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蒼月の覇者  作者: 鎖賦
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5章:護花烈騎バンシェルラック(1)

 

暗い。


暗い世界が広がっていた。

リッドはそこにたたずんでいた。


いや、違う。

目を閉じているだけだ。


瞼が重い。

なかなか目を開けられない。

早く、この闇から脱出したいのに…。


と、突然に瞼の重みは消えた。

リッドは『やった』と思い、目を開けた。


目の前には、物凄く接近している老人の顔があった。


「―――ああああああああああ!!!」

これが、3日ぶりに目覚めたリッドの第1声だった。



古びた小屋のような所で、リッドは寝かされていた。

体を見ると、上半身の大半が包帯で見えなかった。

彼を助けたのは、いつぞやのバンじぃだった。


「全く、人の顔を見て悲鳴を上げるとは、無礼な奴じゃ」

バンじぃは少し機嫌を損ねてしまったようだ。


「いや、ごめん…」

リッドは本当に申し訳無さそうに頭を下げた。

顔を上げると、彼は尋ねた。

「バンじぃ、どうして黙ってたんだ?」


「何をじゃ?」


「あんたが『花』を守る者だったって事さ。イオが教えてくれたよ」


「イオか。あやつは物知りじゃからの…。わしの事をきっと調べたんじゃろうな」

バンじぃはイオを知っているようで、懐かしそうに微笑した。

「いかにも、わしは『護花烈騎』の1人、バンシェルラックじゃ」


「やっぱりな」

と、リッド。

「で、どうして黙ってたんだよ?」


「もし教えたら、お主らはわしを頼るだろう?」

バンじぃは厳しい口調で言った。

「わしは花をお主らに、『自力で』見付けてほしいのじゃよ」


「でも、もうばれちまったがな」


「あ、ホントじゃ」

バンじぃは呆気に取られた表情の後、笑い出した。


「でも、だからといって頼る気は無いさ」

リッドも笑いながら言う。

「俺達なら、花を手に入れる事が出来る」


「…ほう?」

バンじぃは急に真顔に戻った。

「では、どうして瀕死で雪原に倒れとったんじゃ?」


「う、それは…」

リッドは言葉に詰まった。

そこを突っ込まれるとは思わなかった。


「それに、お主をあんな目に遭わした奴もまだ生きておる」

バンじぃは続ける。

「次は間違いなく、お主の仲間達が狙われるぞ」


「…俺はどうすればいい?」

リッドはしばらくの沈黙の後、尋ねた。


「強くなれ。次は奴を瞬殺できるくらいにな」

バンじぃは身を低くして、視線の高さをリッドに合わせた。

「わしが鍛えてやろう」


リッドは意外そうな目でバンじぃを見た。

だが、その意外そうな目はすぐに固い決意の目に変わった。


「よし」

バンじぃはリッドの目の変化を感じとった。

そして彼に背を向け、朽ちかけのドアに向かう。

「ついてくるがいい」



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