5章:護花烈騎バンシェルラック(2)
山小屋を連れ出され、リッドがたどり着いたのは、白い霧の立つ大きな湖。
あまりに広いのと霧とで、向こう岸も見えない。
「さあリッド」
バンじぃは声を張り上げて言う。
「準備はよいか?」
「ああ!」
リッドは張り切って頷いた。
「いつでも大丈夫さ」
「それは心強い!では早速……」
と、バンじぃは岩地の上に座り込み、湖の方を向いて叫んだ。
「パノット!久しぶりの餌じゃぞ〜!」
「……餌?」
リッドは考えた。
話の流れを考えると、『餌=リッド』という式が成立してしまうのだ。
と、突然の地響き。
間も無く湖の中から巨大な影が浮かんできた。
それは蛸。
体長10mはある蛸であった。
「どぉぉぉぉ!?」
リッドは悲鳴を上げた。
「何だよバンじぃ!これは!?」
「何って……」
バンじぃは落ち着き払っている。
「パノット。人食い蛸じゃよ」
「……こいつと戦えってことか?」
「いかにも」
そうこうしている間に、巨大蛸・パノットは長い長い吸盤付きの足をリッドに伸ばしてきた。
「なめんなよタコ野郎!」
リッドは足に飛び、そのままパノットの頭にまで飛び乗った。
だが、彼はここである事に気付いた。
「…剣が無い!」
「そりゃそうじゃ」
バンじぃは答えた。
「わしがお主を見つけた時には砕け散っておったからのう」
「じゃあこいつ、どうやって倒すんだよ!?」
「何を言うか」
と、バンじぃがまた口調を厳しくした。
「そんな奴くらいは素手で倒してもらわなくては困る」
「いや、無理!」
「出来る!」
その時、パノットの足が背後からリッドに襲いかかった。
「ヤバイ!」
リッドは跳ぼうとしたが、既に足に捕まっていた。
足はすぐにリッドの体を絞め上げにかかった。
彼の全身の骨が悲鳴を上げる。
(くそっ、どうする?)
リッドは思った。
(こいつを素手でなんて、無理に決まってる!)
「どうしたリッド!」
バンじぃが呼び掛ける。
「お主の仲間を想う気持ちはその程度か!」
(仲間……?)
薄れゆく意識。
リッドは考える事すらままならなかった。
だが、『仲間』という言葉を聞いた瞬間、意識がハッキリしてきた。
(そうだ、ここで死ぬわけには……!)
――ブチィッ!!!
……物凄い音を立てて、リッドを捕まえていたパノットの足が千切れた。
リッドはそのまま湖の岸に着地した。
足を千切った事に憤慨したパノットが残りの内の4本を使ってリッドを襲う。
リッドは足をかわして、パノットの顔面めがけて力強く跳んだ。
そして、パノットの額に右拳の一撃を与える。
鈍い音と共に、パノットの額が大きくへこんで、その巨大蛸の姿は再び水中に消えた。