったのか!?」
「…そんな事言ったかな?」
「…やめだ!」
リッドは棚に背を向けて、出口へと早足で歩いていった。
直後、リッドの目の前にバンじぃが立ちはだかった。
「どこへ行く?」
「やってられるか!」
リッドは本気で怒っているようであった。
「もう花なんか探さねぇよ!」
「ほ〜う?」
バンじぃはまた、意地悪な笑みを顔に浮かべた。
「随分と臆病な発言じゃのう?」
「何とでも言えよ」
リッドはバンじぃを押し退けようとした。
「どいてくれ」
「今のお主の姿をヤイナ達に見せたら…」
バンじぃのいやらしい口調はリッドの心を這う蛇のようだった。
「どう思われるかのう?さぞかしガッカリするに違いない」
「それで?」
リッドはバンじぃを睨んだ。
「もう知らねぇよ、どう思われたって」
「そうか…」
バンじぃの顔に突然寂しそうな表情が浮かんだ。
「ならば、仕方あるまい」
「ああ、早くそこを―――」
「どうしても2つ選ばぬのなら、お主を殺すしかない」
と、バンじぃは右掌をリッドの顔の真ん前に突き出した。
リッドはとっさに伏せたお陰で、次の瞬間にバンじぃの掌から放たれた火球をかわす事が出来た。
「待ってくれよバンじぃ!」
リッドは叫ぶ。
「本気かよ」
「これが本気以外の何に見えるのじゃ?」
バンじぃはリッドを睨み付けた。
リッドは背筋が凍り付くのを、生まれて初めて感じた。
(殺される―――!)
「さぁ」
バンじぃは尋ねた。
「感電死か、わしに殺されるか、選ぶが良い…」
「……わかったよ」
リッドは溜め息をついた。
「選べば良いんだろ?」
と、彼はまた棚に戻り、金属を1つ1つよく見ていき、3分ほどかけて全てを見終わった。
既に選ぶ金属は決まっていた。
リッドは選んだ1つ目の金属に近寄り、恐る恐る触れた。
―――何も起きなかった。
リッドは胸を撫で下ろす。
同じく、2つ目にも触れるが、やはり何も起きない。
「……よかったぁ」
リッドはへなへなと、その場に崩れ落ちた。
「さて、ではその2つで作るぞい」
バンじぃは窯に歩いていった。