5章:護花烈騎バンシェルラック(1)
暗い。
暗い世界が広がっていた。
リッドはそこにたたずんでいた。
いや、違う。
目を閉じているだけだ。
瞼が重い。
なかなか目を開けられない。
早く、この闇から脱出したいのに…。
と、突然に瞼の重みは消えた。
リッドは『やった』と思い、目を開けた。
目の前には、物凄く接近している老人の顔があった。
「―――ああああああああああ!!!」
これが、3日ぶりに目覚めたリッドの第1声だった。
*
古びた小屋のような所で、リッドは寝かされていた。
体を見ると、上半身の大半が包帯で見えなかった。
彼を助けたのは、いつぞやのバンじぃだった。
「全く、人の顔を見て悲鳴を上げるとは、無礼な奴じゃ」
バンじぃは少し機嫌を損ねてしまったようだ。
「いや、ごめん…」
リッドは本当に申し訳無さそうに頭を下げた。
顔を上げると、彼は尋ねた。
「バンじぃ、どうして黙ってたんだ?」
「何をじゃ?」
「あんたが『花』を守る者だったって事さ。イオが教えてくれたよ」
「イオか。あやつは物知りじゃからの…。わしの事をきっと調べたんじゃろうな」
バンじぃはイオを知っているようで、懐かしそうに微笑した。
「いかにも、わしは『護花烈騎』の1人、バンシェルラックじゃ」
「やっぱりな」
と、リッド。
「で、どうして黙ってたんだよ?」
「もし教えたら、お主らはわしを頼るだろう?」
バンじぃは厳しい口調で言った。
「わしは花をお主らに、『自力で』見付けてほしいのじゃよ」
「でも、もうばれちまったがな」
「あ、ホントじゃ」
バンじぃは呆気に取られた表情の後、笑い出した。
「でも、だからといって頼る気は無いさ」
リッドも笑いながら言う。
「俺達なら、花を手に入れる事が出来る」
「…ほう?」
バンじぃは急に真顔に戻った。
「では、どうして瀕死で雪原に倒れとったんじゃ?」
「う、それは…」
リッドは言葉に詰まった。
そこを突っ込まれるとは思わなかった。
「それに、お主をあんな目に遭わした奴もまだ生きておる」
バンじぃは続ける。
「次は間違いなく、お主の仲間達が狙われるぞ」
「…俺はどうすればいい?」
リッドはしばらくの沈黙の後、尋ねた。
「強くなれ。次は奴を瞬殺できるくらいにな」
バンじぃは身を低くして、視線の高さをリッドに合わせた。
「わしが鍛えてやろう」
リッドは意外そうな目でバンじぃを見た。
だが、その意外そうな目はすぐに固い決意の目に変わった。
「よし」
バンじぃはリッドの目の変化を感じとった。
そして彼に背を向け、朽ちかけのドアに向かう。
「ついてくるがいい」